261.強がり


シャムが雑貨屋クローバーに勤め始めてそろそろ1年が経つ。


今日はシャムが、彼女の両親と話し合って今後どうするかを決めるらしい。

前回同様、俺は部屋から追い出されたので、どうなるかは後からしか分からないのだが。



「猫よ」



メガネをかけた元貴族、スペンサー君が話しかけてくる。


一時期太っていた彼は、ヨツバの指定する食事制限や運動によって、元通りの体格になっている。



「シャムの両親は、彼女を心配しているのだな」



そりゃな。自分達の娘だもんな。



「一方の吾輩の両親は、吾輩を売り飛ばして以来、音沙汰が無い。

この違いは何なのだ?」


「にゃー(知らん)」



家族を売り飛ばす者の気持ちなんて、俺には分からない。



タイプライターで『子どもよりお金や、自分達の方が大事、ってことなんだろう。

長年育ててきたというのに、愛着は無かったのだろうか』と打つ。


「吾輩は乳母によって面倒を見られていた。

両親からしたら、吾輩なぞ他人のような感覚だったのやもしれぬ」



スペンサー君いわく、その乳母すら、家が貧窮したせいで給料が払えなくなり解雇したそうだ。

その後すぐにスペンサー君を売り飛ばしたとか。



「ま、今となっては両親も乳母も他人、なのだがな」



そう呟くスペンサー君は、寂しそうな顔をしていた。

俺は商品棚に昇り、スペンサー君の頭をなでなでしてやった。



◇ ◇ ◇ ◇



シャムと両親の話し合いが終わったらしい。


シャムの両親は、パン屋に興味のある後継者候補を1人雇っているそうだ。

シャムが戻る気が無いのなら、その人を正式に養子にして育て上げるらしい。


そしてシャムは、雑貨屋を選んだそうだ。



「勘当したわけではない。辛くなったらいつでも戻ってきなさい」


「娘をよろしくお願いします」



両親はスペンサー君とリオン君、オリバー君に頭を下げて、雑貨屋を出た。


スペンサー君は何か言いたそうにしていたが、首を振って、倉庫番に戻ってしまった。



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