260.良く分かんない


宿屋の管理人室にて。

ネルは羊毛フェルトで人形を作ったのを見せてくれた。

ヨツバは昼寝中だ。


猫毛?

今年は集まり具合が悪いから駄目だ。

それに羊毛の方が染色の種類が豊富だしな。



「これはエルフのおねーちゃん!」



ふむ、金髪の人形だな。

アウレネか。



「こっちはしわくちゃのおばーちゃん!」



白髪の魔女っぽい人形。

これはシルフ婆さんか。



「ママに内緒で届けに行くんだー。

えへへ、喜んでくれるかなぁ」



え、届けに行く?

森に行くつもりなのか?


森の安全面については大丈夫だ。

ただ問題は……



◇ ◇ ◇ ◇



翌日。


ネルは俺の自宅に来ていた。

アウレネとリリーも居る。



「わ~、ネルちゃん久しぶりです~」


「エルフのおねーさん、これどうぞ!」


「お~、人形です~!

これ私ですか~?

ありがとうございます~」


「しわくちゃのおばーちゃんのも作ったんだよー。

今はお出かけ中?」


「……」



アウレネの笑顔が凍りつく。



「(ぼそっと)にゃんこさん、ネルちゃんに言ってないんですか~?」



俺は首を振る。



「(ぼそっと)え~、どうするんですか~、私上手く説明できないですよ~」


「さっきから何の内緒話してるのー?」


「え? あはは~」


「もしかして……おばーちゃん死んじゃった?」



迂闊だった。

ネルは勘が鋭いんだった。


いや、どのみち隠し続けることなんて出来なかったわけだが。



◇ ◇ ◇ ◇



ネルは人形を、墓の前に置いて祈った。



「……」



しばらくして、祈り終わったらしい。



「……ばいばい、しわくちゃのおばーちゃん」



それから、ネルはしょぼしょぼと歩いて帰ってしまった。


その後ネルは、色んな人に「死って何?」

と質問して、様々な答えを聞いて、良く分かんないと頬を膨らませていた。


まあ11歳で理解できないよなぁ、俺だって理解できないもん。



◇ ◇ ◇ ◇



「けっ! あの小娘、誰がしわくちゃじゃ!」


「あのー、そろそろ今日の魂の治療を開始するので、【記憶サルベージ】のモニタを消してください」


「待たんか、あとちょっとだけ小娘の様子を見てから……」


「はぁ……」



ここはハーディス様の仕事場。

通称、魂監獄。


死後の魂で、治療が必要な者達が閉じ込められている。

その個室。


小言を言いつつも、ニヤニヤしながら冥界から現世を覗き見するシルフ婆さんに、ハーディス様はため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る