239.気分は新聞部


あれから数カ月。


雑貨屋クローバーに図書コーナーが追加された。

出版ギルドの連中に製本してもらい、それを仕入れ並べている。


図書コーナーは一般向けと貴族向けの2種があるが、一般向けの売り上げは芳(かんば)しくない。

貴族向けはどうだって?

あいつら目新しい物が好きなのか、すごい勢いで売れたぞ。

ただいま増刷中、入荷待ちだ。


そうそう、図書館の話を軽く出版ギルドに話したら、ギルド幹部達が飛びついて来た。

大量購入する約束をしたから、図書館はあと1~2年もすれば解放できそうだ。



「にしても、旦那が仕入れた一般向けの本、売れねーな」


「仕方ないわぁ。だって文字を覚えたところで、使う機会なんてほとんどないからねぇ」



リオン君とシャムの雑談に耳を傾ける。

なるほど、使う機会が無いというのが問題か。

日本人が英語使わないせいで英語苦手なのと同じだな。


ならば文字を使う機会を増やせばいい。


というわけで、今日も出版ギルドにお邪魔しに行くとしよう。



◇ ◇ ◇ ◇



出版ギルド内では、タイプライターや活版印刷の機械がガッチャンガッチャンうるさい音を立てていた。



「これは大魔導士様! 本日はどうされました?」


「にゃー(ちょっとこれを見て欲しい)」



俺が渡したのは、新聞についての案だ。



「シンブン……?

情報屋やスパイが行っているような事を、我々が行うのですか?

失礼ですが、そのような事をして我々に何の利益が?」



新聞は国民的な読み物として売れること、歴史的資料として役に立つこと。

他にも情報操作の側面もあること、などを伝える。

ん? 情報操作は利益じゃないな、まあいいか。



「ふむ、聞いただけでは胡散うさん臭い話ですね。

それに、以前民間向けの本を出版するようにおっしゃいましたが、売れ行きは不調ですよね?

そのシンブンとやらも、こう言ってはあれですが、売れないのでは?」



話し合いは難航し、結局説得は失敗。

うーん、本の売れ行きの話を出されると反論出来ないなぁ。


仕方ない、週刊新聞を雑貨屋で自作して、壁に貼るとしよう。

雑貨屋のメンバーや、ネル、森のエルフ達にも協力してもらうか。


こうして雑貨屋の壁に、医療コラムに加えて壁新聞が追加されることとなる。

各自が好きな記事を紙に書き、それを大きな紙にのりで貼る。

気分は小学生の新聞部だな。


客の貴族の1人がこの手作り新聞を見て、売れると思ったのか、自分の持つ商会で手作り新聞を発行し始める。

それを真似してバロム子爵を始めとする貴族も新聞商会を作り出す。


結果、王都に10を超える新聞商会が出来ることとなる。

ま、そのうち6つは早々に潰れるのだが。


いずれそんなことになろうとは知らず、雑貨屋クローバーには相変わらずお粗末な手作り新聞が壁に貼られていた。

当初の目的である識字率上昇はなかなか厳しいみたいだが、民間向けの本も少しずつ売れてはいるので良しとしよう。


ご意見箱はどうなったかといえば、貴族が欲しい商品を書いてくるようになった。

大魔導士様の人形が欲しいとか書いていたのもあるが、俺は本人を見たことが無いので作れないんだよなぁ。

代わりにエセ大魔導士である俺の姿の人形を置いておこう。

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