216.店員紹介


・リオン視点


今日の店番が終わり、俺はオリバーとシャムさんを連れて森へ入る。


そして、簡易テント内で計算練習だ。


シャムさんは要領が良く、昨日のうちに仕事を覚えてしまった。

おまけに文字も書けるという。

なので、教えることといったら計算くらいしかない、のだが。



「5000Gの商品7つと、2300Gの商品3つと、9800Gの商品1つでいくら?」



パチ、パチ、パチ。



「51700Gねぇ」



そろばんで計算を済ませてしまう。



「正解。もう教えることがねーや」



参ったな。

旦那にはシャムさんを教育するように言われているのに。



「ねぇ、雑貨屋クローバーのことを教えてくれる?」


「ん? 出店で働いたあんな感じで、店もそれほど変わらないぞ?」


「お店の店員のこと、良く知らないのよねぇ」



そういえば、そうか。

それくらいなら教えられる。



「まず雑貨屋クローバーの店長、猫の旦那とヨt……げほっ!」



俺の首に付けた奴隷の首輪が絞まる。

そういえば奴隷契約で、旦那とヨツバ姉さまの秘密は順守するってあったな。

旦那は身元を隠していないみたいだが、ヨツバ姉さまは隠しているのか。



「大丈夫ぅ?」


「悪い、店長は2人居るんだが、片一方については奴隷契約で喋れない」


「じゃ、もう一人の店長の猫の旦那っていうのは?」


「昼間、荷車で昼寝していた、あの猫だ」


「なるほどねぇ。察するに、もう一人の店長の使い魔の猫、ってところかしらぁ。

ネルちゃんの宿屋でよく見かけるから、宿に長期宿泊している客の誰かってところかしらねぇ?」



シャムさんの推測は当っていないが、あながち的外れでもない。

女の勘って怖いな。



「次に、あそこに座ってる茶髪のエルフがオリバー。

旦那が俺に雇ったボディガード」


「へー。ボディガードってことは、奴隷のリオン君ですら狙われるほど儲けがあるってことぉ?」


「まあそんなとこ」



本当は盗賊騒ぎの一件がきっかけで旦那が雇ったのだが、わざわざそれを言って心配させなくてもいいや。



「あの銀髪エルフは大工さんねぇ」


「店員じゃないけどな。チャールズって言って、訛りが強いエルフ」


「それから、あそこに旦那の家があって、コーディさんも居るはず」



俺達はハシゴを昇り、ウッドハウスのドアをノックする。

反応が無い。

中を覗く。



「……出かけてるな」


「旦那って、猫さんのことね? 自分の家を持ってるなんてすごいわぁ。

よっぽど優秀な使い魔なのねぇ」


「……」



そういえば旦那って何者なんだろうな。



「コーディって人は何者なのぉ?」


「研究者らしいけどよく知らない。

旦那が雇ったらしい」


「猫に雇われるなんて、変わってるわねぇ」



俺やシャムさんも、その猫に雇われているわけなのだが。

気付いてないのだろうか。



「リオン少年、魚が焼けたぞッ!」


「おっ、飯か。シャムさんも行こう」


「はぁ~い」



俺達は席に着き、焼きたての川魚を頬張る。



「うめぇ!」


「焼いただけだと味気ないわねぇ」


「文句があるなら食うな小娘ッ!」



皆で騒いで食事をすると、何だか家族になった気分だ。

恥ずかしいから、そんなこと口が裂けても言わないけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る