171.リオン泣く
「気付いておったかな? 大魔導士殿
実は私も、あなたに世話になった一人なのだよ?」
クレイ王はヒゲをさすりながら言う。
そういえば、ヒゲ面の連中に猫タッチしたこともあったような気がする。
いちいち相手のことなど覚えていないが、あれはクレイ国の住人だったのか?
「どうかね大魔導士殿。私の国に来ないか?
そこのケチなフランベル王の2倍の報酬を払うぞ?」
「に、2倍だと?!」
クレイ王の言葉に、フランベル王が驚く。
「左様。此度の疫病、大魔導士殿の尽力がなければ国が5つ6つ滅んでもおかしくない状況だった。
つまり、国1つ差し出しても惜しくないほどの功績をなさったということだ。
だというのに、その大魔導士殿の対して、たかがこの程度の報酬を出し渋っている。
呆れて物も言えぬとはこのことよ、フランベル4世よ」
「「「……」」」
クレイ王の言葉に、誰も反論しなかった。
他国のとはいえ王様だから、恐れ多くて何も言えなかっただけなのだろうけど。
「どうかね?」
『いらん』と打つ。
「なっ?!」
俺自体は、報酬についてはそれほど興味が無い。
だが、親身になって手伝った兵士たちへの感謝の気持ちを示すために。
そして、俺の忙しい間に店を守ったヨツバやリオン君、寂しい思いをさせたネル達へ恩返しするために報酬を貰うのだ。
つまり、俺がこの国を出て行ったら意味が無くなる。
「……払おう。そこに記載された全て、フランベル4世の名の元に払おう」
「私は2倍」
「これは我がフランベル国の大魔導士殿への褒賞の取り決めだ。
関係のないよそ者は黙ってもらおう」
「くっ……大魔導士殿、外に貴君への個人的な感謝の気持ちを載せた荷車を停めてある!
それだけは是非受け取って欲しい!
では私はこれで失礼する!」
クレイ王はマントを翻し、去ってしまった。
俺は褒美の品々を貰う約束の書類にサインし、城を出ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
クレイ王の指定した荷車に積んであったのは、大量の金貨や白金貨、そして宝石だった。
他に、ドワーフ族に伝わる金属製法の本などが積んであった。
荷車を四次元空間で仕舞い、雑貨屋クローバーへ向かう。
「旦那、久しぶり。オリバーから聞いたぞ。
多くの人を疫病から守る大仕事をしてたんだってな。
お疲れ様」
タイプライターを取り出し『そっちこそ、店番ご苦労さま』と打つ。
リオン君に、クレイ王から貰った本を渡す。
俺には不要な物だ。
ドワーフ族のリオン君の方が有効活用できるだろう。
「この本……でも、俺は道具も炉を持ってないから鍛冶は出来ねーぞ」
『鍛冶したいか?』と打つ。
「ああ、出来るのなら。
鍛冶はドワーフ族の誇りだからな。
親が死んでからは、ずっとハンマーを握ってねぇが」
『必要な道具は買ってやる。
店の周りの土地が貰える約束だから、近いうちに炉も作ってやるよ。
金属、武器兵器取り扱いの権利も手に入れたから、リオン君が作った物を店で売ることも出来るようになるだろう』と打つ。
「旦那……俺、鍛冶してもいいのか?
スリをして奴隷落ちしたような俺が、もう一度ハンマーを握ってもいいのかな?」
『若いんだから、やりたいことは何でもすればいい。
オリバー、俺は森に戻るからな』と打つ。
「うむ、またなデブ猫ッ」
俺は店を出る。
◇ ◇ ◇ ◇
「リオン少年、何故泣いている?」
「ぐす……うるせーよ」
「悲しいことがあるなら、相談に乗るぞッ」
「あんた空気読めないって、よく言われるだろ」
「何故知っているッ?!」
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