142.話し合い



王様に対してフランベルジュが魔法で攻撃を仕掛けた。

それをシルフ婆さんが止めた。



「ふぇっふぇっふぇ! 久しぶりよのうフランベル4世よ。

21年ぶりくらいかのう。そしてガーゴイルよ、身勝手を言うておるのはお主の方じゃ。

自分が気にいらないからと言って、暴力で解決しようとするのはいかんのう」



シルフ婆さんが物陰から姿を現し、フランベルジュと王の間に割って入る。


一瞬の静寂の後、その場に居た貴族達が騒ぎ出し、逃げ出す者もあらわれる。


アウレネはどさくさに紛れて、エルフの奴隷たちを外へ連れ出したようだ。


俺は、シルフ婆さんとフランベルジュが暴れ出しそうなのを止めるために、飛び出す。

このマントと仮面はもう要らないな。脱ぎ捨てるとしよう。



「にゃー(まあ落ち付け、フランベルジュ)」


「キュオオオン!(不思議猫よ! これが落ち着いていられるか、なのである!

短い時間ではあるが、我とともに暮らした罪なき者が奴隷にされているのである!)」


「にゃん(そいつらは無事に救出したから。だからお前が怒る必要はもうないぞ)」



騒ぎを聞き付けたのか、勇者少年達が駆けつけてきた。

少年達は王様を護衛するように囲む。



「あんだぁ? 何があったってんだよ?」


「勇者殿! フランベルジュを名乗る石像が暴れ出した!

本物なら、国王様へ攻撃するなどありえないことだ!

やはり偽物であったか!」


「待て防衛大臣! この石像は紛れもなくフランベルジュだ!」


「キュオオオオン!(そこを退くのである不思議猫よ!

王を亡きものにすべく……)」


「にゃー(そぉい!)」



爪を使って、フランベルジュの両腕両足をカットすることにした。

このままだと、王様だけじゃなく国を滅ぼそうなんて言いかねないから、黙ってもらうことにする。



「キュオン!(わ、我は不滅である。このような)」


「にゃー(次は首を落とそうか?)」


「キュオオオン(待つのである。話し合いをするのである)」



フランベルジュが落ちついたみたいで、ようやく話し合いが出来るようになった。



◇ ◇ ◇ ◇



フランベルジュは期待し過ぎていたのだ。


自分が見ていない間に、国がどれだけ素晴らしく変わったか。

新たな国王が立派か、盟約がきちんと順守されているか。


旅行や食べ歩きでもよくあることだ。

期待し過ぎた結果、実際大したこと無くてがっかりしたみたいなことが。

人生そんなものだ。

フランベルジュの場合、竜生か。


それで期待を裏切られキレた、ということだ。



「ふん、馬鹿馬鹿しいわい。そんな理由で暴れるとは子どもかっ」


「キュオン(だって、である)」



勇者少年達は、政治の面倒事はご免だとばかりに、どこか行ってしまった。


ここには王様とバロム子爵、俺、シルフ婆さん、フランベルジュ、防衛大臣さん、そして兵士と、野次馬根性丸出しの貴族だけが居る。



「それでフランベルジュよ、どのような形にすれば納得していただけるだろうか?」



王様がフランベルジュに尋ねる。



「キュオオオン!(そこの貴族は我の友人を奴隷として扱ったのである。重罪である)」


「ではバロム子爵は爵位没収だな」


「横暴です王様!」



バロム子爵が王様に迫ろうとして、兵士達に捕まえられる。



「この度の騒動の元凶となったそなたは、爵位と財産没収ならびに牢獄で拘留3年の刑に処す」


「私が何をしたというのですかー!」



バロム子爵が連れて行かれた。

さすがにこれは文句言わなきゃ。



『爵位没収は免除、財産は半分だけ没収、拘留期間は1ヶ月だ』と書く。


「大魔導士殿、さすがにそれでは、建国の恩あるフランベルジュを怒らせた罪にしては軽すぎる」



王様が言う。



『おいおい、バロム子爵に罪を押しつけておいて、自分は知らんぷりか?』と書く。


「キュオオオン!(そうである! 騒動の原因となった、砂糖の原料栽培を制限する法律を取り消すのである!

それが無くなれば罪なきエルフを奴隷にする者は居なくなるのである!)」


「たわけガーゴイルめが。エルフを奴隷にする口実が、そんな法律たった1つのはずがないであろうに」


「ギクッ」



王様は冷や汗を垂らしている。



「キュオオオン!(エルフを奴隷にするための法律を、全部取り消すのである)」


「むむ……さすがにそれは……」


「フランベル4世よ、調子に乗るでないぞ。

ここにいらっしゃるバステト様の好意が無ければ貴様は死んでおったのじゃ。

バステト様が話し合いを望んでいるというのに貴様にその気がないのなら、今すぐ女神ハーディスの元へ向かうかの?」


「話し合い? ただの脅しではないか……」


「ふぇっ、ふぇっ、ふぇ!」



王様は、法律を変えるための審議文章を書きつつ、バステト様とは誰だ? と小声で呟いていた。


その後、フランベルジュの体は変性錬成できちんと元通りくっつけてやった。




この日、エルフ族に不利となる法律が全て撤廃された。

建国に関わった聖竜が自ら異議を唱えたというので、誰も逆らわなかった。


同時に、バロム子爵から砂糖商売を独占する権利が没収されてしまった。

これによって、砂糖に関する栽培、販売、輸入輸出の制限が撤廃されて商人達が歓喜した。

これからは砂糖を安価で購入することが出来るだろう。


ちなみに、あの場にいた貴族達は領地へ帰って、出来事を自分に都合の良い解釈で、友人や家族に話した。

フランベルジュは呪いで石像になったが、国の将来を憂いて、使い魔の猫を連れた魔女とともに国政に意見しに来た、と。


数週間すると、噂は尾びれ背びれが付いて広まり、巷では使い魔を連れた猫の物語が本になっているらしい。

俺も読んでみたが、もはや本人達の面影すら無かった。

誰だよこの人物と猫。

挿絵のシルフ婆さんが若いし、俺細いぞ。


なお、フランベルジュは、国王の顔なんぞもう見たくないというので、森に籠ってしまった。

しかし、最近寂しがり始めた。面倒臭い性格だなコイツ。

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