141.ブレイク・ザ・スペル!


1軒目。俺が世話になった奴隷商館。


店員と客をアウレネが魔法で眠らせる。

シルフ婆さんの高圧電流で牢屋の檻が溶ける。


エルフ奴隷は、皆首輪を付けていた。



「よし、一列に並ぶのじゃ。

『儂はあらゆる魔法を破壊する。ブレイク・ザ・スペル!』」



バキンという音とともに、エルフ達の首輪が壊れて外れた。



『【奴隷契約】スキルって、こんなに脆いのか?』と書く。


「儂の魔法破壊魔法が強すぎるだけじゃ、ふぇっふぇっふぇ!」



シルフ婆さんが高笑いする。

魔法破壊魔法はシルフ婆さんの編み出した、誰も真似出来ないオリジナルスキルらしい。

普通、【奴隷契約】は契約主でなければ解除出来ないとか。


アウレネはエルフ達にローブを配っている。

そして、これで身を隠しながら森へ向かうように指示する。


俺達は奴隷商館を飛び出し、捕まっていたエルフ達は森へ、俺とアウレネとシルフ婆さんは次の奴隷商館へ向かう。



◇ ◇ ◇ ◇



2軒目の奴隷商館では、見張り番をシルフ婆さんが殺しかけたので、俺が【ヒール】で治しておいた。


3軒目の奴隷商館では、1軒目2軒目が襲撃された情報が伝わっていたのか、冒険者達まで待ち構えていた。

アウレネとシルフ婆さんの敵ではなかったが、俺は18人も【ヒール】するはめになった。



「次はいよいよお城です~」


「捕まったエルフのうち、肝心のバステト様の森の集落のエルフ3人は見つけられなかったのう。

彼らは既にどこかに売り飛ばされたのじゃろうか?」


『城に居るみたいだぞ』と書く。

俺の【探索】スキルで分かる。

城から反応を感じる。



◇ ◇ ◇ ◇



・フランベルジュ視点



我はテーブルに用意された料理を食べるのである。

もちろん犬食いではなく、きちんと手を使って食うのである。



「キュオオオオン!(うむ、美味である!)」


「お気に召していただけたようで何よりだ」



現国王が我の食事を見て、ほっとしているのである。

国王は王族なので、我の念話が通じるのである。

他に我の念話が通じるのは、レベルが高い実力者くらいなのである。


我の元には、貴族が献上品として食べ物や宝石、特産物などが次々に運ばれてくるのである。

貢物は久々である。やはり聖竜はこうでなくては。



「キュオオオオン!(おお、そうである!

王族よ! 我からのささやかなプレゼントである!

昔世話になった礼である! 受け取るのである!)」



我はダンジョンで入手した宝を【四次元空間】で取り出し、王の目の前に積み上げるのである。

それを見た貴族達は目の色を変えるのである。

お前達には借りはないから、何も与えないのである。



「ありがたく頂戴する」


「キュオン!(うむ!)」



それにしても、貢物の中にはドワーフの奴隷やブラウニーの奴隷みたいなのまであったのである。

我は要らないと突き返したのである。

墓に埋められていた時ならともかく、今は自分の生活くらい自分で何とか出来るのである。

余計なお世話なのである。



「フランベルジュ様、次はバロム子爵の貢物だ」


「キュオオ……キュオン?(どれどれ……むむ?)」



砂糖と、エルフの奴隷である。

……不思議猫の家の近くで暮らしていたエルフではないか。



「あー! 石像さんだ!」


「バステト様が管理していた竜の石像?」


「どうしてここに?」



……。



「キュオオオン!(おい国王。何故彼らが奴隷になっているのである。

建国時に盟約を立てたのを忘れたのであるか。

敵国の捕虜と、犯罪者のみ奴隷とすることを許可する、と。

まさか何の罪もない者を奴隷にしている訳ではあるまいな?)」


「バロム子爵、説明を」


「いや、彼らは違法栽培をしていまして」


「キュオン!(何の?)」


「それは、デザートアプルです」


「キュオオオン(なるほど)」



国王とバロム子爵とやらはホッとしているようだが、



「キュォォオオオオオオオオオオオオン!!(そんな横暴を認めるとでも思ってるのであるかぁー!

エルフ族の文化を否定する法律を勝手に作り、それを理由に奴隷にするとは、何と身勝手である!

こんなふざけたことを許すとは、誇り高きフランベル1世の子孫は出来損ないであるか!)」


「なっ……?!」


「キュオオオオオン!!(この国には失望したのである!

これほど醜い国なぞ、もはや存続させる価値もないのである!)」


我は盟約をおろそかにした国王とバロム子爵とやらを亡きものにするため、灼熱魔法を放つ。



「『儂はあらゆる魔法を破壊する。ブレイク・ザ・スペル!』」



王と子爵は高熱で溶けるはずであった。

が、誰かが、我の灼熱魔法を打ち砕く。

同時に奴隷の首輪が外れる。



「キュオオオン(老婆……)」


「馬鹿な、魔王シルフだと?!」


「ふぇっふぇっふぇ! 久しぶりよのうフランベル4世よ。

21年ぶりくらいかのう。そしてガーゴイルよ、身勝手を言うておるのはお主の方じゃ。

自分が気にいらないからと言って、暴力で解決しようとするのはいかんのう」



何と、我の前にシルフ老婆が立ちふさがった。

暴力で解決するな、と、どの口が言うのであるか。


そして、ローブに身を包んだ仮面の小さな獣人も立ちふさがる。

いや、こやつはもしや……。



「にゃー(まあ落ち付け、フランベルジュ)」



ローブと仮面を脱いで現れたのは、茶トラの太っちょ猫。

不思議猫だった。

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