132.密会の潮時


宿の夕食が終わり、ナンシーさんが後片付けしていると、扉が開いた。



「いらっしゃいませ~、あら、ニコさん」


「どうも」



マック君だ。ナンシーさんの挨拶もそこそこに、まっすぐこちらへやって来た。

話があるというので、マック君の部屋へ付いて行く。

ネルもついでに付いてくる。



「酷いじゃないか猫さん。店を始めるなんて聞いていないよ」


「お店?」


「ああ、そうさネルちゃん。猫さんはボクらに黙って商売を始めたんだ。

ほら、この鉛筆もどき、その店で買った物だよ」



いつの間にか“鉛筆もどき”が正式名称になってしまっている。

まあいいけど。



「私も欲しーい」


「ほら、あげるよ。店にあるのは全部買い占めたからね」


『何やってくれてんだ?!』と書く。



手作業で数十個ほど作った鉛筆もどきは、全部マック君の手元に渡ってしまった。

色んな人に行き渡るのを期待して、たくさん作ったというのに。


リオン君は掛け算が出来ないとヨツバが言っていた。

まとめ買いをする客を想定していなかったから、彼には悪いことをしたな。

今度時間のある時に、掛け算を教えるとしよう。


そして、購入個数の制限を設けなければ駄目か。

1種類につき、おひとり様3つまで、とか。

2個、3個の場合の価格を、値札に追加しておくか。


というかマック君は無駄遣いせず貯金すべきだ。

この年齢で金使いが荒いと将来が心配だ。


俺はマック君に貯金と節制の大切さを説く。

ヨツバと違って聞き分けが良いのか、マック君は、自重して貯金すると言った。


って、俺が高い家庭教師代を受け取っているのも問題だな。

金には困ってないから、今度から受け取らないようにしよう。


にしても俺、最近説教ばかりしてるなぁ。

猫になっても、やはり心は41のおせっかいなオッサンということか。



「でも、つれないじゃないか猫さん。

商売に興味あるなら、ボクも手伝っていたのに!」


「私も手伝うー!」


「よーし、ネルちゃん、今からその店に突撃だ!」


「おー!」



俺はマック君に持ち上げられ、ネルが一緒に宿を出ようとする。

しかし、ネルはナンシーさんに止められた。

こんな時間に外出とは何事か、と。


ネルが行けなくなったので、マック君も宿に戻る。

明日、一緒に行くことになったそうだ。


もちろん俺は明日、森に帰るけどな。

その前にヨツバと密会することになるだろうが。


……深夜は眠いんだよなぁ。

ヨツバも大きくなったし、もう密会は終わりにするかな。

今夜ヨツバに言うか。

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