48.どうも、怪しい者ではありません



深夜、俺がお供えした竜型の石像は、串肉を食って、喋った後、飛んで行った。

自分でも何を言っているのか分からない。


ずっとビクビクしていたため、俺は寝不足で翌朝を迎えるのだった。



「う~ん、おはようございます~。

あれ? 石像が無くなってます~?」


『あれなら飛んでいったぞ』と書く。


「ほ~! あれはにゃんこさんの作ったゴーレムだったのですか~!

凄いです~!」


『いや、違う。フランベルジュの幽霊が乗り移ったみたいだが』と書く。


「幽霊なんて迷信です~。そんなもの居ませんよ~?」



そうか。

幽霊なんていないのか。

良かった良かった。


……じゃあアレは何だったんだ?!



「にゃんこさん、さっきから面白い顔をしてますけど、どうしました~?」



きっと寝不足のせいで、変な幻覚でも見ていたのだろう、うん。


そう思って、俺達はまた家の様子を見に行くことにした。



◇ ◇ ◇ ◇



家周囲には、何だかたくさんの兵士がいた。

お、勇者とか呼ばれている少年少女3人も居る。

マック君まで居るぞ。



「それで、ニコ様。本当に……その、大魔導士なんて居らっしゃるのでしょうか?」


「何だい? ボクが嘘をついているとでも?」


「いえ、我々がこうして見張っている間も、それらしき者は見当たりませんでしたが」


「ああ、そりゃそうだろうね」


「気配探知に引っ掛かったわよ。猫が1匹、亜人が1人、向こうの茂みに隠れているわね」


「亜人?! エルフか!」



おっと、勇者3人とマック君がこちらに近づいてくるぞ。



「……にゃんこさん、私、逃げてもいいです~?」



俺はアウレネの足を掴む。



「ぎゃ~! 私殺されます~!

いや、いっそこちらから射ぬいてやります~!」



アウレネが少年達に弓を向けたのを、猫キックで弾き落とす。



「にゃんこさん、どうして邪魔するんですか~!」


「そこに居るのは分かっているぞ、クソエルフ。

殺してやるから出てこい」



おいおい少年。

気軽に殺すとか言っちゃ駄目だぞ。

命は尊いものだ。


アウレネの弓を四次元空間で没収した後、俺は姿を現す。


『どうも、怪しい者ではありません』と板に書いて。



「「「怪しいわ!」」」



おかしいな? 勇者少年達の警戒が増したような気がする。



「ふざけやがって、このクソ野良猫。

殺してやる! 『光を纏え。現れよ聖剣!』」



何だか光る剣をどこからか取り出す少年。

鑑定してみよう。


――――――――――――――――――――――――

鑑定結果

【聖剣Lv30】

説明:どんな物体でも切ることが出来る聖剣が手元に現れる。

使用可能時間はLvに応じて増える。

――――――――――――――――――――――――


ほー。

多分スキルってやつだろう。

どんな物体でも切れるとか、色々と便利そうだ。


って、何で俺を切ろうとしてるんだろうな?



「おらぁああああ!」



振り下ろされた光る剣をひょいと避けて、股抜けして、後ろから膝に猫パンチだ。


ゴキリ! と嫌な音が鳴った。

やば、手加減したのに、足りなかったか。



「ぎゃあああ痛ぇえええええ!」



……これ、腹や背中殴ってたら死んでたな。

だが向こうから仕掛けてきたため、同情したりはしない。

俺は痛がって倒れている少年の背中に乗っかる。



「ちょ、勇者さん、何やってるんだい?!

その猫さんだよ! ボクが言っていた大魔導士というのは!」



マック君が駆け寄ってくる。

騒ぎを聞きつけ、兵士達も集まってくる。



「勇者様! ニコ様! こ、これは一体……」



俺は再び板を取り出す。

『どうも、怪しい者ではありません』



「「「怪しいわ!」」」


「皆さん! 落ち付いて!

その猫さんは敵じゃないから!」



マック君の叫び声で、兵士達が剣を降ろす。



「それじゃ、そこの茂みに隠れているエルフは?」



勇者少女が尋ねる。



「敵だね」


「うわぁ~ん! 酷いです~!」



アウレネは逃げて行った。

兵士が追いかけているが、彼女に追いつくのは多分無理だろう。

アウレネの方が森を熟知しているだろうから。



「ごめんよ、猫さん。

まさか勇者がこれだけ短慮な馬鹿だとは知らなかったからね……」


「あぁ?! 誰が馬鹿だと?!

俺は勇者だぞ!」


「確かに、こいつ馬鹿よね」


「……もしこの猫が敵なら、命を取られているはず。

つまり、味方か、少なくとも中間勢力……」



俺は勇者少年から降りて、ついでにヒールをかけてやり、板に書く。

『それで、俺に何か用か?』と。



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