45.心霊現象?



茂みで隠れていたけど、腹が減ったので、場所を変えてBBQすることにした。

アウレネも付いてきている。



「あの人間達、しばらくあのまま張りついているでしょうね~」



俺が結界とやらを壊さなければ、こんな事態にはならなかったのだろう。

別に悪いとは思っていないが、ちょっと不便だな。


BBQする場所を見つける途中で、枯れ木をいくつか調達し、開けた場所に出る。


そこには、ぽつりと墓が1つあった。

『古竜フランベルジュ ここに眠る』と書いてある。



「フランベルジュ? そんな竜、聞いたことないです~」



この国の建国に関わった聖竜、という話を、ニコの小説にちらっと書いてあった。

それにしては花の1つも供えられていない、寂しい墓だ。


どれどれ、俺がお供え物をしてあげよう。


俺は焼き粘土製コップに水を注ぎ、墓に置く。

花を適当に採ってきて、ゴールデン鉗子で花飾りを作って、水の隣に置く。


あとは……イノシシもどき肉の串焼きにしよう。

何本か作り置きしてあるヤツの1本を四次元空間から取り出し、置いてやる。



「にゃんこさん、夕食にしましょ~」



アウレネは、いつの間にか矢で大きな鳥を射たらしい。


そうだな、ここで飯にしよう。


俺は石をコの字に並べて、枯れ木を置き、その上に削った木を乗せて、溶岩を垂らして着火する。


アウレネが狩った鳥を爪で解剖し、肉を竹串に刺し、かまどに突き立てる。

イノシシもどきの肉も同様に串焼きにする。


俺は最近、肉を調理しているが、寄生虫の感染が減れば長生き出来るかもしれないと思っての行動だ。

味は生の方が美味いのだが、食い意地を張って寿命を縮める必要もない。


鳥肉の串を食べる。


うむ、美味い。

イノシシ肉ばかりじゃコッテリし過ぎだからな。

たまにはさっぱりした鳥肉もいいものだ。



「はふ、はふ……」


「キュオオオオン(美味である)」



ん? 墓にお供えしていた串焼きが無くなっている。

野生の魔獣がかっぱらったのだろうか。


それに何か声が聞こえたような?


まあいい。

俺は鳥肉を一切れ、墓に置く。


鳥肉は一瞬で消えた。



「にゃー!(ぎゃー?!)」


「どうしました、にゃんこさん」


『心霊現象が起きた!』と書く。


「心霊現象?」


『俺のお供えした肉が消えた』と書く。


「そんな物お供えしてたら、バッドクロウあたりが盗りにきますよ~」


『いや、目の前で消えたんだって!』と書く。


「またまた~」



アウレネは試しにと、イノシシ肉を一切れ供える。

しかし、肉は消えない。



「ほら、消えないです~」



そんな馬鹿な。

いや、これが普通なのか。



「食べたから、また家の様子を見に行きますよ~」



俺は納得行かないまま、墓を後にする。


振り返ると、黒いカラスの魔獣、バッドクロウが墓のイノシシ肉をかじっていた。


あれは俺の見間違いだったみたいだ。

きっと日ごろの疲れが溜まっているのだろう、うん。



◇ ◇ ◇ ◇



・???視点



骨になり、墓に埋められたが、別に死んだわけではないのである。


気絶してる間に、ちょっと肉体を失い、霊体になっただけなのである。

自縛霊になったのか、ここから動けないのである。


霊力も弱まりつつあるのである。

最近はお供え物が少なかったからである。


いや、それだけではないのである。

心底この我に供えようとした物しか、我は口に出来ないのである。

心のこもっていない供物は、我に届かないのである。


我を聖竜と崇めていた信心深い者は、寿命が尽きたのか、この頃は来なくなってしまった。


我も、もうすぐ冥王ハーディスの世話になるかと考えていた所に、あの串焼きである。

猫のくせに、なかなか気が利くではないか。


我は墓の前に字を書くのである。

『次は魔石が食いたい』と。


これだけで先ほど得た串焼きの力を失ってしまった。

燃費の悪い体である。


憑代よりしろでもあればいいのであるが。

しまった! それを要求すればよかったのである!



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