第18話花の願い。光と食事が毎日。

 目が覚めると1日が経っていた。

 風邪もすっかり治っていた。なのに、もう1日休むように親父と電話越しで母さんに言われ学校を休むことになった。

 俺は一葉に


『治ったけど、大事とらされて休むことになった』


 というメッセージを送った。


『良かったぁ。放課後行くね』


 と嬉しさ満点のスタンプと共にすぐにメッセージが返ってきた。

 お礼は直接言いたいから、放課後。


 学校を休んでるのにどうかと思ったが、午後3時から働かせてもらえるよう頼み許可をもらった。渋々と。


 3時になって店に入ってすぐ紅葉さんにもお世話をかけたので謝った。常連客の人達も心配してくれていたのでお礼を言いながら接客をしていった。


 少々昨日の一葉との出来事を追求する人もいて困った。

 俺は一葉になんて事を。とにかく一葉が来たら変わらずにやろう。


 それから少ししてカランカランと扉のベルの音が鳴り、一人の美少女が来店した。


「文くん。本当に治ってたぁ〜」


 安堵して力が抜けたのか扉前で座り込んだ。


「い、一葉、とりあえず来たらどうだ?」

「うん。……あれ?……腰抜けた」

「ええ〜」

「文くん」


 構ってもらえないイヌネコみたいな表情で俺を呼ぶ。

 しかもそれが可愛いから困りものだ。

 まあ、そうじゃなくても助けるつもりだけどさ。


 結果、行き倒れることはなかったけど俺はお姫様抱っこで一葉をカウンター席運ぶことになった。

 そして、運ばれる本人は意識がしっかりした状態でのお姫様抱っこが二回目で顔を真っ赤にして縮こまったように大人しくなっている。

 いつもの場所は埋まってたけど、常連さんが座っていて隣に移動して結局いつもの席で一葉はいつも真ん中の椅子に座ってぐったりしてる。


「一葉、お腹減ってるだろ、何か作るぞ。今日は礼も兼ねて俺の奢り」


 直後、一瞬にして一葉は元気を取り戻し起き上がった。


「本当に!?じゃあねぇ…ナポリタンにオムライスに……」

「え、遠慮しないな」

「私に遠慮という文字はないんだゾ」

「普段はあるじゃん」

「普段は普段、今日は今日だゾ」


 左手で横ピースを決める。


「それに昨日文くんの料理食べてないからね」

「俺が寝たあとは?」

「紅茶飲んで帰ったよ」

「そうなのか。でも、何で赤くなるんだ?」

「え?あ、えっとそれは『きゅるるる』お願いします?」

「なるほど、分かった」


 一葉は頬を赤らめながらお願いする。

 俺はいつもより、気合いを入れて料理した。


「ほい、オムライス。ナポリタンは少し待ってくれ」


 既に一葉はオムライスに夢中で聞いていなかった。夢中になってくれるほど美味い事が分かって嬉しい。


 オムライスを食べ終わった少し後にナポリタンが出来たので渡した。


「ふみふん」

「一葉、まずそのリスみたいな頬を戻せ」


 可愛いが、頬張ってるから口籠って何言ってるか殆ど分からない。

 一葉はナポリタンを最後まで食べ、口周りのケチャップを拭いてから言った。


「文くん、いつもありがとう♪美味しいよ」


 向日葵ひまわりみたいな笑顔を満面に向けてくれた。

 不意の笑顔につい、見惚れてしまう。

 ハッと我に戻ると、一葉が覗き込むよう見ていて、もう一度お礼を言った。


「こっちもありがとう、一葉。昨日看病してくれて」

「当然!それに私、文くんのご飯じゃないと頑張れないから。だから毎日作ってね」

「頑張れないからって大袈裟だろ」

「ノンノン。文くんの食べる相手を思う気持ちが私にはピッタリ活力となるなのです」

「嬉しいけど、何か恥ずかしい」


 それに一葉の親に申し訳ない。


「えええ、誇ってよ」


 ジト目でじーっと見つめる一葉。でも頬がニヤニヤと少し緩んでる。

 目と口の感情の差が違いすぎる。


「ぷっ」

「な、何を笑っとるのかね」

「だって…くく…目と口の感情が余りにもち、違うから。どんな感情だよって思ったら…ぷふっ」

「……ひどい…ひどいよ文くん…私は本気なのに、活力になるのも誇って欲しいのに…ぐす」


 突然一葉は顔を手で覆いすすり泣く。

 でも、俺は見てしまった、見えてしまった。一葉が右手の中に小さな容器を隠し持っているのを一瞬だけ。


「一葉」

「ぐす…何」

「右手に持ってる容器は何だ?」

「………バレちゃった?」


 舌をちろっと出し、テヘっと右手に持っていた目薬を見せた。

 ちくしょ!これがめちゃくちゃ可愛いから憎めない。

 だから代わり、ではないけど俺は一葉の頭を軽く撫でる。


「一葉はズルいな」

「………ズルいのは文くんもだよ」

「な、何でだよ?」

「だって、こういう時って優しく撫でるんじゃなくて、乱雑に撫でるよ普通は!」

「仲良しの親子か!?」

「…仲良しじゃない?」


 上目遣いに聞いてくる。


「仲良しです」

「えへへ、良かったぁ…文くん」

「どうした?」


「…私ね、文くんと初めて会った日、探索したくて外に出たわけじゃないの……不安で、何処かに行きたかったんだ。本当は学校も行きたくきなかった」


 いきなりどうしたと思ったけど。

 それよりも内容が気になった。

 でも聞くのは野暮だ。


 話してくれるまで待とう。


「でも、行ったんだろ?」

「う、うん。文くんのお陰だよ。行き倒れてる所を助けてくれて、料理作ってくれて、おまけに家まで連れていってくれた。文くんがいれば大丈夫だって」

「…そっか」


 今となっては出会った日に一葉が抱いていた気持ちは分からない。勿論、学校に行きたくないって理由も。

 だから、俺のお陰と言われても実感がない。

 でも、これだけは分かる。


「だから文くん、誇って」


 誇るべきなんだろうと、


「ありがたく誇らせてもらうよ」


 親友として。

 予兆もなくいつの間にか…


 今目の前で笑顔を向ける、好きになっていた女の子の想いを無下にしないために。


「それじゃあ、文くん、デザートにコーヒーゼリーとスイポテのバニラベールよろしくね」

「まだ食うのか…あ、いや、それくらい食べるか」

「よくわかってるじゃないか。それに注文の途中」

「すまん。てか、他の頼まないのか?」

「少しずつね。それより文くんはよはよ」


 でも、俺の気持ちは言えない。


『そういうワガママは彼女に聞いてもらう』


 一葉が泊まりに来た日の夜に言った言葉。

 つまりはそういう事だ。


 俺と一葉はラブコメの定番の幼馴染という主人公とヒロインみたいな関係じゃない。

 ただの友達なのだと。


 それでも良い、それが良いのだろう。

 気持ちとは逆に今しっくりと来るのはこの位置関係な気がするから。


「私には水とご飯が必要なんだから」


 花かよ!


 一葉もこんな調子だしな。

 でも、いつか言えたらなんて思ってる。

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