第9話 実験 2
「クロゥさん、ここにお酢ってありますか?」
酢?あのすっぱい奴か?」
「あ、有るんだこっちにも。
それ少し頂けますか。」
「酢で何するんだ、まあいい。」
クロゥさんはすぐにそれを持って来てくれた。
一升瓶ぐらいの瓶に入ったそれを。
さっそくふたを開け匂いを嗅いだ。
「おぉ、これこれ。」
このツンとくるような匂い。
お酢に間違いないだろう。
「そんな掃除に使うような物、何に使うんだ。」
「掃除に使う?」
「あぁ、確か拭き掃除とか、マリアーヌが色々使っていたな。」
「食べないの?」
「そんなもの食えないだろう。
すっぱすぎるし、大体にして食えるのか?」
勿体なーい。
でも成分によっては食えない可能性もあるか。
後で原料とか確認しよう。
でも、取り合えず実験だ。
私はそれをハンカチに湿らした。
「ちょっと私の手元を見ていて下さい。」
私はそれで、鈍い色の銅貨を擦る。
コシコシコシコシ…………。
「見て見て。」
先ほどまで鈍く光っていたコインが、金ぴかに光っていた。
「これが化学ですよ。」
初歩だけどね。
「古い銅貨が新品同様になったな……。
確かにすごいが、魔法を使えばすぐ出来る事だろ。
どこが違うんだ。」
出来るんだ、簡単に………。
何か自分の無力さを、メチャクチャ感じる。
「えーと、取り合えず説明しますね。
ここでは魔法が使えない人と使える人がいるって言ってましたよね。
科学とは人を選ばず、やろうと思えばすべての人が行えます。」
手元にもう一枚、汚れた銅貨を引き寄せた。
「私は魔法が使えません。」
「まだ分からないだろう?使える可能性だって有る。」
「そうかもしれませんが、そう仮定しておいて下さい。
で、このお酢の成分は酸が入っています。
銅貨が光っていた時と比べ、鈍い色になったのは空気中の酸素と反応して酸化銅に変化した、つまり錆びたんです。
で、酸化銅が酢の酸性に反応して、このように元の状態にするんです。」
凄いでしょう。エヘンッ。
「確かに綺麗にはなったが、銅貨は銅貨だ。
汚くても価値が落ちる訳では無いぞ。」
…………。
「そりゃそうですね。
失礼しました。」
この世界には化学は必要ないのか……。
そう言や、化学以上の物も有ったな…………。
ドラ〇もん師匠、私はどうすればいいのでしょう。
虚無感にどっぷりとつかる。
「そう気を落とすな、汚いよりきれいな方がいいだろう。」
あぁ、慰めてくれるんですね。
でも言われるほど空しさが募るのは何故でしょう。
「もういいです。
私は最初の目的を実行します。」
そう、先輩の足跡を探すんだ。
「すいません。
私用に用意していただいた服を少しと、
それを入れる物をいただけないでしょうか、
ずた袋でも何でもいいです。
ついでにお金を少し貸して下さい。」
新品同様で返せない物は、いただくしかないだろう。
お金はそのうち返せるようになったら返しに来よう。
「やはり出て行くのか。
分かった、ドレスなどはお前用に用意したものだ、
残されても手間がかかる。
好きなだけ持って行け。」
そう言ってから、水晶を一つ取り、何やらぶつぶつ呟いた。
あれって、どうやらスマホみたいなものか?
もっと小さくなるといいのにな。
「今マリアーヌが来る。
その他の用意は彼女がしてくれる。
俺も用が出来たからな、席を外すが何か有ったなら呼ぶといい。」
「ありがとうございました。」
しかし、この世界の価値観が分からないから、
いくら借りればいいのか分からないな。
まぁ、マリアーヌさんにアドバイスを仰ごう。
やがて駆け付けてくれたマリアーヌさんが旅支度を手伝ってくれる。
まず取り出したのは、可愛い花模様の小さな袋。
クロゥさんの、例の袋に似ている。
「これはあなた専用の魔道具、収納袋です。
まず、これに効き手を入れて、オープンと仰ってください。」
やっぱりそうだったか。
もしかしてその作業は、ログイン用のIDみたいなもの?
私は言われるまま、手を入れてオープンと言う。
「これでこの袋はあなたしか使うことが出来なくなりました。」
セキュリティばっちりだな。
これが普通なら、解除方法を知っている者しか、
盗む事をしないだろうな。
これの盗難率が格段と少ないだろう。
「それでは有難くいただきます。
ここにあるドレスも。」
本当はこんなに要らないけど、
金が尽きた時、売りに出せば少しは足しになるだろう。
となれば私も人間、欲も出る。
他に貰えるものは無いかなぁ。
出来れば高く売れる物下さ~い。
ともいかないか。
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