第7話 理由
「俺が何かしたか?
気に障る事でも有ったか。」
「それは無い。
でも私はここで、ちょっとしたい事が有るんだ。」
「それなら俺は、それに協力しなければならないな。
何が望みだ。」
「まぁ、右も左も分からない土地だからね。
申し出は助かるけど、暇ではない人を担ぎ出す気は無いよ。
自分で何とかする。」
取り合えず、情報は仕入れた。
過去女神が出現した場所や、そこへの経路。
ついでに地図も把握したからどこが安全で、
どこが危険かもおおよそ分かっている。
まぁ、足りないと言えば当座の資金か。
「とは言え、お金を貸してもらえれば助かるんだけど……。」
「それは構わないが、女神であるお前に金は必要無いと思うが。」
もしかして、女神が望めばみんなただで提供してくれるの?
「仕返し…ではない、天罰が怖いからな。
そう思っている奴がほとんどだろう。」
は~ぁ?何それ。
天罰って何さ。
女神、ドンだけ我儘したの。
「私何にも特別な力なんか持ってないよ。
せいぜい嫌がらせするぐらいしかできないよ?」
「それだって立派な災害だろう。
女神と名が付く奴が嫌がらせをすれば、
それを知った周りの皆がそいつの近くを離れる。
仕事もうまく行かなくなるし、買い物すらできなくなる。
下手すりゃ家を追い出されるだろうし、最終的にはボッチだ。
これを災害と言わずに何と言う?」
つまり私は慈悲と優しさを持ち歩く必要が有るんだ。
「でもさ、クロゥさん言ったよね。
女神である事を黙っていた人もいたって。」
「まあな。
女神は同じ時に2人は存在しないと。
裏を返せば、その女神が生きている限りは新たな女神は出現しないが、
女神が死んだ場合、新しい女神が出現してもいいだろう。
それが、一人もいなかった時期が有るんだ。」
「それってたまたまその時代に異世界人が来なかったんじゃ無いの?」
茉莉香先輩がいなくなったのが1年ほど前。
だったら先輩が死んだから私が来た、
と言うのが有力説になっちまう。
冗談じゃない。
待てよ、はじき出された時間に、誤差が有ったと言う可能性もあるか。
「何をブツブツ言っている。
まあいい、女神だが、
例えば一番最近出現したのはコールデアに住み着いた女神だな。
確か現れて既に60年近くなるはずだ。
御年85歳近いだろう。」
「この世界の平均寿命は?」
「男女ともせいぜい60歳ぐらいか。
女神は大事にされるからな、長命なんだ。」
「それじゃあ、女神が二人いるか、
私が女神だと言う可能性が無いかもしれないじゃん。」
そうなれば、クロゥさんの説が外れかもしれない。
ならば、先輩が生きている可能性が高くなる。
「問い合わせてみればいい、多分すでに死んでいるだろう。」
そう言ってクロゥさんがにやりと笑う。
「性格悪~。
死者に対して、礼儀って言うか、哀れみって言うか、
とにかくそれは無いんじゃないの?」
「それならお前は全然知らない、縁もゆかりもない奴が死んだと聞かされて、
心の底から気の毒に思うか?」
ごめんなさい。
多分思いません。
「とにかく問い合わせてみよう。」
そう言って、机の上に並んでいた水晶玉を一つ手に取った。
「情報が知りたい。
コールデアの女神が存命か死亡したか。」
すると玉が光り、文字らしきものが浮かび出た。
「俺の説が正しかったな。
ちょうど5日前に亡くなったそうだ。」
怖い、
クロゥさんの言う事が正しければ、
私が現れたのと同時に亡くなった可能性が高い。
つまりは私が現れなければ死ななかったかもしれないんだ。
「お前の考えている事は分かる。
自分のせいだと思っているのだろう?
だがな、逆だよ。
前女神はここ数年、肺の病で臥せっていたそうだ。
つまり女神が死んだからお前が新たな女神として呼ばれたんだ。
言うなれば、お前は何も持たされず、
知らない土地に引き摺り込まれた被害者だ。」
あぁ、そうとも言うな。
でも、クロゥさんがそう言ってくれたおかげで、
少し心が軽くなった………、じゃない‼
「あの…、ちょっとお尋ねしますが、
その女神さまのお名前は………。」
「確かハナエと言ったかな。
おかしなものだな。その名は普通男に付ける名だが。」
ふ~ん、こっちじゃハナエって男名なんだ。
でも安心した。
マリカって名じゃなくて。
「で、話を戻すがどうやら前女神はお前の探し人では無かったようだな。」
「ええ、私が探しているのは茉莉香と言う名前の女性で、
……いたわ。確か数百年前の女神だったっけ…。」
でも、でも、それが茉莉香先輩って限らないよ。
名前が同じだった可能性も有るし、
まだここに現れていない可能性もある。
でも、もう亡くなっている事も考えられる。
「つまり無駄なのか?」
女神がこの世に一人なら、他の異世界人が生きている筈が無い。
いや、私は先輩が亡くなっている可能性をも視野に、色々な事を調べていたのだ。
その軌跡を辿って、真実が知りたかったんだ。
「そうガッカリするな。お前は自分のやりたい事をやればいい。
それがこちらに呼ばれた特権でもある。」
では、私がこちらに来た訳は?
なぜ私はこちらに渡って来たのだろう。
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