第2話
今回も消印はにじんでいて、差出人の名前はない。
―― 気持ち悪い。
そう思ったけど、好奇心のほうが勝った。
怖いもの見たさ。
人間の心理とは不思議なものだ。
とにかくわたしは恐る恐る封を開き、中を覗く。
入っていたのは、小さな紙が一枚。
爪の先でつまむように取り出して、文字を確かめる。
『じ』
今回も、一文字だった。
好奇心が満たされたとたん、今度は紙に触れることさえ嫌になり、部屋に戻ってゴミ箱に落とす。
(昨日は『は』だから――はじ?)
ウィンドウショッピングを楽しめるような気分ではなくなったが、このまま手紙と一緒に部屋にいるのもなんだかイヤで、ゴミの袋をまとめてベランダに出した。
翌日は出勤し、いつもと同じ退屈な一日を過ごし、帰宅する。
習慣でなにげなくポストの中を確認し、白い封筒を見て固まった。
気持ち悪くて、なかなか白い封筒を手にすることができない。ポストの中を見つめたまま、その場に突っ立っていた。
このまま捨てるにしても、あて先はしっかり印字されている。知らない誰かに住所氏名を知られる危険性があるわけだ。
仕方なく白い封筒を爪の先でつまむようにして取り出し、一緒に入っていたショッピングモールのセールに関するDMと、コスメの新商品案内のDMに挟んで直接触れないようにしながら帰宅する。
着替えをする間も、DMの間から覗く白い紙は異様な存在感を放っていた。
コンビニ弁当の夕飯を食べ、シャワーを浴び、缶ビールに口をつけるまで見ないふりをしていたが、酔いが回り始めた勢いで白い封筒を手に取る。
「ったく、なんだってのよ」
小さく悪態をつきながら封を開けると
『め』
が表示されたカードが出てきた。
(……つなげると『はじめ』。はじめまして、とかそんな感じに続くのかな)
――はじめましてって、誰が?
そう考えたとたんに急に背筋が冷たくなり、身体がブルッと小さく震えた。
それからも毎日白い封書は届き、ゴミ箱へと直行する日々が続いた。
ほんの数日で、ポストを開けるどころか帰宅してアパートの一階にあるポストの列を見るだけで恐怖を感じるようになる。
――引っ越したい。
といっても、就職してまだ数か月。懐具合は寂しい。
「引っ越ししたいから、資金援助して」
娘にめっぽう甘い父親に連絡すると、
「そんなに困っているなら実家に帰ってこい。家賃は浮くから、あっという間に貯金できるぞ。就職先も探しておいてやる」
と返ってきた。
父の言葉を聞きながら、実家に戻ろうかな……とも思ったけど、まだここでの自由な生活を手放したくないという気持ちも強い。
――田舎にいた頃は、どこに行っても誰かしらの知り合いがいて、自分が何をしていたか知られてしまう。
別に悪いことをしているわけではなくても、毎日なんだか息苦しい。とくに思春期を迎えてからは、テレビや雑誌で見かける都会の女子中高生が羨ましくて仕方がなかった。
だから東京の女子大を志望し、卒業したあともここに就職した。
なのに――。
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