第24話 これからの的

 ここは、龍治院1F、少年ソウと稲妻いなずま龍ジルは闇劇家あんげきかの1人初恋ういれん竜ピアとの戦闘に勝利した。


 初恋ういれん竜ピアはソウとジルの一撃により致命傷を受けた。その間際、ピアは失っていた記憶を取り戻し、正気に戻った。ピアは元は龍ではなく、人間だった。


三重みえ美芸びげい』の1人である、スレイプニルと名乗る龍によって、


 ピアは同じく致命傷だったソウの竜技りゅうぎの師である、稲妻いなずま龍ジルを治療し、ソウに真実を伝えていた。


「『三重みえ美芸びげい』だって? 」


 ソウは聞き覚えのない呼び名に首を傾げる。


「ええ、私たち闇劇家あんげきかの皆は『三重みえ美芸びげいによって動いている......いいえ、操られていると言っても過言ではないわ 」


 ジルの治療を続けながらピアは話す。


「おそらく.....私以外の闇劇家あんげきかのメンバーにも龍にされたものもいる、『無心竜むしんりゅう』と呼ばれる理性も知性もない凶暴な龍になった者もいるわ.......貴方がさっき倒した黒い龍がそれよ。」


(....そうか、あれは.....僕が、前に村で見た物は......

 そんな....それじゃ、僕の故郷だった村は...『三重みえ美芸びげい』にやられたのか! )


「ピア、僕の故郷でも....そいつを....見た.......僕はまえに故郷で僕以外の人を見つけられなくなったんだ、そしたら、そいつが居て...いきなり襲いかかってきたんだ 」


 ピアは驚いた。


「!?......そうなのね、あいつは......許せないわ......はぁ........でも、私はここまでのようだわ、記憶を取り戻したからなのか、あいつが私を龍に変えた"力"が無くなってきているのかは知らないけれど、どうやら私の体は朽ちてきているようだわ、.....あぁ......悔しいわ......出来れば私は自分の手であいつを.....スレイプニルを討ちたかったわ」


 ピアの体が砂のように足から少しずつ溶けていくようだった。ピンク色だった鱗が生えていた足は、人間の足になっているようだ。


「私が今出来ることは、力がある内に治療を続ける事だけ、貴方の"好き"な竜は死なせないわ......」


 ソウはそう言われて少し頰が赤くなった。


「えっ、いや別にっ、そんなんじゃ...ジルさんは僕が尊敬する師匠で、守ってくれた恩人で、その.....」


 ピアは幼い子供を見守る母親の様に笑っていた。


「ふふっ.....照れなくてもいいのに、私の傷心再生ハーティリフレイスには触れている時だけ、感情を読み取る事が出来るんだけれど.....少なくともジルは貴方の事をかなり気に入ってるみたいよ、"愛情"の様な優しさを感じるわよ 」


 ソウはますます頰を深紅に染めていた。

 ソウは黙ってジルの心臓に手を当てた。

 ドクンッ............ドクンッ.......

 やった! ジルさんの心臓がハッキリ動いてる!

 やった! ジルさんの腕が温かくなってる!息もちゃんとしてる!


「う...うぅ.......」


 ソウはジルの呻き声が聞こえた。

 ジルは一命を取り止めたようだ、ピアの竜能りゅうのう傷心再生ハーティリフレイスはしっかりと効いているようだ。


「よかった……本当に……良かった....ありがとう.....ピア 」


「いいえ、ここまでしか出来なくてごめんね......」


 ピアはジルが息を吹き返したのを見て安堵したのかウトウトし始めた。活動限界がきたようだった。

 ソウは、ピアの手を握った、いつの間にか人間の手になっていた。


「ピア! 僕はリィラに会ったらちゃんと伝えるよ! それから、スレイプニルは僕が倒す、僕の故郷もそいつに襲われたかもしれない、奴を突き止めて、僕が討ち取って見せる! 」


「....無理しないでねぇ....あなた1人だけでは絶対にダメよ?


 仲間を見つけて......リィラも協力してくれるはずよ....それと......命を落とすくらいなら逃げなさい....あなただけが背負う問題じゃないのよ....」


「ピア.....本当にありがとう....ジルを助けてくれて.....約束する、スレイプニルは僕達で倒すよ! 」


「お願い、ソウ......私、貴方達の事"好き"だわ..... 無事を祈っているわ! 」


「ぼ、僕もだよ! ピアさん! 貴方の思いは僕がしっかり受け取ったから、ゆっくり.....休んで......」


 ピアはそのまま眠りについた様だ、茜色の長髪で肌が真っ白で綺麗な大人の女性だった。安らかに眠りに落ちている。


 ***


「ジ、ジルさん……|起きれますか? 」


 ソウは倒れているジルを起こそうとする。


「う、うぅ......」

 ジルは目を開けた。


「お、俺は.....寝てたのか......」


 ジルの目に心配そうに顔を覗く、藍色の髪に金髪が混ざった見慣れた少年の顔が映る。

 ....そうか.....無事だったか.....良かったぞ......


「よくやったな、ソウ! 助かったぞ! ありがとな!」


 稲妻いなずま竜ジルは立ち上がりソウの肩に手をおいた。


 ソウはジルにこれまであった事を話した。

 ***


「なっ、俺の傷はあいつが治したのか!? いや.....ピアだったな、すまん...」


「あのねジルさん、僕はこれから....スレイプニルを倒しにいくよ」


「あぁ、もちろん俺もついていくぞ!....そいつを倒したら、何処か遠くに"逃げる"か!」


「うん! そうする! 」


 ソウはジルがついてきてくれる事がとても嬉しかったようだ。心細かったソウの決意にジルが寄り添ってくれた事で、より決意が固くなっていくのを増した。


「まずは、"龍治院"から出なくちゃ、どうやら閉じ込められたままみたいだし」


「あぁ、そうだな、他にも誰かいるかもな、探すか!」


「ジルさん、ちょっと待ってピアを運ぼう....ここに置いていくのは可愛そうだよ」


 ソウは急いで先を急ごうとするジルを止める。急に呼び止められて驚いたのか、ジルの腕に生えている黄色の体毛が少し逆立っていた。


「.....そうだよな.....すまん、ソウ......俺が運ぶからな」

 そう言ってジルはピアの倒れている方向に行こうとした。


 しかし、突如ピアの周りに輪が現れた。奥に夜空の様な青の色調が広がっている輪だ。


「おい! ソウ!」


「まただ! これは一体誰の力なんだ!?」


 ピアは沈んでいく輪の奥へ吸い込まれる。

 ジルはピアの手を引こうと滑り込み手を伸ばすが寸前のところでピアの手は完全に沈まり、輪も閉じた。


「くそっ! 届かなかった! ちくしょう!」


「あぁ、ピアがやられてしまったか......」


 ソウは声が聞こえた。階段から誰か来る。

(誰の、声だ?)

 階段から現れたのは群青ぐんじょう色の竜だった。


「君たちが、倒したのかい?」


「お前! ピアの仲間か?、敵か?」


 ジルは問いかける。


「私は闇劇家あんげきかの1人、空創くうそう竜ウラノス、少なくとも君たちの敵だと思う、なぜなら」


 ウラノスは出口を指差した。


「ここを閉じ込めたのは、私だから。」

 ソウは言った。

「ウラノスさん? でしたっけ、ここから、出してくれませんか?」


 ウラノスは言った。

「君たちが出られるのは、時間切れで私の竜技、落御迎戯隠ラオムゲインの効果が切れた時か私が倒れた時かの2つだね。」


 ソウは言った。

「いや、違う、あと1つある!それは....僕とジルが君を倒した時だ!」


 ソウはウラノスに雷降ライフルを打ち込む、雷の紋章はウラノスの心臓に当たり雷が襲いかかる。


「よっしゃ! 雷降ライフルがちゃんと当たったぞ! ソウ!」


 しかし、雷が落ちたのはウラノスに向かってでは無く後ろの壁だった。


「はっ外れた!?」


 ソウは驚いた。確かに見たのだ、心臓に雷の紋章を当てたのを。

「これが、このウラノスの竜力りゅうりき輪歩ワープの力、君の攻撃はもう当たらないよ。」


 いつの間にか雷の紋章は後ろの壁に"移動"されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る