第21話 更なる刺客

 茜色あかねいろの竜は唐突にうっすらと思い出していた。


(私、何でこんなところにいるんだろう.......)

 私はここにいるべきはずではない。

 私はなぜ、人と龍と闘っているのか。

 私はなぜ、今まで忘れていたのだろうか。

 自分自身が龍ではないという事を。


 のどかな村の風景、楽しそうにはしゃぐ子供達。私もみんなと一緒に楽しく遊んでいた。

 みんな仲良しで、笑顔で、笑っていて、そんなみんなといられることが幸せだと感じていた。


 未だに覚えている、子供たちとあそんで泥人形を作った時の事。

 私が作る泥人形の事をみんな"好き"と言ってくれた。笑顔で可愛いと言ってくれた。そう言われた私は何よりも嬉しさを感じたし、そう言ってくれるみんなの事が"好き"だった。

 "好き"だったのに......

 私は思い出した.......

 ハッキリと、"あの日"起きたあの悲惨な出来事。

 私だけではない、私以外のみんなも.......


 "あいつ"によって私達は……みんな........



 私はここまで"嫌い"と憤りを感じる事は無かった。

 もう"好き"だった皆には会えないのだろうか、

 もっと遊びたかった、ただ一緒にいるだけでも良い、仲良く暮らして出来る限り"好き"な事をみんなと一緒に......

 

 ***


「ジルぅぅ! 」


 藍色の髪の毛のに金髪の混ざった少年ソウは、龍治院の2F通路で交戦した、稲妻いなずま龍ジルと初恋ウイレン竜ピアの場所へと向かう。


 ジルとピアは右裁榴ミサイルの爆発と雷降ライフルの雷撃による衝撃に巻き込まれ、2Fの通路の床は砕け、そのまま1Fへと落下していったのだ。


 ソウは近くの階段を目指し、1Fまで急いだ、体中汗だくで心臓がドクドクと激しく打っている。


(早く行かなきゃ、急げ、俺!)


 程なくして1Fについた、1Fの中央辺りでジルが仰向けに倒れている。その近くに茜色の龍ピアがうつ伏せで倒れていた。傷心再生ハーティリフレイスによる再生は行われていないようだ。


 ソウはジルの傷の具合を見た、体中血だらけだ。

 ソウの心臓の脈打つ早さは高まるばかりだった。


「ジルさん! ......治薬磁チャージ!」


 ソウはさっき持っていたありったけの薬草をジルに使う。


「……うぅ......」


 ジルは呻き声を少しあげた。


(よかった……意識がある……絶対に治す)


 だが、ソウは少しずつジルの息が弱くなっていくのを見逃さなかった。

「……まだ、薬草はある! まだ治薬磁チャージは続けられる! お願いだ、ジルさん、ちゃんと息をして......」


 ソウは認めたくなかった、ジルの心臓がドンドン弱くなってきている事を、手から感じる冷たくなっていく感触を......どうしても......認めたくなかった、ジルが目の前で死ぬという事を。

 定められた、運命だろうと。



 ソウの腕を弱々しく黄色い鱗が生えた手が掴む。

 それでも、ソウは治薬磁チャージを辞めなかった。


「もう......いい.....よく、やった.....な......」


「ジル、大丈夫だよ、絶対治すから! 落ち着いて、息をして」


「す、まねぇ、"銃の国".....から……逃げられ……たのに……な 」

「まぁ、大丈夫....だよな...お前.....には、もう....これが..あるから...... 」


 ジルは手を掲げた、静かに、怒雷武ドライブを発現させて。


 それを見た後ソウの視界は涙でうるんでいく。


「嫌だ、1人で逃げ続けるのは無理だよっ! ジルさんもいないとダメだよ! もっと教えてもらいたい事もあるんだ! たくさんだ! 数え切れないほど! ......いつものように叱ってくれよぉ! お願いだよ……ねぇ! ジル! 」


 ジルの怒雷武ドライブは消えた。

 ジルは静かに目を閉じた。

 ーー嘘だ!ジルさんの腕は冷たくなんか無い!今から熱くなるんだ!


 ーー嘘だ!、僕の耳が悪いから、心臓の音が聞こえないんだ


 ーー僕はなんて頭が悪いんだ、わざと勘違いして、勘違いして、本当の自分の気持ちを、脳裏に浮かぶもの全てを押しのけて。

(あぁ、ダメだ、僕1人じゃダメなんだよ……)


 ソウは泣いた。自分の無力さに、傷を治す竜能りゅうのうを持ちながら、治せない自分の非力さに。


 だがそれでもソウは治薬磁チャージを辞めなかった。


 しかし、ソウは自分の疲れを感じた、冷たい感触がより一層強くなることも、心臓の音がしなくなっていることも。


 後ろから足音がする。


 ソウは後ろを見た。見た事の無い龍が歩いてくる。

 その龍は手に刃物をもち、ソウは殺気と敵意を感じた。


(嘘だろ!……あいつには仲間が! いたのか……)


「くるなぁ! 近づくなよ! 」


 ソウは絶望を感じたが、立ち向かう勇気はまだ消えてはいなかった。




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