第5話 不穏な影

 雨……


 朱色の龍は手の平に雨粒を感じ周囲の観察をやめた。


 気のせいね……


 朱色の龍は洞窟の方へ戻っていく。

 

 

 ***

 

 ……良かった……気付いてない……


 少女リィラと岩龍がんりゅうログはそっと洞窟を離れ近くの雑木林に向かっていった。

 

 ***



「良かったぁ......大分離れたぁ......」


 来利空音透クリアネスの透明状態、砕練刀サイレントの音消しの効果は切れていた。


「ごめんログ、ここで良い?」


「大丈夫だ……問題ない」


 リィラはログを近くの木に座ってもらい傷口を包帯で巻いた。周りを見た、近くには川が流れている。結構長めに続いているようだ。


「ぐぅッッ!」


 リィラは突然ログが痛みに呻くような声をあげたので驚いて視線をログに戻す、そして自分の手元を見てハッとした。


「あっ!ゴメン!ちょっと余所見よそみしてたわ!強く巻きすぎたかも……」


 リィラは慌てて巻きを弱める。


「……大丈夫だ……気にするな……ところで、リィラはこの辺には詳しいのか?」


「ごめん、山にはよく来るんだけど、洞窟から出たこの場所に来るのは初めてだわ」


「そうか……」


 ログは立ち上がろうとしていたがリィラはそれを手で制した。


「リィラ? どうかしたのか?」


「ログ、ちょっとこの辺りで休むわよ……これ以上歩くのは危険だわ」


「それは大丈夫……!?」


 岩龍ログは突然来た足の痛みに顔をしかめる。


「そう……だな……分かった」


 リィラはログが素直に言う事を聞いて安心したと同時に不安を感じていた。


 ……あまりここには長く居られない、朱色の龍がいつ外を出て探しに来るのか分からないし、雨が降り続けている今なら足跡も残らない、雨が止む前には行かなきゃ


「ログ、鈴を渡しておくわ、ちょっとこの辺りを見てくる、何かあったらそれを鳴らして……あまり遠くまではいかないから」


 岩龍は驚いた。


「リィラ……いいのか?……これがないと……」


「私の来利空音透クリアネスが発動しないんじゃないかってこと? ……うん、そうだよ……でも大丈夫だよ、ログの身の安全の為だから、それと、私の来利空音透クリアネスはいつでも透明に出来る訳じゃないの、自分でも上手く発動した事に驚いたのよ。」


「そう……だったのか」


 岩龍は鈴を右手に握りしめた。


「リィラ……すまない……」


「ううん……私も……ごめんね……さっきはログに頼ってばかりで私は何も出来なかったから……」


「気を落とさなくていい……リィラがいなければ……あそこから……逃げられなかった……

 リィラも……俺の……恩人だ」


 岩龍は左手を差し出した。リィラは首を傾げた。


「握手?さっきやらなかったっけ?」


「ん?違うのか?」


 岩龍は手を引きかけたがリィラは手を握った。


「この握手は、ありがとう、これからもよろしくっていう

 "握手"でいいんだよね?」


 リィラは微笑んだ、茶髪に赤毛の混ざった少女の朗らかな笑顔に釣られて岩龍も表情が緩やかになる。


「じゃ、ちょっと行ってくるね」


「あぁ 無理は……しないでくれ」


「うん」


 木に座っている龍と何処かへ走っていく少女を川から青光りしている鋭い眼光を放つ青色の瞳が眺めていた。


 ***


「岩龍を見失った」


 朱色の龍は洞窟に戻り2つの龍型りゅうがたの影に声をかけた。


「えぇそうなの?仕方ないねっ?……あっ!ジュア様、ロビンまだ死んでいないよ!」


 明るい声で話しかけてきた女龍は茜色の鱗を身に纏う。


 *女龍じょりゅう 性別女性の龍。


 茜色の女龍じょりゅうは話を続ける。


「今ね……私の傷心再生ハーティリフレイスで治してるところなの。ほらぁロビンこれはあなたが愛用していた傷薬よぉー?"好き"でしょ??」


 茜色の龍は迷宮竜に傷薬を塗っている。


 奥のほうからもう1人の女龍じょりゅうが冷静な声で話す。


「まさか、ロビンが先に岩龍に会うとはね……ロビンの螺琵輪州ラビリンスで洞窟を何度も迷宮化させられて私たちも離れ離れ……終いには逃してしまって……本当ほんと私自身情けなくなってくるよ……」


「その事なんだけど……シオン」

 ジュア様と呼ばれた朱色の龍が声を掛ける。


「何でしょうか?」


「ここから洞窟の出口に向かって行った時はなかったんだけど、戻る時に洞窟の地面を見たら血の跡があったのよ、後、松明もあったわね」


 シオンと呼ばれた龍は答える。


「あぁー。なるほど……その血の跡を私の部落扉跡何令寸ブラットアドレス竜力りゅうりきで追跡すればいいということでしょうか?」


「えぇ、頼むわ。」


「ですが、その血は岩龍のものでしょうか?」


 シオンは半信半疑だった。


「ジュア様、シオンねぇさん、ロビンが目を覚ましたよぉー!」


 茜色の龍が声をかけた。


「ロビン、話せる?」


 ジュアは迷宮竜ロビンに話しかける。


「ジュア様……僕は……一体……」


 茜色の龍はロビンを見て言った。


「あー……だめですよ……これは忘岩ボウガンの 竜力りゅうりきで記憶がいくつか消し飛んでますよ」


 ロビンは答えた。


「いえ、ジュア様……僕は覚えています、確かに僕はここで岩龍と闘いました。僕は奴に傷を負わせた、その時流れた血の跡に間違いないです。後、少女……少女もいた」


 ジュアはシオンに声を掛けた。


「シオン、血の追跡をお願い……後ロビン、少女もいたの?」


「えぇ、茶髪で所々赤毛も混じってる少女でした。僕の竜能りゅうのう 暗視目ブラックビジョンで見たので間違いありません。」


 ロビンの竜能りゅうのう暗視目ブラックビジョン は暗い場所での視界を明るく映すことができる


「何故、少女と岩龍が一緒に行動を? ……でも、まぁその少女に何かあるかもしれないわね」


 茜色の龍が言った。


「もしかして、岩龍の事が"好き"になっちゃったのかもしれないわねっ ふふふっ」


「ピア……あなた何を言ってるの?」

 とシオン。


 ジュアはみんなに言った。

「まぁ……いいわ、私たち"闇劇家あんげきか"の使命は

忘岩ボウガン』『時炎怒ジエンド』『日聖ディバイン』の確保、やむを得ない場合には抹殺でもいいの、使命を全うして輝くのはこの私たちよ。そうでしょ?

 ロビン、シオン、ピア?」


 太陽のような模様が入った目がみんなを見渡す。


 ピアは目を煌めかせた。


「はい、そうです」とロビン


 シオンは頷いた。


「ジュア様、部落扉跡何令寸ブラットアドレスの解析にもう少し時間がかかりそうです」


「分かったわ、ピア、治療がすんだらあなたもシオンと一緒に追跡を開始して。」


「分かりました!ロビン、もう少し寝ててねぇ……」


「ピア、僕の傷は後どれくらいで完治する?」


「それはぁ、ロビンがこの傷薬をどれだけ"好き"かに依存するわねぇー」


「もちろん、僕は好きだよこの傷薬」とロビン。


「ちなみに心からそう思わないと効果が上がらないからねぇ」


「とっても、とってもだぞ!」

 ロビンは強めの口調で言った。


「言葉だけ強くしてもねぇー……」とピア。


 ジュアは言った。


「一応1名の竜に先に追跡を任せているわ、追跡の目止がついたらピア、シオン一緒に合流して3名で岩龍を追うのよ

 私は、『時炎怒ジエンド』『日聖ディバイン』の所有者を探すわ……この2つの能力は『忘岩ボウガン』と違い、分かっていないからロビンと追うことにするわ」


「ジュア様、ロビン!気を付けてくださいねぇ……」


「私も無事を祈ってます」


 ジュアは言った。


「私は『三重みえ美芸びげい』に認められた闇劇家あんげきかかしらよ、その名に恥じぬ活躍をするわ」


「じゃあね貴方達、闇劇家あんげきかの一員として輝いて帰ってきてね。ロビン……動ける?」


「はい、僕は大丈夫です」


 4人の竜は二手に分かれ、それぞれの目的地へと赴いた。









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