錬金術士の栄枯盛衰

十和 光

第1話 金は転じて天と成り、天は転じて金と成らざる

「お前たちも知る通り、私達の祖先は火・気・水・土から成る四大元素の自然エネルギーを用いた錬金術を編み出した。だが、、、」


赤い髪を肩口まで伸ばしポニーテールに縛った女性はおもむろに言葉を切った。無造作にその尻尾を振り、黒板、と呼ぶにはいささか不出来な土で出来た板を背にして学生達の席へと視線を移す。


「はぁ、、誰かそのド阿呆を叩き起こせ」

短い毛が後ろに靡くように流れた茶髪の青年は血相を変えて隣のド阿呆を掴んだ。

「やばい、アル!おい!アルエーリ!起きろ起きろ!!」



(…なんだ?大地を震わすような、ともすれば穏やかな風に揺れる花のような、激しくも懐かしいこの揺れ、、)


先程の赤髪の女性は両手を握りしめ、手の甲を並行に自らの前へ合わせる。むにゅ。

「時間切れだ、相変わらずいい度胸だなぁ。アルエーリ・ローレン」


その言葉を聞き茶髪の青年は諦めた。早々に揺り起こすのを止め、小さく合掌し、隣の青年にほんの少しの謝罪とありったけの感謝の気持ちを心の中で呟く。

(すまん、そしてありがとう。レベッカ先生は今日も相変わらずいいお胸だった。)



「起きろぉっ!」

「ぶげぇっ!!!」

土で出来た机の一部が、というか心地よく寝息をたてる青年の突っ伏せた部分のみが隆起する。

宙に舞う黒髪パーマの青年、そして教科書。


ひゅーん、ボテッ。っばさばさ、、、

動かない。まるで屍のようだ。

いやさすがに死んではないだろう、、、ないよな?


そして何事も無かったようにレベッカは茶髪の青年を呼ぶ。


「ヴァン・バレルくん。その後祖先達はどんな末路を辿りましたか?」

「えっ!このまま!?いや、使い尽くした自然エネルギーを奪い合い錬金術大戦が勃発。錬金術は衰退し、新たに体内の炭素を自然界の炭素と結合して用いる練天術を生み出したと、されています」

「そこで寝てる阿呆にも次までに答えられるようにしておいてくださいね、頼みましたよ?」

そういってポニーテールを振りながら少し小さくなったように見えるレベッカは柔らかい口調で教室を出ていった。


口に出せばまず間違いなく屍二号にされるだろうと思い、心の中でヴァンは呟く。


それくらいの雰囲気が一番可愛いんだよなぁ、リーリちゃん。

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