第64話 密談 佐藤みさきの場合
「あの、妹が迷惑をかけたみたいでごめんなさい。それじゃ、私はここで失礼します」
「ちょっとお姉ちゃん。私が迷惑をかけたってどういう意味よ。それに、挨拶だけして帰るなんて失礼だと思わないの?」
「そんなこと言ったって、ここまで前田君たちを連れてきた撫子ちゃんの方が失礼だと思うけど」
「何言っているのよ。私のどこが失礼だっていうのよ。お姉ちゃんだって先輩に会いたいって言ってたじゃない。私はそんなお姉ちゃんのために先輩を家まで連れてきたんだからね。お姉ちゃんは私にとやかく言う前にお礼を言うべきなんじゃないのかな?」
「そんな、私は前田君に迷惑かけたくないって言ってるじゃない。それに、今は前田君も女の子と一緒にいるみたいだし、私にかまっている時間なんて無いんじゃないかな」
「もう、お姉ちゃんってどうしてそんな感じなのかな?」
「撫子ちゃんも私の話を聞いてくれないじゃない」
「わかったわよ。私は先輩の彼女さんとちょっと話があるからお姉ちゃんは先輩と昔話でもしてなよ。昔話って言っても桃太郎とかそういうのはやめてよね。先輩の自称彼女さんちょっといいですか?」
花咲撫子の顔が私の目の前まで来て分かったことだけど、よくよく見てみると整った綺麗な顔をしていた。まつ毛も長いし肌もきめ細かくて綺麗なものだった。瞳も透き通るように輝いていて、私も一瞬だけ目を奪われてしまった。対照的に、花咲姉はお世辞にも美人とは言えないなと感じてしまったのだが。
「お姉ちゃんが先輩にちょっとだけ話があるみたいなので、あなたは席を外してもらってもいいですかね。その代わり、あなたが知らないと思う先輩の昔の話をしてあげますから。こっちに来てくださいね」
私はまー君とあの女が何かするのも気になるけど、まー君の昔の話も気になっていた。その気になればまー君から昔の話を聞くことが出来ると思うけど、他人が知っている話を聞いたうえでまー君の話を聞くのも悪くないんじゃないかなと思ってみた。昔の話って、中学生の時の事だと思うけど、私が調べてないこともあるのかな。知っている話だったらそれはそれでいいんだけど、まー君の過去も今も未来もちゃんと愛せる女でいないと私は私じゃないもんね。
私はそのまま花咲撫子について家の庭に移動したのだけれど、きちんと手入れされているそこはバーベキューも出来そうなスペースもあった。そこにあるベンチに座って花壇を眺めていると、名前も知らない綺麗な花がたくさん咲いていた。こんなにスラスラと花の名前を出せるような女の方がまー君は好きだったりするのかな?
「あ、あんたは花とか好きなの?」
「詳しくはないけど見るのは好きかも。てか、なんで急にため口なの?」
「別にいいじゃん。年上だって言ってもそんなに大きく変わるわけじゃないんだし、私とあんたはもう会うことも無いだろうしさ。で、あんたは先輩の彼女って話だけど、それって本当の話?」
「嘘の彼女って何よ。本当に付き合っているに決まってるじゃない」
「あんたも知っていると思うけど、先輩ってモテるのよね。私はタイプじゃないんでわからないけど、私の友達とかお姉ちゃんの周りでも先輩の事が好きな人って結構いたんだよ。それでさ、事あるごとに告白とかされてたみたいなんだけど、先輩って全部断ってたんだよ。で、なんであんたみたいなのが先輩の彼女になったわけ?」
「へえ、まー君ってやっぱり誰とも付き合ってなかったんだね。そうかそうか、それなら何も問題ないね」
「ちょっと、私の質問にちゃんと答えなさいよ。なんで、あんたみたいなストーカー女が先輩と付き合っているのかって聞いているのよ?」
「あ、それね。教えてもいいんだけど、どうしようかな。もうちょっと私に敬意を払ってくれたら教えないことも無いんだけど、そんな命令口調じゃ教えるものも教えられないわよね」
「あ、そんな態度なら私も先輩の昔の話をしてあげないから」
「大丈夫。その辺は誰かに聞けばわかると思うし、別にあなたに教えてもらう必要はないんだよね」
「そっかそっか、他の人にこの家の中でお姉ちゃんと先輩が何をしていたか教えてくれる人がいるんだ。そんなこと知っているなんて、ストーカー女さんには犯罪者のお友達が多いみたいですね」
「ちょっと待って。家の中でまー君が何をしたっていうの。てか、家の中に入ったことがあるってどういうことなの?」
「色々あって先輩とお姉ちゃんが一緒になっていたんですよ。その場には私もいたんですけど、邪魔はしませんでしたよ。私は一緒にいても空気が読めますし、お姉ちゃんだってその気になってたからね。あんただって部屋の中で二人っきりになったらそう言う気になったりもするでしょ?」
「詳しく聞かせてもらってもいいかな?」
「いいけど、どうやって先輩と付き合ったか教えてくれるかな?」
「どうやってって、そんなの私から告白して付き合ってもらっただけよ」
「はあ、そんなわけないでしょ。あんた程度の女が先輩に告白して付き合ってもらえるってどういうことよ。中学の時だってあんたよりいい女がたくさんいたのに、みんな断られているんだよ。胸だってそんなにないしスタイルだって良くないし、顔だって、まあ顔はそこそこいいかもしれないけど、どうやったのよ?」
「そんな事はどうでもいいのよ。まー君が家の中で何をやったのか教えなさいよ」
「ああ、それは後で教えるから。なんで誰も手に入れることが出来なかった先輩の事をあんたみたいなのがあっさりと手に入れちゃっているのよ。そんなんじゃ、私があんたよりも格下みたいじゃない。私の周りだってそれなりにかわいい子はいたんだけど、先輩は誰も本気で相手にはしていなかったし、どうしやったって振り向かなかったのに。あんた一体何者なのよ?」
「何者って言われても、まー君の彼女としか言いようがないんだけど。ちょっといいかな?」
「何?」
「あなたって、もしかしてまー君の事が好きだったの?」
「は、別に好きじゃないけど」
「その割には目の前にまー君の彼女がいて焦っているように見えるけど、それでも好きじゃないって言えるの?」
「言えるわよ。私はあんな男に興味は無いの。ただ、あれだけモテる男がお姉ちゃんの彼氏だったら周りに自慢出来ると思っただけよ。お姉ちゃんじゃ無理なのは知ってるけど、私の魅力をうまく使えばお姉ちゃんでもなんとかなると思ったのよね。で、そのまま家に連れてきてもらってお姉ちゃんと先輩がちょっとアレになったってだけの話よ」
「アレって何よ?」
この女がまー君に興味が無いのは良かったことだけど、なんとなくそれはそれでムカつくわ。でも、アレってのが何なのか気になる。
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