第57話 克己 佐藤みさきの場合

 今日は休みだけどまー君に会えなくて物足りないと思っていた。家ではお姉ちゃんがまー君の事を色々聞いてくるんだけど、会わせて欲しいってことなのかな?

 会わせてあげてもいいんだけど、まー君が嫌がるかもしれないからちゃんと確認してからじゃないとね。義理の兄弟になるわけだし、あんまり悪い印象を与えておくのは問題だろうしね。


 お部屋の掃除でもしようかなと思っていると、まー君からメッセージが来ていたんだけど、明日の事だろうと思って開いてみると、やっぱり明日の事だった。でも、明日は私と会う前に操先輩と会っているとか言ってるんだけど、どういう事なんだろう?

 操先輩とは読書の趣味が合うみたいなんだけど、それにしては仲が良すぎるような気がするんだよね。私はそこまで読書が好きってわけじゃないから仕方ないとは思うんだけど、もう少し私にも勧めてくれたらいいのになとは思うんだよね。二人だけの世界とか作ってるのかもしれないけど、私はそんな読書の世界には入っていけなそうだよ。

 でも、今日は少し早く寝て朝はしっかり準備しとこうかな。何があるかわからないしね。


 起きてみると風が凄く強いんだけど、こんなに強かったらあんまりちゃんと髪をセットできないかもしれないな。まー君がどんな感じの髪型が好きなのかわからないけど、好きな髪型になっていたらいいなと毎日思うんだよね。あんまり反応してくれないから悲しいけど、そのうち傾向とかわかると思うし、そうなったらこっちのもんだよね。


 今日は休みの日だから愛ちゃん先輩は来ていないと思うんだけど、油断していたらいつ出てくるかわからないし、少しだけ注意して外に出て行く事にした。外には誰もいなかったけど、相変わらず風は強いまま私の方に向かって吹いていた。せっかくセットした髪も乱れてしまったしあんまりついてないのかも。

 そのまま気にしつつ歩いていると、誰にも会わないまままー君の家までついてしまった。このままここで待っているのが正解なのか、呼び鈴を鳴らして出てきてもらうのが正解なのかわからないけれど、迷っていたらまー君が出てきてくれた。


「あれ、約束の時間ってまだだよね?」

「うん、でもね。会いたくて来ちゃった」

「ああ、俺も会いたかったけど、今日は松本先輩に本を借りる約束してるんだよね」

「そう言えばそうだったね。じゃあ、本の受け渡しの時は邪魔にならないようにどこかに行っておくね」


 操先輩とはいえ他の女に会うのはイヤなんだけど、操先輩とアリス先輩はまー君の事をそういう対象として見ていないと思うんだけど、気を付けた方がいいのはさやかくらいかも。さやかも最初の頃みたいにまー君に何かするって感じじゃなくなってるからいいんだけど、あんまりそう言う人は多くない方がいいと思うんだよね。

 それに、あんまり束縛しすぎると重い女って思われそうだから控え目にしとかないといけないよね。少しだけまー君に質問してみようかな。


「ねえ、デートの前に彼女以外の女と会うのってどういう気分なのかな?」

「そうだな。今日の場合だと、どんな本を貸してくれるのかな? って感じかな」

「まー君は意外と読書家だよね。私はそんなにたくさんは読めないんだけど、そんなにお勧めがあるなら私も一冊読んでみようかな」


 私はマンガもあんまり読まないんだけど、マー君のお勧めだったら最後まで読めるような気がするんだよね。読むだけじゃなくてちゃんと内容も理解しようと思うんだけど、その辺はあまり得意ではないと思うので時間をかけて理解していくことにしよう。


「松本先輩との約束まで三十分くらいあるけれど、みさきは何かしたいことあるかな?」

「とくには無いけど、操先輩が来る前にちょっとあそこのお店を見てこようと思うんだ。だから、本の貸し借りが終わったらあのお店にきてね」


 あんまり興味のある店ではないんだけど、あの店なら窓も大きいしマー君の事が見えそうなんだよね。せっかくだから何か買うものでもないかと思ってウロウロしてみたんだけど、やっぱり心惹かれるものは売ってないみたいなんだよね。このお店が悪いんじゃ無くて、私と趣味が合わないだけだと思うよ。

 店の中から外を見てみると、遠くの方から見覚えのある人影が近付いてきていた。操先輩だと思うんだけど、判断するにはまだ遠すぎる。どんな格好で来るのかと思ってみたけれど、操先輩は明らかな普段着で着ていて気合も入っていないようだった。マー君に会えるんだからオシャレしてきてほしかったけど、操先輩はそんな感じじゃなかったのを思い出すと、あれも勝負服なんじゃないかと思ってしまう。

 このまま何か起きないかと思ってみていたんだけど、本の貸し借りをしている以外は何も起きている感じではなかった。本当に貸し借りだけで終わるとは思わなかったけれど、二人ともそう言うところが合うのかもしれないと思ってしまった。

 あの二人を見ていると男女の間にも真実の友情が産まれてしまうんではないかと思うけれど、それはそれで好ましくないと思うかも。

 それにしても、本を渡すだけで本当に帰ってしまうとは思わなかったな。これなら今日じゃなくてもいいように思えるんだけど、二人とも今から帰って借りた本を読みたいのかもしれない。


このままだとマー君がこっちにきちゃうと思うんで外に出る事にしたんだけど、何も買わずにここに居させてもらったけど大丈夫だっただろうか?


「あのね、今日は天気はいいけど風が強いじゃない?」

「この風はうっとおしいよね」

「それで、ちょっと休憩できる良い場所があるんだけど、そこに行ってみないかな?」


 マー君と一度一緒に行ってみたかった場所があるんだけど、そこに行ってみてもいいのだろうか?

 きっとマー君は気にしないでついてきてくれると思うんだけど、もう少し恋人っぽい事を積み重ねていきたいなと思ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る