第58話 突然 佐藤みさきの場合

 まー君に会えない日があると私は寂しくて死んじゃいそうになっちゃうんだけど、ちょっとでも会えた日は凄く嬉しくなっちゃうんだよね。

 きっと、私とまー君は前世でも来世でも結ばれる運命なんじゃないかなって思っていたんだ。思っていたけれど、私のまー君が知らない女と話しているのを見てしまったの。

 まー君の通っていた中学校の制服を着ている女子だったんだけど、なんだか親しげにまー君と話していたんだよね。なんで腕なんか組んでるのかわからないけれど、その場所は私の特等席なんだけどな。

 まー君は私に会う時間よりもその子に会うことを選んだとは思わないけれど、私のためにもう少し時間を作ってくれてもいいんじゃないかなって思っちゃった。

 信じているんだけど、信じていいんだよね?

 ねえ、本当に信じていいのかな?


「先輩、私のお姉ちゃんとデートしたいって思いますか?」

「え、思わないけど。僕には彼女いるからさ」

「じゃあ、お姉ちゃんじゃなくて私とデートしましょ」

「だから、僕には彼女がいるって言ってるじゃないか」

「そんなの気にしなくていいですよ。私は気にしませんから」

「君が気にしなくても僕は気にしちゃうから」

「もう、君じゃなくて撫子って呼んでくださいよ」

「いや、呼ばないけど」

「そんなこと言っちゃ駄目ですよ。私もお姉ちゃんも悲しんじゃいますよ」


 ちょっと近くに行くと二人の会話が聞こえてきたんだけど、この子はいったい何なんだろう?

 まー君の後輩だとは思うんだけど、ただの後輩だとしても仲が良すぎるように見えるんだよね。

 もう少し近くで聞いてみようかな。


「先輩の彼女ってあの人ですか?」

「あの人って、電柱に隠れている人の事?」

「そうですよ。さっきからずっとこっちを見てますけど、あの人ってストーカーですか?」

「いや、ストーカーじゃなくて僕の彼女だと思うよ」

「でも、彼女なら隠れてないで堂々と出てくればいいのにね。前みたいに私とお姉ちゃんと三人で遊びましょ」

「ちょっと待って、三人で遊んだってどういうことなの?」

「わ、ストーカーが出てきた」

「ストーカーじゃなくてまー君の彼女だよ。あんたはいったい何なのよ」

「私ですか。私は先輩の過去の女ですよ。私のお姉ちゃんも過去の女ですけど。あ、都合のいい女だったかも」

「ちょっと、そんな言い方は良くないと思うけど」

「実際そうだったじゃないですか。お姉ちゃんの事は忘れても私の事は忘れないで欲しいな」

「いや、君たちの事は忘れないよ。ずっと僕の事付け回してたじゃないか。ちょっと怖かったよ」

「それって先輩が付き合ってるストーカー女と一緒みたいじゃないですか。それって私傷付いちゃいますよ」

「なんで私がストーカー確定しているのよ。突然現れたあんたの方がストーカーじゃないの」

「そんなことないですよ。先輩の事を隠れてみているあなたの事を私は何回も見てるんですからね」

「私はまー君の彼女なんだからまー君の事を見てても変じゃないと思うんだけど、あんたがまー君の事を見てる方がストーカーじゃないの」

「二人とも、僕の事をこそこそ見ていたんだね」

「私はまー君の事が好きだから見てただけだよ」

「私だって先輩の事が忘れられないんです。お姉ちゃんの百合だって先輩の事を忘れられないって思ってるはずですよ」

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