ハロウィン・ナイト

桜川 ゆうか

ハロウィン・ナイト

 もう二週間も連絡がない。携帯のアプリをチェックしながら、私は溜息をついた。

 つき合おうって言ってきたのは、そっちじゃないか。「まだよくわからないから」って言ったのに、「これからわかり合える」と言って強引に迫ってきた男が、よくこんなに連絡もよこさずにいられるものだ。

 忙しい相手なのはわかっているものの、なんとなく騙されたような気分になって、私は保留していた、会社の同僚から誘われていたパーティーについて、「やっぱり行くよ」とメッセージを送っていた。

 パーティーは明日だが、大人数が集まるざっくばらんなパーティーで、当日の夕方までに申し込めば大丈夫らしい。ただ、申し込みは必須のようだ。参加費用は2000円。あとはドリンクを買えばいいようだ。

 明日も朝早い。翔のことは脇へ置いて、新しくだれかと出会うのも悪くないかもしれない。忙しい人とはつき合わないつもりだったのに、翔はいつだって、こんな調子なんだから。

 私らしくもない考えが浮かんできてしまい、自分でも困惑するものの、それもいいか、と考え直す。

 酒井佳純、26歳。そろそろ結婚もしたいと思っているのに、交際中の窪田翔は、会社が外資系で海外に飛んだりするときもあって、忙しいのか、ひどいときは二週間以上も連絡をよこさない。本気なのか、遊んでいるのかさえ、よくわからなくなってきて、私は半分、自棄になっていた。

 パーティーの服装はどうしようかな。学生のときに気に入って買ってあった、膝丈くらいのドレスがある。ハロウィンは仮装してくる人も多そうだけれど。別にそうでないからダメというわけでもないはずだ。欧米でも、普通、仮装するのは子どもたちだ。

 鏡を眺め、顎のあたりにできた大人ニキビにそっと薬を塗る。ニキビがあるなんて、美しくない。当日はしっかりメイクしないと。遅くまで起きていると悪化しそうなので、私はさっさと眠ることにした。


 目覚ましが鳴ったのを、私は目が覚めてから聞いたような気がした。穏やかな朝だ。少し肌寒いけれど、カーテンの向こうから眩しい光が入ってくる。晴れてよかった。

 携帯をチェックしてみるが、相変わらず翔からのメッセージは来ない。私が何かしたんだろうか。落ち着かない気持ちになるけれども、今日は仕事があるんだから、行かないといけない。

 布団をバサリとめくり上げ、室内用のふわふわの上着を軽く羽織ると、私は朝の身支度を始めた。

 気持ちのいい朝だ。今日はインスタントじゃない味噌汁をつくろうかな。パック出汁と水を鍋に入れ、ニンジンをごく少量だけ半月に切って火にかけた。ご飯はあらかじめ炊いてあるし、おかずはだいたい、夜つくって朝は繰り返す。かぼちゃの煮物を冷蔵庫から出して、そのまま電子レンジに入れる。ボタン一つで、あとは待てば完了だ。


 仕事にハロウィンの服を持っていくのは重そうだったが、どうせ職場では座りっぱなしなのだし、ほとんど関係ない。電車の中で座るのは難しいだろうか。今日は他の人も同じようにコスチュームを持っているかもしれない。網棚に乗せる前提で包んだほうがいい。スーツ用の不織布ケースやデパートの袋を並べて思案する。たぶん買ったときのように包んだほうがいいだろう。

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