8 A-481
俺は実験所で開発された人形だ。
実験器具の中,コポコポという音で目を覚ました。
その瞬間俺は兵器になった。
コードはA-481。A-タイプの人形。
A-タイプの特徴は,痛覚の麻痺と強化された肉体,そして感情がないこと。だから,どんなに被弾しても爆風にやられても痛みを感じないから走り続ける。
普通の人間よりかは,耐久力もある。
この国の最高戦力として前線を戦えた。
俺の配属は前線だった。
だが,突然遊撃隊に変更された。
それが『人形』から『罪人』になったきっかけとなった。
遊撃隊は少数精鋭の小さな部隊だった。隊員数はたったの10名。遊撃といえども暗殺なども行っている影の部隊だった。
そこで僕は初めて人間と仕事をした。前線は人形の部隊と人間の部隊に分かれていたから,新しい経験だった。
人形である俺は気味が悪いと隊員に避けられていたが,1人だけいつも話かけてくれる奴がいた。
どこか他の人とは違う彼は,俺が何も話さなくてもただ話しかけ続けた。内容は,他愛もない世間話だったが命令に対する返事しかしたことなかった俺は戸惑った。
だけど少しずつ話せるようになった。
そんな時,この部隊にスパイがいるという情報が流れた。一番疑われたのは何故かいつも話しかけてくれる彼だった。
必死に弁明していた。あまりにも証拠は少なかった。
それでも,疑わしきは罰せよ。
助けたくとも,人形である俺は人の話し合いには参加できない。彼を助ける方法を持っていなかった。
次の日,話を聞くと彼は殺されることになっていた。
その役割を任されたのは俺だった。
この部隊にいるというスパイを殺す為に配属されたらしい。もし彼がスパイじゃなくとも,裏切り者じゃなくとも人形が殺したのなら罪にはならない。
人形は道具であって人を縛る法律には縛られることはないのだから。
その日の夜,俺は彼の前にたった。
空は月の光さえも届かないほど厚い雲に覆われていた。
目に布を巻かれていたのに気配を感じ取ったのか,彼は笑った。
「ごめん。」
俺には,謝るしかなかった。
彼は,
「謝らないでくれ。これも運命だっただけだ。きっとこの戦争はまだまだ続くだろう。このくらいで死ねて幸せかも知れない。」
俺が銃を向けた時,
「エルごめんな。」
彼はそう口にした。見えない俺にまるで誰かを映し出したかのように。
銃声が響いた。
俺が放った銃弾は,一切の狂いなく眉間を撃ち抜いていた。
初めてだった。
殺した相手の声を聞くのが,顔を見るのが,過去を知るのが。
何かが俺の中で変わってしまった。
結局彼はスパイではなかった。
ただ,人と考え方が違っただけだったのだ。
排除したかったのだろう。罪のない人間を殺した。
そんなの『殺人犯』と一緒じゃないか。
それ以来,人を殺せなくなった。
正確にポイントを撃ち抜いていた銃弾は急所を外すようになり,見逃してしまうこともあった。
なにも考えずに,殺せなくなった。
いつも銃口を向けるとちらつくのだ。
俺が撃つこの人間は,『罪のある人間なのか』と。
俺が殺せないことを聞いたらしい隊長は本部に報告し,俺は実験所に戻されることになってしまった。
そこで散々調べられたが,身体に特に異常は見つからなかった。
しかし,人と話せるというA-タイプには本来出来ないはずのことができるようになっているということで保存されることになった。
連れて来られた地下室に,足枷でつなぎ止められた。頑張れば壊せるような足枷だった。
でも,壊す気にもならなかった。
『罪人』である俺にはこれでいい。
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