夜に素直な彼女

カクダケ@

第1話 プロローグ

 


 高2になり夏休み間近というところ、俺はつれなくホームルームを受けていた。


 歴代彼女ゼロの童貞。しかも友達ゼロの俺は、今日も教室の隅の席で頬杖をついていた。


 ──このまま平凡に高校生活が終わるのか。


 見た目は地味で協調性は皆無。そんな俺に魅力を感じる者は誰もいないだろう。だってそうだ、髪も整えていなければ服装のセンスもない。運動神経も悪く無ければずば抜けてもいない。


 そんな平凡な俺に友達ができるはずがない。彼女は欲しいが、そのために身嗜みを整えるのがめんどくさいのだ。ドがつくほど怠惰である。




 そんな俺にも、彼女が欲しいという欲はある。権利はないがな。


 

 俺の通うそこそこの進学校である桜ヶ丘高校は、顔面偏差値が高いと謳われている。俺は可愛い子を見ると興奮する変態で、他クラス多学年と共に可愛い子を見るとムラムラしてしまう。


 関われないと分かっているため、全て俺の中の妄想であんなことやこんなことをして終わらせるのだ。


 その中で、断トツな俺の妄想被害者は木実千鶴このみちづるだ。


 始めで千鶴を見たのは後ろ姿で、その姿は美の一言だった。小さい頭から流れる綺麗な長髪に完璧なスタイル。長い足から長い定規を当てたように正しい背筋をしている彼女を俺はもう無数に妄想している。


 ここまで後ろ姿に恵まれているからさすがに正面はと思ったらもう驚いた。そこそこの胸だけでなく、顔はもう小さくてトップ中のトップアイドルな顔立ちだったね。


 しかもしょっちゅう友達と楽しそうに笑っている姿がとても魅力的だ。あのクシャッとした顔が何とも反則的だ。

 

 千鶴は何でこんな高校にいるんだろう。と思っていたが、現に彼女は何人ものプロデューサーにスカウトされているらしい。が、何故かそれは全て断っているそうだ。


 残念なのが、彼女は同学年の2年1組にして、俺は最も遠い8組なのである。見ることだけで十分な俺だが、やはり1組となると見ることすらできないことが多い。


 軽く拷問だ。


 俺はネットで漫画をしょっちゅう見ている。しかしその殆どが有料であり、俺は課金しまくっている。


 月の母からのお小遣いでは足りなすぎる。だからといってバイトで稼ぐのはめんどくさい。だから俺は、あたりまえの事だが世の中甘くないなと感じているのだ。





 8時になり、自室のベッドの上で、俺はスマホで『バイト 楽 高給』この三単語を欠かさずに、都合のいいバイトを調べていた。


 





 そんな時……。


「時給2000円!?」


 とあるサイトの怪しい広告に目をやった。それにただ部屋で過ごすだけという内容だなんだ、ただの詐欺広告か。そんなうまい話があるわけない。そう思い、その画面をスワイプしようとしたが、


──待てよ?


 純粋な好奇心で、見たくなってしまった。別にメールとか口座とかがバレなければいいだろう。そう思ってその広告を開いた。


 だが、その怪しい広告からは意外にも、ご安心くださいという表記からバイトを受けてもらう人への安全の配慮が具体的に書かれていて、俺はもう騙されてた。


 年齢は高校生からと、とても良い都合であり、俺はそのバイトを受ける以外考えられなかった。


 

 

 しかしはやり都合が良いものには条件があるみたいだった。仕方ないなと目を通す。


・二週間、毎日何がかあってもそのバイトを欠かすことはできない。


 つまり14日間、家にも帰れずそのとある部屋で過ごすということか。


 なんか怖いな。


 そして時給2000円という単語が脳裏を過った。単純計算だ。一日24時間、つまり一日48000円。それが14日間……。


「67万!!?」


 スマホの電卓機能を使って驚いた。


 おい、これだけあればどんな漫画でも見放題だぞ!


 とは言え、二週間も学校を休むわけにもいかない。が、その心配はなくなった。


 理由が、その実施期間が夏休みにも対応しているからだ。


 自室で喜びの叫びを発した時、一階の床越しに「黙れ! 綾人!」という母の声が響いて聞こえてきた。


 しかし、喜ぶのはまだ早かった。それを行う場所である。


 それは同じ県の都心であった。最寄駅から2時間ぐらい電車に揺られた所だ。


 そしてもう決心した。


「お母さん、俺夏休みになったら友達と二週間遠くへバイトしに行ってもいい」

「別にいいけど、あんた友達いたっけ?」


 嘘がバレる事はなかった。まさか容認されるとは思わなかったが、母は、そのかわり勉強もしなさいと言った。あと心配だから毎日電話しなさいとも言った。


 俺はその広告に記載されていた電話で、ある程度の個人情報を伝え、そのバイトに契約することに成功した。夏休みまで後二週間。その待ち遠しい二週間、俺は期待に胸を膨らませて待っていた。

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