ドロップ・トゥ・ヘル・サービス

シラス

 なんだか背中が冷たい。

 目を覚ますと、やけにつやつやした潤いのある白い天井が見えた。

「えぇ……?」

 起き上がろうとして身体に力を入れたら、手足がずぶずぶと白い地面に沈んでいった。

「おわっ、なんだよ、えっ、うそ」

 動くほど沈んでいく。動きを止めても沈んでいく。下半身と肩が白い沼に埋まり、顔面に奇妙な白いかけらが乗り上げた。

「冷たっ、ぶほっ、おぇ、ごぼぼ」

 死ぬ。

 意味が分からない。

 さっきまで、俺、部屋でゲームをしていたはずなのに。

 息ができない。

「――、――」

 なめらかなものがどんどん喉にすべり落ちていく。

 まずくはない。

 試しに上の歯と下の歯で潰してみた。いとも簡単に崩れる。

「う、うおおぉ!」

 最後の力を振り絞って、口の中に入り込んで酸素をせき止めていたそれを、すべて噛み砕き、喉の奥に押し込んだ。

 次々と白い物体が迫ってくるので、地面を探すように両足をばたばたさせた。あっさりと床が見つかった。俺は自分を埋めようとしているものたちを押し上げるようにして起き上がった。膝を立てると、足の指の間に白い物体が入り込んだ。

 なんとか、両足で立つ。衣服に付着した白いかけらが身体の表面を滑るように落ちて、つるんと床と一体化した。

「はぁ……ふぅ……」

 前を見ると、つやつやした白い壁があった。見渡すと左右と後方も壁になっていた。あまりにも真っ白で、目がくらみそうだ。

「なんだよ……ここ」

 扉や窓はない。ずぶずぶと移動して壁に触ってみると、床と同じく柔らかかった。天井は頭頂すれすれの位置で固まっている。手を伸ばして指を突き立てると、もろく崩れて破片を掴むことができた。

 手のひらの上で、ゆるゆると揺れる白い物体。見覚えがあった。

 つばを飲み込んで、もう一度、口に含む。

 なめらかな食感。舌で潰せる。

 ひんやり冷たい。

「うん」

 豆腐だ。

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