第16話 魔法と騎士団と下着の話
宰相ドイルからの話を終えると、その後は魔法騎士団含め、上位の兵士達の集まる部屋へと移動した。
中には、様々な種類やサイズの鎧や剣、槍といった武器、そして盾が並べられている。
実生活でこういった物に関わることがないだけに、ああだこうだと口にしながらテンション高く見て回った。
「勇者様達は魔法を使われるようだから、軽い物でよいのではないか?」
というナザンの提案により、魔法騎士団の使用している装備一式を試着して、着心地を確かめてみた。
確かに普段鎧など着ない者達にとっては、これが一番軽くて動きやすい。
魔法攻撃に対する防御や、自身の魔法攻撃増幅の機能も備えているらしい。
小柄なとらには、魔法騎士見習い用の装備しかなかったが。
「女性用のは、ないんですね」
勇ましい姿に着替えた男子達とは対照的に、小鳥ひとりだけお姫様のドレスのままでいる。
「昔は女性騎士もいるにはいたのですが、近年は人口の減少もあり、…申し訳ありません」
心細い様子の小鳥を前にして、ナザンは自分の胸に手を当てて謝罪した。
「もし、よろしければ…、小鳥様はこのまま城に残られてはいかがでしょうか?危険な旅になりますでしょうし、小鳥様のことは我々が全力を持ってお守りいたします」
おそらくは貴族の出なのだろう優雅な振る舞いに、慣れない小鳥は話の内容にだけでなくドギマギとしてしまった。
しかし、そんなやり取りをしているとは露程も思っていなかった、という感じで佐田がナザンに話しかけてきた。
「あの、ナザンさんが今着ているのも俺達と同じなんですか?」
「え?はい。そうですよ」
魔法騎士団の装備は軽装なため、ちょっとした業務の前後にも着用したままでいることは珍しくなかった。
「じゃあすみませんが、ちょっと性能のテストをさせてもらいたいんですけど、いいですか?」
「それはもちろんです。で、どうやって…」
爽やかな笑顔の佐田に釣られるようににこやかに答えると、言い終わらないうちに武晴と岸がナザンの両脇に立った。
「どれくらい魔法攻撃に耐性があるか確認させてください。…では、お姫様。例の呪文を」
「え。大丈夫ですか」
なんとなく察した小鳥は不安を覚えたが、小鳥と面と向かって立っているナザンの肩に、武晴と岸が小鳥を背にしてそれぞれ両側から手を添えている。
「それじゃあ、いきます! ――
「…………」
一瞬静まり返り、ナザンの肩に手を添えていた2人が大丈夫かと気を抜きかけた時、突如風を切るようにナザンが小鳥の方へ突進していった。
「小鳥様!!こんなにも愛おしいと思ったのは貴女だけです!もう何処にも行かせません!!!」
武晴と岸が慌てて飛び掛かり押さえ込む。
それでもめげずに目をハートにして求愛を続ける団長の姿を、その場にいた兵士達はどよめきながら遠巻きに見ていた。
「…全然駄目じゃないか」
高橋が小鳥の後ろで腕組みしながらリズトを見て呟く。
「彼のレベルは556。やっぱりこの中では最高です。本人の魔法攻撃耐性も高いんですけどね。精神攻撃耐性は、まあ、そんなでもない感じです」
「それに魔法騎士団御用達の鎧を加えてもこの結果か」
「恐るべし。
東堂の解析で高橋と小出が改めて
これまでの傾向から、刺激を与えると正気に戻ることを伝えると、魔法騎士団副団長が団長を心配するような
「となると、やっぱり小鳥には別の魔法を習得してもらってMPを削るしかないね」
「でもそんな簡単に習得できないだろ」
「――ナザンさん、すみません。本当にすみませんが、大丈夫だったら魔法について教えてもらいたいんですが。…大丈夫ですか?」
「え?ええ、大丈夫ですよ。何でもお訊きください」
一応労わりつつ声を掛けると、今しがた自分に何があったのか把握できていないナザンは、何故か痛む頭を摩りながら佐田に答えた。
「魔法の習得方法についてなんですけど、レベルアップ以外で、それも覚えたい魔法を習得する方法ってあるんですか?」
佐田のその言葉には、ナザン以外の魔法騎士団員達も興味深そうな顔をしている。
「なかなか面白いことを言いますね」
「やっぱり無理なんですか?」
「いいえ。その逆です。普通は覚えたい魔法を修行して身に付けるものなのです。稀にそうではなく、神から“ギフト”と云われる魔法を与えられる者もいますが、それは数億人に1人、例えば我が国のイスルド陛下のような特別な御方だけなのです」
ということは、自分達と他の人では魔法の習得方法が違うということか。
“特別”という言葉には心がくすぐられるが、不便であることには違いない。
「じゃあ、俺達はランダムにしか魔法習得できないのかあ」
小出が諦めたようにぼやくと、ナザンが慌てて否定した。
「誤解させてしまったようで失礼いたしました。勇者様達がギフトを与えられていることについ、気を取られてしまいまして…。希望する魔法の習得でしたら、陛下の例を見ましても可能かと思われます」
「どうやるんですか!? 呪文を覚えるとかですか?」
「呪文は初心者が意識を集中させるために使うことがありますが、自分で意識をコントロールできるのであれば、使わなくてもよいと思います。大事なのはイメージを強く持ち、それを具現化させることなのです」
「例えば治癒魔法だったら『治れ』って念じるような?」
「ええ、そうです。そういう感じです」
ということは、小出のこれまでのやり方も間違っていなかったということになる。
「フェニックスは!? フェニックスも習得しようと思えば不可能じゃないってことですよね!?」
興奮しながら尋ねる小出に、ナザンは苦笑した。
「それもまあ、不可能ではないと思いますが…。火の魔法を得意とする私でも死ぬまでに習得できるかも怪しい大技ですからね。まあ、勇者様でしたら可能なのかもしれませんね」
火の属性でLv. 556でも不可能となると、一体どれだけ鍛錬すれば習得できるのか。
「レベルアップするには、敵を倒す以外にどんな方法があるんですか? 普通のトレーニングでもいいんですか?」
「レベルアップ…」
少し考えた様子のナザンに代わり、横から副団長が口を挟んだ。
「普通のトレーニングでいいと思いますよ。我々も他の兵士と同様に剣術などの訓練をしてきましたから」
それから、他の団員達も訳知り顔で次々と話に加わってきた。
「そうそう、体力と魔法って意外に関係してるんだよな」
「でもやっぱり精神面のトレーニングは欠かせないよな」
「あと使う魔法に合わせて、火とか風なんかと意識を一体化させたりしてな」
自分達が初心者だった頃を思い出してでもいるのか、それぞれの体験談も交えて教えてくれてた。
「ちなみに火の矢はどれくらいのレベルで放てるモンなんですか?」
「火矢かあ。大体みんな魔法騎士見習いが終わるくらいで出来るようになるなあ」
団員の1人がそう言ったのを聞いて、岸はふと違和感を覚えた。
「見習いから正式な騎士になれるのは、レベルいくつくらいですか?」
岸の質問に、皆不思議そうな顔をした。
やっぱりそうか。
「ご自分や仲間のレベルが、数字にするといくつなのかご存じですか? HPやMPも」
それに対しても、同様の反応だった。
「お互いの魔力の大きさを気配で感じとることは出来ますが、数値化というのは…」
戸惑ったように顔を見合わせる騎士団員達だったが、団長と副団長だけは何か知っているようだった。
「書物で読んだことがあります。古の大魔法使いに、そのような力を持った方がいたと。それが出来るとすると、陛下以上の潜在能力をお持ちでいらっしゃるということになります」
ナザンの言葉に兵士達は色めき立った。
「フッ」と小出の頭上で嫌な声が聞こえて上を見ると、東堂が勝ち誇ったように見下していた。
その後、装備を一旦外し、明日出発時に改めて身に着けることとなった。
それから、世界地図を受け取った。
一見ただの紙の地図だが、魔法の力で現地の様子がリアルタイムで反映されているらしい。
山が崩れればそこは平地として表示されるし、国の名前が変わればそれも書き換えられるというのだ。
「俺、今晩これ借りていいですか? 地図見るの好きなんです」
空で日本地図も書けるというとらが目を輝かせて言うので、皆それを承諾した。
そして、書状のような物も渡された。
「白き国を出ますとエタナリカ共和国という職人の国があります。武器にしろ装備にしろ、そちらの方が優れていることは否定できません。ここに白き国としての正式な依頼状と金に代わる価値のある物を添えておきますので、必要があればここに書かれている職人をお訪ねください」
書状と一緒に渡された小袋の中に入っていたのは、乾燥した植物だった。
薬草か何かの一種だろうか。
「とら、忘れないようにそれもお前が地図と一緒に持っておいてくれ」
「分かりました」
「とらばっかりじゃ悪いから俺が持っておきます」
「いやとらだ。とら、頼む」
自分にも何かを任せて欲しげな小出の申し出を、高橋は頑として受け付けなかった。
「水泳の日に制服の下に水着を着てきて、替えの下着を忘れてくるような奴には絶対頼まん。――とら、頼んだぞ」
それを言われてしまうと、小出は言い返す言葉もなく黙ってしまうしかなかった。
その後はもうすっかり遅い時間になったこともあり、昨夜と同じ配分で部屋を用意してもらい、休むために各自の部屋へ向かった。
しかし、高橋の後ろを小出がピッタリと付いてくる。
2年生用の部屋を過ぎても付いてくるので、さすがに何か用があるのかと振り返ると、2人きりで話がしたいと言い出した。
佐田と武晴がさっさと部屋に入ったのを確認し小鳥を見送ると、徐ろに小出は高橋に切り出した。
「さっきナザンさんが言ってた話なんすけど…」
珍しく歯切れが悪い。
さっきリズトが言っていた話を高橋は思い返す。
「春日野さんを城に残していくっていう話…」
ああ、あれか、と思い出した。
「本当に残していった方が、俺、いいと思うんです」
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