第8話 なんか勇者っぽい
「えー…っと。それはつまり、東堂、お前が勇者だって言いたいのか?」
小出が動揺しつつそう訊くと、東堂は当然のように答えた。
「まあ、普通に考えてそうだろう。他の奴に出来なくて、俺だけが出来るんだから。――悪かったな、小出」
つい先ほどまでのテンションが嘘のように小出はあからさまに落ち込み、黙り込んでしまった。
それに釣られるように、1年生達からも活気が消えた。
高橋は危ぶんでいたことになってしまったと、敢えて大きな声で皆を元気付けた。
「誰が勇者でもやることは1つだろ。俺達はチームだ。点を取るのが1人であっても、それは1人で取った点ではない。メンバー全員が力を合わせた結果に過ぎないんだ」
それは、試合中に1人で続けて得点して有頂天になりがちなメンバー――主に小出だが――を叱責する際によく口にする言葉だった。
「それで東堂。お前のステータスってやっぱり皆より高いの?属性とかどうなってる感じ?」
そして主将の叱責の後には、副将が場の雰囲気が悪くならないようにフォローするのが常だ。
「まあ、そうですね。レベルはまだ低いですが、ステータスは全体的に…特に防御力が高めです。属性は――…闇です」
「闇!?」
数名が声を揃えて驚き、小出は持ち直して東堂に突っ掛かっていった。
「闇?――ないわあ。勇者が闇属性ってのはちょっとねえ…。せっかく格好付けたのに残念だったね、東堂くん」
その勝ち誇ったような言い方に東堂はイラッとしたが、小出に構わず岸が訊いてきた。
「東堂さん、俺の属性は何ですか?ステータスがどうなっているのか教えてください」
「あ。俺も知りたいです。風属性っていうは分かったけど、他はどんな感じなのか」
「俺も俺も」
「――皆もこう言ってるし、俺も気になるから、悪いが全員のステータスを見てくれないか?」
メンバー達の様子から大事なものだと察したのか、ゲームに疎く、ステータスというものをどこまで理解しているか分からない高橋が、皆を代表するように東堂にそう頼んできた。
「分かりました…。じゃあ、高橋さんから見ていきますね」
正直面倒くさいとは思ったが、HPやMPを消費するものでもないので、1人ずつ順にステータスを確認していった。
「
Lv. 2
無属性
習得魔法:
特殊
『激励』の
ステータスは全体的に高く、突出したものはないバランスのとれたパラメーターですね」
東堂の目には細かい数値も見えていたが、ゲームに詳しくないメンバーの多い中でそれを言っても理解し辛いだろうと、分かりやすく簡潔に説明することにした。
「属性が無いのに魔法って使えるものなのか?」
「どの属性の魔法も同じように習得できるってことです。属性持ちほど強力な魔法にはならないでしょうけど」
「オールマイティってことか!なんか俺が勇者っぽくないか?」
「舌の根の乾かぬうちに何言ってるんですか」
「でも、バランスが取れてるってのも、如何にも勇者って感じだろ?」
「突出したものがないっていうのは、必殺技のないヒーローみたいなもんですよ」
高橋が歯を見せて笑うと、横から小出が茶々を入れてからかった。
「じゃあ俺は?」
「
Lv. 2
光属性
習得魔法:治癒
特殊
佐田さんもステータスは全体的に高いですが、MPが特に多いです。
あと、精神攻撃耐性と魔法攻撃耐性も高めです」
「光属性だって。俺が勇者かも」
「いや、攻撃魔法より治癒魔法を習得してるあたり、パーティの回復役って感じじゃないですか?」
「ええ〜」
岸にそう言われて、佐田は唇を尖らせた。
東堂は外野のやり取りは全く気にせずに、さっさと先を進めた。
「
Lv. 2
土属性
習得魔法:なし
特殊
魔法や
言いながら、昨夜部屋の入り口を武晴に塞がれた時のことを思い出した。
いくら武晴が100kg以上あろうと、ラグビー部員2人がかりでも微動だにしないというのは普通に考えてあり得ない。
だがこの数値を見て、これは無理だよなと納得がいった。
「さっすが武晴。これは武晴が勇者かなあ」
「あの筋肉だもんな。あり得るよな」
「
Lv. 1
火属性
習得魔法:なし
特殊
HPと素早さがやや高め。以上」
「え?それだけ?なんか寂しくない?なんでまだ俺Lv. 1な訳?」
「先輩達は昨夜
「朝やってたじゃん!」
「叫ぶだけで上がる訳ないっつの。はい次」
「
Lv. 1
水属性
習得魔法:なし
特殊
攻撃力・防御力がやや高め」
「以上?」
「以上」
小出と似たような状態に、岸は頭を抱えた。
「ああーっ。やっぱり小出先輩と行動を共にしたのが間違っていたんだ!異世界生活の初っ端でしくじっちまったー!!」
「ちょっ、岸たん!?」
「
Lv. 3
風属性
習得魔法:
特殊
『疾風』は昨日見たとおり早く走る能力。
『羅針儀』は道に迷わずに進める。
やっぱり素早さの数値が桁違いだな」
「先輩を差し置いていきなりLv.3かあ」
「努力家だからな」
「とら勇者説も捨てがたいな」
3年生トリオは、もはや解説者のようなノリで考察して楽しんでいた。
選手全員分を言い終えると、とらが東堂に質問した。
「東堂さんも何か習得している魔法や
東堂はあまり自分の手の内を明かすのは好きではないため、出来れば答えないでおきたかったが、外野が
「これから一緒に戦うんだから、お互い何が出来るか知っておかないとチームプレイにならないだろ」
「出し惜しみすんなよ。大した能力ないんじゃないか」
と煩くするので、共有しておいた方がいいものだけ明かすことにした。
「習得している魔法には『暗幕』『毒』『麻痺』などがあります。
特殊
精神攻撃と魔法攻撃に対する耐性は高めです」
「――毒と麻痺って…、お前絶対勇者じゃないよな」
からかいでは無く、小出は心の底から呟いた。
ワイワイと盛り上がる中、高橋は小鳥の鎖骨の傷が視界に入って、佐田に声を掛けた。
「佐田、治癒魔法が使えるんなら小鳥の傷も治してやったらどうだ?」
「ん、そうだね」
佐田は小鳥の前に座り治そうとしだが、そこで魔法の使い方が分からないことに気が付いた。
「東堂!どうすればいいの?呪文とかあるの?」
「そこまでは知りませんよ」
「んー。じゃあ、まず念でも送ってみるか。…治れ治れ治れ治れ治れ治れ」
小鳥の鎖骨に両掌を向けてブツブツ唱えていると、小鳥は傷口付近が光に覆われているような感覚を受けた。そして、
「あ」
皆の見守る前で、傷がみるみるうちに塞がって跡形もなくキレイな肌に戻った。
「すげえ。ほんとに治った!」
実際に目の前で見る魔法に、皆感動を覚えた。
「佐田さん。申し訳ありませんが、俺の傷も治してもらえませんか?結構不便なんですよ」
東堂が今朝マトに噛まれた指先を佐田に見せた。
だが、佐田は初めての魔法に疲労を感じていたため、東堂の頼みを断った。
「悪い。俺今のでMP使い切ったみたいだわ」
「それほど消費していませんが…」
しぶしぶと東堂の指先に手を翳して見せたが、何も変化は起こらなかった。
「まだ使い慣れてないからコントロールできないんだよな」
言い訳めいた台詞を口にする佐田を見て、高橋が
「小鳥の傷は心の底から治したいと思って、東堂の傷は『チッ。面倒臭え。それくらい自然治癒に任せろよ』って感じだったな」
と感想を述べた。
それにとらが
「魔法には気持ちを込めることが重要なんですね」
と共感して頷いた。
彼らのやり取りを見ていた小鳥は、ふと思いついた。
「東堂くん。あたしも治癒魔法使えないかな?見てもらってもいい?」
「ああもちろん。ちょっと待って。ええー……と。……」
「どう?どんな感じ?」
他のメンバーのように攻撃力や防御力が高いとは思わないが、せっかくだから魔法が使えたらいいなと少し期待していた。
男子達も「せっかくだから小鳥に治癒してもらえたらいいな」といった目で見ている。
「…………」
「東堂くん?」
しかし、皆の期待とは裏腹に、東堂は困惑した声を出した。
「………………なんだ、これ」
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