28話
その日の放課後、恒例となった奈留との帰り道で、奈留の方から例の件について切り出してきた。
「幸也くん、その、次の日曜日のことなんだけど――」
「縁日な、一緒に行こうな」
「なんで言いたいことわかったの!? エスパー?」
ただの経験と勘なんだけどな。
「だけど奈留は大丈夫なのか? 一昨日出かけたばかりだし、負担になってはいないのか?」
「そんなこと全然ないよ! むしろ行かなかったら私どうにかなっちゃうよ!」
ああ、やっぱりギャル達に強制されているのか、あまりにも不憫だ。
ギャルと言えば、昼休みが終わって教室に戻ると田中と佐藤が何故かくたばっていたが。何かあったのだろうか。
いつもは有り余って元気な集団なのだが、敵とはいえ少し心配してしまう。少しお人好しが過ぎるだろうか。
「朝の天気予報だとあと10日は晴れ模様が続くって言ってたから、花火も見れるだろうな」
「花火! 私花火って家のベランダで横からしか見たことないから、近くで下から見るの楽しみだなぁ」
「俺はむしろそっちから見てみたいんだが……」
ブルジョワみを感じる。
「あ、私ばかり盛り上がっちゃってたけど、幸也君の方こそ大丈夫? 毎週じゃ疲れちゃわないかな?」
「まだ若いから全然大丈夫、それに奈留を寂しがらせるわけにはいかないからな」
ぶっちゃけた話、体力よりも金銭面の方が心配なのだが、ヒーりん許すまじ。
まだ1週間もあるのに当日の計画を練ろうとする奈留をまるで父親のような気持ちで宥めながら、俺たちは帰路を歩き続けた――
時は過ぎ、縁日の前日、土曜日。俺は
美容院である。
まぁ、行きつけの美容院なので特に緊張することはないのだが、今日は何故か足踏みをしてしまっていた。
とはいえ予約の時間は迫っているのでさっさと入らねばならない、そう思っていると店長に見つかってしまう。
「あれ~? 幸也君そんなところで黄昏てどうしたの、早く入りなよ」
確か今年で40になる、ダンディズムな髭を生やした店長に手招きされ、俺は入店した。
「幸也君見たの少し久しぶりな気がするなぁ、2ヵ月ぶりくらい?」
「そうですね、新学期始まる前に来たんで、それくらいですね」
「本当は遅くても一月半くらいの間隔で来てくれると嬉しいんだけどね、それじゃあ窓側の席へどうぞ」
もう何度したか分からないやり取りだ、今日はお客さんも少ないのか、珍しく入り口に近い所に通されたという違いはあるが。
「今日はどうするんだい? いつも通り揃える感じにするかい?」
「それなんですけど、今日はちょっと相談があるといいますか……」
「ふーん? なんだね、おじさんに聞かせてみなさい」
「その、どうしたらかっこよくなりますかね、俺」
「え? ……ふっふふ、あははははは!」
店長が腹を抱えて笑いだしてしまった、泣きそう。
「すいません、やっぱり聞かなかったことにしてください……」
「ははは! いやぁ違う違う、いつになったら言い出すかなと思ってたからさ、ついにその時が来たかとね」
「え? それはどういう……」
てっきり「その面で何言ってんだこいつ」という笑いだと思ってたのだが、どうやら違うみたいだ。
「笑ったのは申し訳ないけどね、もう5年近い付き合いだからさぁ――そうか、幸也君もそういうお年頃になったんだねぇ」
「ええと?」
「まぁ幸也君にも好きな子の1人でも出来たのかと思ってね、いや、それとももう付き合ってたりするのかな?」
「いや、ちが! そういうことではなくてですね!」
「そうかねぇ、明日の縁日でデートだから、気合入れに来たのだと思ってるんだけど?」
「うっ、ぐぬぬ……」
概ね正解なのが悔しい、前回のデートで
しかしここまで露骨にバレてしまうと恥ずかしい、鏡に映る俺の顔がどんどん赤みを増している。
「今までは幸也君の要望通り地味目なカットをしてきたけど、今日は少し
「そ、そこまでは望んでないというか――」
「だめだめそんなんじゃ! そんな弱気じゃ振り向くものも振り向いてくれないよ」
「でも俺が背伸びしたところでそんなに変わらないんじゃ……」
「そういう考えがダメって言っているんだよ幸也君! 自分の為、牽いては相手の為にも、ここは最善の尽くしどころだよ!」
店長がやる気マンマンになってしまった、なんか明菜みたいなこと言ってるし、やっぱり相談したのは失敗だったかもしれない。
「それで髪型はどうするか、ある程度は決めてるのかい?」
「ぶっちゃけ店長にお任せしようかと」
「それは出来れば勘弁してほしいところだなぁ~、いざフラれたとき僕のせいにされたら責任持てないからね」
「まぁ、確かにそうですね……」
いずれフラれるのは確定だから別に店長を恨んだりはしないのだが、そんなことわかるはずないもんな。
店長が幾つか出してくれた雑誌の中から自分に似合いそうなものを探していく、しかしどれもモデルが良すぎるせいで自分に合ったものがわからない。
結局俺はこれから暑くなることも鑑みて、よくわからないが短めの奴を選択し、店長に指さした。
「それじゃあ、こんな感じにお願いします」
「ほう、このタイプのベリーショートを選ぶとは、結構大胆だねぇ」
自分的には無難そうなのを選んだつもりだったが、もしかしてやっちまったのだろうか。
「あの、やっぱり別ので――」
「はぁいじゃあシャンプーやっていきまーす」
ああもうダメだ、既に決定事項らしい。
こうなったら仕方ない、あとは野となれ山となれ。
俺は期待一割不安九割の面持ちで、目を瞑り、店長に身を任せるのであった――
「お兄ちゃん、おかえりなさ――だ、誰だお前!!」
やっぱりやらかしたわこれ。
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