26話

 ――皆さん見てください! 幸也くんからの初めてのプレゼント! 等身大ヒーりんです!

 

 ――ああ、奈留っちの好きなキモい奴じゃんか、ゆっきーわかってんなぁ!

 

 ――き、キモくない! 全然キモくないよ!! 

 

 ――いや、わりぃけど結構キモいよ。

 

 ――キモいわね。

 

 ――(´;ω;`)

 

 ――キモクナーイ☆

 

 ――ありがとうしーちゃん高橋、君だけが私の味方だよ……

 

 初デートの夜、帰宅した奈留は早速とばかりに本日の戦果を仲良し3人組にRINEで発表しているところだった。

 

 結果は初プレゼントを相当にディスられてしまったが、自分にしか価値が分からないんだと無理やり納得することにした。

 

 ――まぁでも奈留っちとゆっきー仲良くやってるみたいで良かったわ~、正直ゆっきー根暗っぽいから、奈留が愛想尽かして早々に破局するかも~、なんて思ってたけど。

 

 ――まぁ、よく言えば草食系男子だけど、正直そのカテゴリの中でも、もっと良い男なんて有象無象いるしね、服部とか。

 

 ――ヒーりんだけじゃなくて彼氏もディスるのはやめてください……。

 

 自分の価値観を根底から否定されてるようで、奈留の心は崩壊寸前であった。

 

 とはいえこんなこと言われている幸也だが、本人が思っているほど教室での評価は悪くない。

 

 人の嫌がることは率先して手伝うし、話しかければそれ相応の対応は出来ている。

 

 ただ幸也自身が自分から行動するのに消極的過ぎたせいで、周囲がどう対応すればいいか分からなかったのだ。

 

 本人がもう少し勇気を出せればそれこそ友達作りに苦労することも無かっただろうに。コミュ障の悲しき性である。

 

 ――まぁそれは置いといて、初デートでどこまで行ったのかにゃ~、花さんはそこが一番気になるんな~。

 

 ――うう、やっぱり書かなきゃダメ?

 

 ――別に奈留っちがどうしてもって言うなら良いけど~、誰のおかげで愛しの彼氏さんとくっついたのか忘れたのかな~。

 

 ――そういう事言うの卑怯だよ……。

 

 実際のところ、3人のおかげで幸也と付き合うことになったのは事実なので言葉では言い表せないくらいの感謝を捧げている奈留であるが、それとこれとはまた別の問題である。

 

 そもそも自分で今日のデートの事を明かしてしまった以上、どうせこの場で誤魔化しても月曜日が来れば教室で聞かれるのだ、だったらこの場で明かしてしまった方が楽ではないか、そう思った奈留は指を画面に滑らしていく。

 

 それに明菜との約束で『相談』するべきこともあるしと、奈留は今日の出来事を投下していく。

 

 ――えっと、今日初めて、その、キスをしてしまいました。

 

 ――ひゅ~! 奈留っち大胆~! いや、それともゆっきーからかな~。

 

 ――それはないと思うわ。

 

 ――ナーイ☆

 

 ――もしかして皆幸也くんのこといじめてたりするの?

 

 そんな事実は欠片もないが、当の本人は絶賛いじめられ中だと思い込んでいるのがとても面白い。

 

 ――まぁまぁ、それでどうだったんよ~、初チューの感想は!

 

 ――タピオカ……

 

 ――は?

 

 ――タピオカミルクティーの味がしました……

 

 ――ねぇ、まさかと思うけど『間接』なんてオチはないわよね?

 

 ――(´;ω;`)

 

 ――んだよ~、期待させんなよ奈留っち~、小学生じゃないんだからさ~。

 

 奈留にとっては一大事件だったのだが、本当に経験豊富・・・・な3人を唸らせることは出来なかったようだ。

 

 ――それだけで帰ってきちゃったのかよ~、ゆっきー奥手が過ぎんよ~。

 

 ――幸也くんは精一杯頑張ってくれてるもん!

 

 ――そうは言うけどさ~、もう付き合って10日くらいでしょ~?

 

 ――それだけあったら普通、キスどころか次のステップに移行してるわね。

 

 ――次!? 私たちまだ高校生だよ!?

 

 ――高校生だからだろ奈留っち~、初心うぶが過ぎるとゆっきーの方から愛想尽かされるかもよ~。

 

 ――それは困るよ! 幸也くんの妹さんにも同じこと言われたけど、私どうしたらいいの!

 

 あの奈留にゾッコン・・・・の男に限ってそんなわけないだろと思う田中だが、ちょっと揶揄ってみたら思いの外食いつきが良くて、どう対処するか困ってしまった。

 

 自分のように上手く・・・男を誘導できるなら何も問題ないが、それこそ初心が服を着て歩いているような娘には荷が重いだろう、果てさてどうするかと田中が悩んでいると、佐藤から名案、もとい迷案が飛び出した。

 

 ――自撮りでも送ってみたらどう? 積極性をアピールしたいなら、うってつけだと思うけど。

 

 ――さっちんそれは……ああ、でもあの男はそれくらいせんと動かんかぁ~。

 

 ――自撮り? 自分の写真を送ればいいの?

 

 ――うん、下着姿になって、目は隠してな~、あと万が一ネットの海に流れると困るから、微細注意すんよ~。

 

 ――そんなもの送れるわけないでしょ! みんな何考えてるの!

 

 ――そんなこと言ってるといつまで経っても次に行けんよ~、それにこれは奈留っちを守るためでもあるんだからな~。

 

 ――どういうこと?

 

 ――男なんてな~、普段は紳士的でもスイッチが入ると豹変して襲ってくることなんて普通だかんね~、だからこういうエサ・・を撒いておいて、発散・・させておくんよ~。

 

 ――幸也くんに限ってそんなこと絶対ないもん!

 

 ――それはどうかしらね、奈留にもちょっと心当たりがあったりするんじゃないの?

 

 ――うぐぐ。

 

 そう、奈留には心当たりがあったのだ。

 

 それは幸也の家で試験勉強をしていた際、幸也の視線がチラチラと自らのふとももに注がれていることに気づいていたのだ。

 

 幸也は気づかれてないと思っていたが、普通にバレバレであった。

 

 ――まぁ送る送らないは後で考えるとして~、とりあえず撮るだけ撮ってみんさいな。

 

 ――うう、わかりました……

 

 冷静に考えればそんなもの撮る必要は全くないのだが、またもギャル達にその気・・・にさせられてしまった奈留は準備に取り掛かった。

 

 スルスルと着ていたシャツやデニムを脱いでいく、後は姿鏡に映った自分の写真を取ればおしまいである。

 

(うう、恥ずかしいけど、これも次のステップを踏む為の儀式っ!)


 言われた通りに片腕で目のラインは隠し、ブレないように気を付けながらパシャリ。

 

 スマホのアルバムに追加されたあられもない自分の姿を見て、奈留は顔から火が噴き出そうな面持ちであった。

 

 そして普段はほとんど使わないが、画像加工アプリで『修正』していく。

 

 完了するとそれを幸也とのトークに貼りつけた、あとは送信ボタンを押し――押さない。

 

(いや、こんなの送れるわけないし!)


 ここでやっと冷静になった奈留は田中達の口車に乗せられていることに気が付き、憤慨する。

 

(危ないところだったぁ、こんなの送ったら幸也くんに痴女だと勘違いされちゃうよ)


 そう思い直し、下書きを消そうとした奈留であったが、そこにまさかの悲劇が。

 

「ちょっと奈留! あなた帰ってきたなら一言声かけなさないな! 心配しちゃうでしょ!」


 奈留の母親である志乃がノックもせずに部屋に入ってきたのだ、奈留はそれに驚き、びくりと霹靂へきれきに打たれたように飛び上がった。

 

「ママ! 部屋に入ってくるときはノックしてからにしてって、いつも言ってるでしょ!」

「そういうことは私との約束が守れるようになってから言うのね、あとちゃんと服は着なさい、はしたない」

「ぐぬぬっ」


 それだけ言うと志乃は去って行ってしまった、気を取り直した奈留は画面に映っている、とある文字を見ると、体から血の気が去ってしまった。

 

 送信済み。

 

(やああああああああ! 弾みで送信しちゃったあああああああああああ!?)


 急いで指を動かし削除に走る奈留だが、削除完了の直前に『既読』が付いてしまった。

 

(お、終わった――)


 出来れば永遠に月曜日が来ないでくれと願いながら、奈留はベッドに崩れ落ちた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方の遠山宅。現在幸也はお風呂に入っており、スマホはリビングのテーブルに安置されていたが、突如として通知が入る。

 

 それに気づいた近くでマンデーを読んでいた目聡い妹が、何気なしに画面を覗き込んでしまう。

 

(お! 奈留さん早速何か仕掛けに来たのかな~)


 奈留から幸也宛に画像が送られていることを確認した明菜に、このときに限って何故か魔が差してしまった。

 

(まだお兄ちゃんお風呂入ったばかりだし、今のうちに見ちゃおうっと!)


 普段なら絶対にこんなことはしない明菜だが、お年頃の好奇心が爆発した結果である。

 

 幸也のスマホを操作してパスワード(幸也の誕生日のアナグラム)を入力する明菜。

 

 良い子はめんどくさがらずに顔認証しておこうね。

 

 そしてロックが外れ、RINEを開き、奈留の送信した写真を見た明菜は、危うくスマホを落としそうになってしまう。

 

(え、え!? 奈留さん、こんな、こ、これはダメだよ! こんなのお兄ちゃんが見たら……死んじゃう!!)


 経験・・の無い明菜にとってそれは余りにも刺激的な光景であった。

 

 そして同時に、あの純情な兄がこれを見たらどうなってしまうのか、考えるのも恐ろしい。

 

 しかし自分に出来ることは何もない、慌ててスマホをテーブルに戻すと、読みかけのマンデー片手に自身の部屋へと逃げてしまった。

 

 結局その日幸也が『写真』を見ることはなかったわけだが、その事実を2人の女の子は、当然知る由もなかった――

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