コミュ障の俺のところにクラスの隠れ美少女が罰ゲームで告白しに来たようです……

オモチミチル

1話

 遠山幸也とおやまゆきやは激怒した。かの邪知暴虐のギャル3人衆を除かねばならないと。

 

 なんて現実逃避しても目の前の現実は変わらない。俺の前には可愛いらしく頬を染め、何か覚悟を決めた表情をしているクラスメート、佐伯奈留さえきなるの姿がある。可哀相に、寒くもないのにその小さな体は密かに震えていた。

 

 どうしてこんなことになってしまったのか、きっかけは今朝俺の机に入っていた1通の手紙、内容はやたらと長かったが、要約すると「放課後、とても大切なことをお話したいので、屋上に来てください。佐伯奈留より」というものだった。


 どう考えても明らかな罠。しかし俺は逃げることが出来ない、クラス内カースト最下位の俺がこれを無視したとなれば、次はどのような酷い目に合わされるか分かったものではないのだから。

 

 最初は、上手くいってると思ってたんだ。

 

 小学生の頃はたくさん友達がいたのに、中学生になった途端にコミュ障を発症して陰キャの仲間入りという典型パターン。奇跡的にいじめられることはなく中学校を卒業し、地元の高校に入学した俺は当然高校デビューなんかする勇気もなく、そのままクラスの端っこで毎日を過ごしていた。

 

 それから1年間は本当に上手くやってた自信がある。運よく変わり者の友人を1人獲得して、たまにクラスのギャル達にいじられるくらいはしたけど大きないじめに遭うこともなく、無事に2年生になることが出来た。残りの2年間も中学の時と同じように平穏に過ごせる、そう思っていたのに。

 

――神様、俺、何か悪いことしましたか?


 佐伯は俺の隣の席に座っている女の子。この令和の時代では天然記念物の眼鏡を掛けた純正黒髪文学少女。髪が長めで目が隠れ気味なのが残念だが、隠れ美少女として男子たちからこっそりとした人気を擁している。正直、俺も「いいな」って思っていた。

 

 そんな彼女が今、クラスの最上位カーストを牛耳るギャル3人、田中、佐藤、高橋に辱められていると思うと、あまりの申し訳なさに涙が出てしまいそうだ。

 

 屋上には俺と佐伯だけしかいない、そしてあの手紙、誰が見たって状況は『告白』。しかし、万年陰キャの俺が佐伯に告白される可能性など万に一つもないのだ。つまり、これは誰かに仕組まれた罰ゲームであるということは明白だ。

 

 今にして思えば今朝から怪しかった、普段はギャル3人衆と佐伯はほとんど会話をすることはない。それなのに今日はやたらと4人が固まって何かこそこそやっていたのだ、ギャルの誰かが何か言う度に佐伯が小さく頬を染め、顔を俯かせていたのが印象深い、きっとあの時に俺をどう辱めようかという計画を立てて、心優しい佐伯に何をさせるかで盛り上がっていたに違いない。

 

 恐らく今も隠しカメラか何かで俺たちの様子をうかがっているのだろうと思うと怒りに打ち震えそうだ。俺も被害者だが、佐伯はもっと傷ついているはずだ、普通に考えて根暗の陰キャに告白させられるなど、自尊心が粉々に砕かれたっておかしくないのだ。

 

 俺はどうにかこの状況をスマートに解決できないかずっと考えているが、答えは出ない。そうこうしているうちに佐伯が口を開いてしまった。

 

「と、遠山君に、お話があります!」

「あ、は、ひゃい!」


 噛んでしまった、これも撮られてるのかと思うと泣きたくなる、いやちょっと泣いた。

 

 佐伯も相当恥ずかしいのか俺に負けず劣らず涙目だ、深呼吸を1度、2度行うと、ついに「その」言葉を放ってしまった。

 

「1年生の頃から気になってて、だから、その……っ! 好きです! 私とお付き合いしてください!」


 言ってしまった。聞いてしまった。こうなってしまった以上、返答は「よろしくお願いします」以外ありえない。何故なら断れば最後、ギャル達に「何様のつもりなんだ」と揶揄からかわれる上、佐伯のプライドはズタズタに引き裂かれるのだから。


 ならば同じ様に笑われるとしても佐伯だけは守らなけらばならない。俺はどうなっても構わないが、これ以上佐伯が傷つく姿を見るのはもう我慢の限界だった。俺は覚悟を決めて「答え」を伝えた。

 

「こ、こちらこそよろしくお願いしますゅ!」


 また噛んでしまった、しかも微妙に。穴があったら入りたいってこういう事を言うんだろうな……

 

 だけどこれで『撮れ高』は最高だろう、さぁ後は答え合わせの時間だ、俺はどんな辱めにも耐える覚悟を決め、目を閉じた。

 

 しかしいつまで経ってもその時は訪れない、不審に思った俺は目を開けると、そこには信じられないように目を見開き、こちらを見つめる佐伯の姿があった。頬は先ほどよりも遥かに紅潮し、目も潤いを増している。

 

 ――もしかして、回答を間違えたか?

 

 ここで俺は重大なミスを犯したことに気づいた、きっと俺が断ればその場で答え合わせが行われるはずだったのだ、しかし俺が告白にOKしてしまったことでこの『遊び』がまだ続くことになってしまったのだと。


 これから先、俺が有頂天になった途端にネタ晴らしを行う手筈なのだろう、今まではあの3人を悪い奴とまでは思っていなかったが、ここまでの邪悪だとは思いもしなかった。

 

 だからこそ佐伯は絶望しているのだ、ここで終わるはずの生き地獄が先延ばしになってしまったことに。あまりの悔しさに膝から崩れ落ちそうになるが、そこに佐伯から声が掛かる。

 

「ほ、本当!? 嘘じゃないよね! 私、遠山君の彼女ってことでいいんだよね!」

「え、は、はい、大丈夫、です?」

「っ! えっと、じゃあその、幸也、くん?」

「!?」


 今まで生きてきた中で一番の衝撃だ、気になっている女の子からの名前呼び、もちろん頭ではそうするように脅迫されていることを理解しているが、心臓はそれと裏腹にどんどん鼓動を強めていく。

 

「……幸也くんは、呼んでくれないの?」

「そ、それは」


 反則だろう。さっきからもう喉はカラカラだ、それでも、今は声を絞りださねばならない。

 

「な、奈留……」

「はい!」


 さんを語尾に付けたかったが、声が掠れて出てくれなかった。しかし満面の笑みで答えてくれる奈留。ああ、これが本当の告白だったらどれだけ幸せだっただろうか、そう考えたとき、遂に俺の目から涙がこぼれ落ちた。

 

「ゆ、幸也くんなんで泣いてるの!?」

「ごめん、なんか全然実感湧かなくて……」


 俺の平穏な日々が音を立てて崩れていく光景が目に浮かぶ、明日からどんな顔して授業を受ければいいんだ、もう学校にも来たくない。


「大丈夫! 全部現実だから、ね?」


 それは大丈夫じゃないんじゃないかなと返す元気もなかった。それでも優しく慰めてくれる奈留に、俺の心は解されていった――

 

 

 これこそが俺と奈留のそこそこ長い勘違いカップル生活の馴れ初めになるわけだが、そのことに俺が、そして奈留が気づくのは、もうちょっとだけ先のお話。なんてね。









†††以下、作者のお気持ち表明†††


お読みいただきありがとうございました。もし面白いと感じていただけましたら、是非フォローやレビューをお願いします。やる気が、出ます。

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