2度目の世界は貴女と共に。〜転生したら目の前で美少女が飛び降りようとしてました〜
yo-gu
1 王都と彼女と少女
第1話 九条美咲と奇天烈
(ああ、そうか、やっぱりどんだけ頑張っても、どんだけ人助けと言う名の偽善をしてもこの世界に私の居場所なんて無いんだな……)
九条美咲がその生涯にて最後に考えたのはそれだけだった。
ただ、それだけの気持ちを抱えて、恐怖も、寂寥も、奇跡もない。呆気なく大学の屋上から身を投げ、その人生を終えたのだった。
いや、終えられたつもりだった。
◇◇◇
ーースキル【跳躍】【落下ダメージ無効】【自己犠牲】取得ーー
◇◇◇
「……ん……ぇ?…………」
美咲は二度と開くことがないと思ってた瞼を開き、感じることは無いと思っていた眩しい陽射しに思わず目を瞑り、もう一度当たりを見渡す。
そこは、どこか先程まで居た屋上を思わせる開けたの物見塔の上部のようだった。
しかし、更に美咲を驚かせたのはその端にて自分の傍で今にも飛び降りんとする少女の姿であった。
「……えっ……?」
少女も驚きを露わにして一瞬こちらを見たが、意を決した様にそのまま目を瞑り背後へと落下しようとする。
「……っ!!」
ー【跳躍】ー
美咲はなりふり構わずに思わず走り出し、その手を寸でのところで握り止めることに成功した。
自分でも何故こうしたのか、
彼女は誰なのか、
私はなぜ生きているのか、
疑問は絶えず頭を回るが、掴んでしまったものは仕方が無い。
「くっ……重っ……んぅっ!……」
全身を使って無理やりその腕を引きあげた。
「……っはぁ!」
思わず腰を着く
「何故助けたんですかっ!!」
引き上げた少女の第一声がそれであった。
「もうこの世に居たくない、全てを放り出したい、私を必要としてくれる人なんて誰もいない、こんな世界から早く逃げ出したかったのにっ……!」
まくし立てるように泣きながら目を腫らした少女の言葉は止まらない。
(なんで助けたんだろ……)
美咲自身にもわからぬ問いかけに対し答えは出ず
「いや……えっと……思わず……?」
としか返答できなかった。
◇◇◇
女子大生の九条美咲はごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育ち、ごく普通の高校に進み、そのままごくごく普通に成長して社会の一員になるんだと思っていた。
歯車が狂いだした、敷かれたレールからはみ出したのは大学生になってからである。
自慢する訳では無いが自分では今まで優等生でやってきたと思っている。困ってる人がいたら自分はそっちのけで助けてきたし、高校では部活動にてテニス部で副キャプテンをこなし、生徒会活動にも席をおき、学生生活の評価は高かった。そのため推薦も通りやすく、楽に実家から通える大学も勝ち取った。
そこからだ、今まではやるべき事だけやっていれば評価された。両親からは何も言われず自由にしなさいと言われて育った。学校の評価がそのまま両親からの評価にもなった。
だか今思うとこの時点で普通の家庭、ではなかったのかもしれない。放任主義という名の育ての放棄、時折嵐のように怒る父親の大きな声と妹への体罰、それを見て見ぬふりをしてイヤホンから流れる音楽に意識を集中させる自分。
それさえ気にしなければ生活に不自由はなかった。だから自分は普通だと思っていた。
いざ大学に入ると最初は今まで通りやるべき事をやるだけで評価になっていた。しかし問題は3年生になってからだ。
美咲は理系だったため、研究室に配属され、自分の好きなことを研究して、毎週成果発表をしなければならない。
そこで躓いてしまったのだ。
まず好きな事を自分から発信したことがないので見つからない。仕方ないので先輩に弟子入りを頼んだ。ただ、たった一度、先輩の指示を仰いでの実験で研究室の同期にちょっかいをかけてしまった。そこからその先輩からの猛烈な嫌がらせ、無視、謝罪を求める昼夜問わずのメールが来るようになった。
いかんせん自分がふざけたこともあってどうにか許してもらおうと真っ向から全てに対して立ち向かって全力で謝罪をし続けた。
そんなある日急にポッキリと心が折れてしまったのだ。
そこからは階段を転げ落ちるように目まぐるしく日々に影が指すようになる
学校に行けなくなり、評価が下がり、同時に親からも揶揄され評価が下がり、知らぬ間に同期と差が離れていった。
この頃にはもうどうしようもないくらいに落ちぶれて、食欲もなく、外出もしない生活が続いていた。
そんな状況ながらもテレビ通話でどうにか教授とのみ繋がって卒業研究に向かっていたが、
もうどうにも頑張れない、頑張った先に何があるか分からない、これ以上今の生にすがりついて頑張る意味が見つからないと感じ、思った。もう無理だと。
美咲は今できる最大の頑張りと決意で飛び降りることを選択したのだった。
◇◇◇
「なんとなく……?何となくでわたくしの決意を踏みにじって生き地獄に引き戻したんですか!?」
目の前で憤慨する少女の言葉に対して直ぐに理解した。ああ、この子も
「そもそもあなたは誰なんですか、なぜ許可もなく王城に立ち入っているのですか、なんのためにここにいるんですか!」
まくし立てるように言う少女
(衛兵のいない時間を選んだのが仇になったの……?)
などとと呟く声も聞こえる
「いや……自分でも分からなくて……むしろあなたは誰なのか知りたいって言うか……」
「……?……貴女この国にいながらわたくしのことを知らないんですか?」
先程より冷静になりつつ、気力が尽きたようにへたり込む金髪碧眼の可愛らしい少女が尋ねる。
「わたくしは第2王女のミュール・シュタウンです、貴女は?」
(王女?なんでそんな子が飛び降りるまで追い詰められてるんだ?)
そう思いつつも美咲は返す
「私は美咲、九条美咲です。」
「クジョウ・ミサキ……聞かない名前ですね……」
「えーっと……ここに来たのはほんとに自分じゃわからなくて、なんならなんで生きてるのかも分からなくて……」
ピクリとミュールが反応した
「……?なんで生きてるか分からないって、あなたは死者なのかしら?」
「いや、そういう訳じゃなくて……今あなたがやったみたいに飛び降りたところまでは覚えてるけどなんでか生きてるし、知らない土地だし……」
ー両者の間に沈黙が流れる。
「貴女がなんで生きてるかは分からないけれど、じゃあわたくしとミサキは二人同時に自死に失敗したってこと?」
「多分そういうことになると思います……」
「と言うか貴女なんであの距離でわたくしを助けられたのかしら」
ミュールが至極当然のことを尋ねてくる。
それもその通りだ。そばに転移?転生?したとはいえ数メートルはある距離を、落ちる姿を確認してから移動して手を握ったのだから。
(確かにそうだ……どんな瞬発力でもあれは届かない距離なはず……でもなんか身体が運動部やってた頃よりも軽いような……)
「自分でも分からなくて……落ちそうな人がいる、助けなきゃと思ったら届いてしまったというか……」
「わたくしに考えられるのは存在自体が希少な魔法使いか、とんでもない速さで走れるとか……?ミサキに思い当たる節はありますの?」
ミュールが整った顔立ちをしかめながら思案する
「うーん……確かに1歩を踏み出すのが早かった気がするような……」
試しに、と美咲はほんの少し、軽く助走をつけて走った。正確には走ろうとした。
最初の1歩が走り、ではなく陸上選手の3段目のジャンプ程の距離と速度で美咲を前へ押し出したのだ。
「っ!?!?……っとと……うわぁっ!!!」
想定していたよりも移動した美咲は、当初の予定より大きく狂った距離を常人のそれではない速さで移動してしまったのだ。
当然物見塔の屋上でそんなことをやってのけたのだ。塔の幅が足りなくなる。
ならば、当然のように美咲はその端から慣性に逆らえず落下するのだった。
「うっそ……またこの感覚を味わうの……!?」
思わず目を瞑り意識を手放そうと落下に身を任せる。
しかし帰ってきた感触は全く想定していないものだった。
ーードスンッ
ー【落下ダメージ無効】ー
まるで大きな荷物を上から落としたような音が響き、しかし衝撃は全く無く、思わず目を開けるとそこは物見塔の下で、下にはブロックで作られた床の感触があった。
「……へ……?」
(なんだこれは……夢でも見ているのか……)
思わず訳が分からずに固まったが、美咲はハッとしてふと上を見上げた。
そこには唖然とした表情がかろうじてみてとれる程小さなミュールの姿が見えた。
(どうやら落っこちたのは夢じゃないみたい……)
こうして美咲は自分の身体がどこかおかしな事になっていることに早々に気付かされるのだった。
(死ぬつもりで全部投げ出したのに訳がわかんない)
しかし自慢する訳では無いが頭も悪くは無いし冷静だと自負もしている。
(あの力加減であの距離ってことは……)
少しの間思案する美咲。
そして見上げる先にはブロックが規則正しく積み上がった物見塔がある。
(うん、多分……)
「ふぅ……よし、ミュールさん!!!ちょっと離れてて下さーい!!」
物見塔の縁からミュールの姿が見えなくなるのを確認して美咲は助走をつけた。
「ふっ!……よっ!……ハァ!……よしっと」
(やっぱりできてしまったか……)
そう、20メートル(マンションで言う6,7階)程の物見塔を、途中壁面を少し蹴りつつも登り切ったのだ。登りきれてしまったのだ。
その事がさらに普通でなくなった感覚を美咲に与えるとともに、常軌を逸しすぎて逆に達観し、冷静に自分の状況を判断させたのだった。
(はぁ……やっぱりおかしくなってるな……脚力?跳躍力?が上がってるのは分かった。あとは、そう、落下した時の身体への衝撃と損害が丸ごと無くなってる)
「なんですか貴女はっ!?なんて速さで、いや、それよりもなんで生きて!と言うか今どうやって上がって……!?」
困惑して訳が分からなくなっているミュールに対して、
(何だか小動物みたいで可愛いな……)
などと考えるくらいに美咲に余裕が出来ていた。
「まぁ、あれかな、とりあえず落ち着いて誰にもバレないようにお話できる場所とか知ってますか?」
そう尋ねられたミュールは慌てたいた様子を正し、
「えぇ……まぁ……自慢ではないですが、どうにか目を盗めないかと城内の地図と衛兵の動きはほとんど把握してますので」
そもそもここで殺されてもそれでいいとすら考えつつ、
物心ついてから城の人くらいしか会っておらず、そんな中で巡り会った、不思議で突飛で謎に満ちた人物に、警戒心よりも好奇心が勝ったミュールはそう言うのだった。
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