メモ7

胆鼠海静

書籍船は、本を建材として構成された船である。尤も船という呼び名は、我々がそれとして使っているからであって、海を渡るこの夥しい本の塊自体は、有史以前から存在しているといわれる。建材の性質上、航行を行うほど、船体を構成する本が海中に没していくため、(学問的な必要から高価な本が、海上に移動させられることも、この崩壊を助長する)定期的に建材の補給を行う必要がある。海浜に設けられた図書館に乗り上げることもあるが、その補給手段の多くは、共食いである。自身を支えるためのより重厚な建材を求めて、船は海を渉猟する。その生態をうまく利用して航行を制御していくのだが、一定量、本をその身に溜め込んだ船は舵取りが難しくなるので放棄される。彼方の海では、自身に匹敵するともがらを食い尽くし、舵を切るべき先を失った、重い身を引きずるようにして、海面を滑っている船の姿が見られるという。

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