烏は月を嫌う

まみむ

零・誕生

「旦那様、お生まれになりました。」

「本当か!?どちらも無事か!?」

「ですが」

「どうした!何かあったのか!?」

「とにかく、こちらへ。」


烏ノ民にとって、黒は最も大切な色であり、烏を表す色である。故に、烏の血が入って生まれたものは、髪の毛は美々しい黒であり、黒い瞳に鋭い目つきをしている。また、本家の烏木家に生まれたものは、八ノ齢の時、左手の甲に烏羽の形をした痣が浮かび上がる。


「旅(たび)よ、子に何があった?」

「見て頂いたほうが、はやいかと。」

走りながら話していたから、旅がどういう顔をしていたか見えなかった。でも、なぜか微笑んでいたように感じた。しかし、私には恐怖しか感じることしかできなかった。


「オギャーー!オギャーー!」

部屋に近づくにつれ、赤子の泣き声が聞こえる。少し安心した。

妻子のいる部屋に着いたが…襖を開ける手が震えてしまう。

赤子に何か問題があるのか、それとも妻に。

(くそっ…!!こんな時に、手が震えているなんて弱すぎる当主だ…。)

すると

「旦那様、ご準備はよろしいでしょうか。」

旅の声にハッとさせられた。彼女の声は、耳にすっと入ってくる。

(旅は本当に冷静な子だ。何事にも動じないのは、あの両親に似ているな。旅を選んで成果だったな。)

深く深呼吸をし、

「あぁ、構わない。」

旅がスーッと襖を開ける。

「あなたっ!!」

妻の月夜(つきよ)は涙ぐんでいた。それ以上に私は月夜が抱いている赤子に驚きを隠せない。烏ノ民は黒髪・黒い瞳が特徴のはずだ。しかし、まれに黒ではない民が弐ツいる。壱ツは、なんらかの原因で黒の色素が抜けてしまう「白烏」。そして、もう壱ツは……


「金烏…なの、か……。」


金烏。それは伝説の烏。本家である烏木家のみ生まれ、髪の毛・瞳の色すべてが金色であり、生まれてすぐ、頬に烏羽の痣がある。金烏が生まれると、ある災いが起きる予兆である。しかし、その災いを回避できれば、幸福が訪れ、烏ノ民すべてが幸せになると言われている。


唖然としている私に月夜は

「この子はきっと……私たち烏ノ民に幸福をもたらしますわ。」

月夜は暖かい笑顔を赤子に向けていた。その笑顔を見て決心した。

(金烏がなんだ。災いがなんだ。こんな可愛い子が生まれたのだ。この子を幸せにしよう。)


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

この状況をみて私は決意をした。

旦那様、奥様、そして、金烏。きっと幸せにしてみせる。どんな災いが起きようとも、この旅、命を懸けて烏木家をお守りいたします。烏木家の守り人として……必ず……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る