2.神様の失敗

からだがだるい。


重くて全然思うように動かない。


焦げるような臭いがする。


あついあつい…あつい?! 


暑い厚いのあついじゃなくて熱い!!


おかしい、ここはどこ?


こんな場面ゲームにもなかった。


なんとか力を振り絞って目を開く。




そこは見たことない場所だった。


見たことない、画面越しでも見たことない世界だった。


おかしい、ここはどこだ?!


それ以前に私は誰だ?


誰になってしまったんだ?




いや、それどころじゃない。


今、目の前で建物が焼けてる。


倒れた身体をどうにか動かして建物に向かって座る。


その場所は私の頭のなかでどこか懐かしい場所だった。


大切な場所だった。


この場所はどこ?


誰かこの中にいるの?


そんなことを考えているうちにどんどん火は広がっていく。


目の前の家だけじゃなく、まわりも次々燃えていく。


目の前の景色が赤色に染まっていく。




動けない動けない動けない!!


私の横を走り去っていくひと。


建物に向かってなにか叫んでるひと。


私にとってこの場所はなんだ…?




「お…とう…さま、おかあさま」




無意識のうちに口から出た言葉はそれだった。


私の声とは違う、きれいな声だった。


小鳥のような美声とはこういう人に使うのかと思った。


それが今の




私であった。




そうか、この家は私の家族が住んでいた場所なのか…


私はまた、自分の家族を失うのか…。


嫌だ、一人にしないで。


また、私をおいていかないで。


嫌だ嫌だ嫌だ!!


一人は寂しいよ、そばにいさせてよ!




「お父様!お母様!!」




私は赤く染まった壁に向かって走る。


まだ、会えるかもしれない。


なにもわからない私を一人にしないで。


そばに、今度こそは一緒にいさせてよ。


お願い、私もつれてって。


火の手に向かって手を伸ばす。




「なにをやってるんだ?!!」




後ろから男性に手を捕まれて止められた。


彼もここにいたのか服装はだらしなく髪に火の粉がついていた。




「君は?!とにかく、ここを離れるぞ!」


「嫌、嫌です!まだなかにお父様とお母様が!!」




私は全力で振り払おうとした。


男の人に力で勝てないのはわかっている。


だけと、どうしても家族のもとにいきたかった。


母親と父親に愛されてみたかった。




「お願い、いかせて!!」


「だめだ!!!しっかりしろ!!死ぬ気か?!」


「お願い、一人にしないで!」




私は火に向かってひたすら叫ぶ。


この叫びは私なのか、私が転生したからだの少女なのかはわからない。


だけど叫ばずにはいられなかった。




「お願い、お願いなの!!おねがい…だから…」




私はその場に崩れ落ちてしまった。


どうすることも出来ない自分に腹立たしくなる。


私はまた、ここで大切なものを失ってしまうのか。


何で、転生してまでまたこんな目に合わないといけないんだ。


どうしていつまでも燃え続けるんだ。


それ以上私から大切なものを奪わないでくれ。


おねがいだから。


雨でも降って、全て消し去ってくれ。


雨…水…魔術…。




「そうだ…魔術なら消せる」


「なにをいってるんだ?」




「そうだ!!魔術ならみんなを救える!!」




やり方なんてわからない。


だけど、今はなにかをしないと耐えられなかった。


なにもせずに失うことは耐えられなかった。




「魔術は禁忌だ!!なぜそれを君が使えるんだ?!!」




男の言ってること、さっき神様もいってた気がする。


けど、気にしてはいられない。


私はこの場所を守らないと、助けないといけない人がいるんだ。




「ああああああああああああああああああ!!!!!」




私はその場で叫んだ。


水が降ることを祈って。


みんなが助かることを祈って。


腹のそこから自分の声とは思えないきれいな声で叫んだ。


叫んで叫んで、ただ叫んで


終わったときには気絶した。


水が大量に降り、鎮火したこともしらず。


私は深い眠りについた。


















ここは夢の中だな。


直感がそうだといった。


私は夢の中にきたら真っ先にしないといけないことがあった。




「神様のやろうはどこじゃーー!!!!」




いつもの聞きなれた自分の声だった。


小鳥というよりはカラスの方がお似合いだ。


いけない、カラスに失礼でした。




「はいはーい、どう?楽しめそう?」


「どうもこうもあるかー!!って、どちら様?」




あれ、神様じゃない。


クリオネじゃなくて今度は人型だった。


人型といっても棒人間みたいだった。


顔がまるでそれ以外が線。


顔にかかれた表情がまた絵みたいだった。


というか、この声




「咲菜の声だ」


「サナっていうのは私の名前だよ。もしかして名前一緒?」


「い、いえ。友人の名前です」


「へぇ!まぁ、似たような名前は世の中いっぱいいるよ」




ノリまでもが咲菜に似ている気がした。


けれど、咲菜が神様なわけないので気のせいだろう。




「で、なぜ神様じゃなくあなたが?」


「あ、あぁ。あの人はいろいろ忙しいからね。


私が君をサポートする係になったのだ!」




そこそこ偉い神様なんだな…。


じゃあこの人に遠慮なく。




「あの、私の望んだ世界じゃないのですが」


「あれ?今流行りの『Lost Time』のヒロインに転生したかったんでしょ?」




なぜ?!


咲菜ならまだしもなぜ私?!


いやいや、そんなの一ミリも望んでなかったんですけど?!


は?乙女ゲーム?しかもヒロイン?


無理だ。人生始まって早々絶望だよ。


お先真っ暗だよ。闇が向こうから来ちゃってるよ。




「で、このゲーム、ヒロイン名前存在しないから自分で決められるけど何にする?」


「あの、その前に質問なのですが」


「なにかな?」


「今から世界変えれません?」




「無理だよ」




ですよね知ってた。


おわった。


頭のなかに膝をついて崩れ落ちる私がいる。


私の勇者を、救う未来終了。


始まる前に終わりを告げたよ…。




「あ、この世界って、勇者だったり冒険者とかって存在します?」




「しないよ」




地獄だ。


私の世界が絶望だけになってしまった。


え、冒険は?


世界中をまわってドラゴンとか退治する私のハッピーライフは?


なかったことになってしまった。




「で、名前どうする?」


「いや、今名前とかどうでもいいので少し落ち込ませてください」


「ダメだよ、そろそろ目が覚めるんだから」




え、もうですか!


さっききたばっかりだと思ってたんですけど。




「夢に来る前に気絶してたからね。


けっこうやすんではいるはずだよ」




そんなに長い間気絶していたのか。




「まぁ、あれだけ魔力をフル稼働したら誰だって倒れるよ」




そうか、私は成功したのか。


あの場所を守れたのか。


それを聞けてよかった。


安心した。




「そうだ、あの人たちは」


「今はそれより名前!!」


「なんでもいいです」


「めんどくさがらず決めて!」




いや、ほんとに何でもいいなぁ。


ヒロインらしいキラキラした名前はいやだなぁ。


なんか地味な名前がいい。




「せっかくいい声でしかも目の前で呼んでもらえるんだよ!!


本名のあやのままにしたら?」




いや、横文字との違和感すごすぎると思う。




「アーヤとかに変えてみればいいじゃん」




いや、それでどうにかなるものじゃないだろ。


それに




「いい声で呼んでほしいとは思ってない」


「なんで?!」




何でと言われましても。


なんかこの人(人?)本当に咲菜ににてるなぁ。




「一ついいことを教えてあげよう」




サナはいきなり真剣な表情になっていった。




「攻略対象の一人は勇者と同じ声優です」




私はアーヤにすることにした。

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