第13夜 敵は地球人

「彼らは気づいてないでしょう。自分の撃った銃弾が人を殺せることに」


 フリングホルニに、地球人ハンターたちを伴ったガーデナー勢力が攻めてくる前。ユッフィーたちは、驚くべき知らせを聞かされていた。

 異世界の映像をテレビのように映し出し、リアルタイムでビデオ通話もできる秘宝フリズスキャルヴが見せているのは、イーノが氷の都ヴェネローンで知り合った青年リーフの姿。彼は異世界の技術と文化の研究者で、腕利きの紋章士でもある。


「これまで魔女狩りゲームで使われた武器は、現実の街を破壊できませんでしたが」

「地球人たちの良心をマヒさせるために、わざとそうしていたんですのね」


 オグマが指摘した、借り物の力。道化が魔女狩りゲーム用に配っていた仮面の正体は、訓練なしで初歩的な夢見の技を使用可能にする、高度な夢見の技で組み上げられた補助ツールだという。ユッフィーたちも仮面の解析に協力した時点で、薄々気づいてはいたが。


「おおかた、ゲームのアップデートでリアルな表現になりましたとか。そんな言い訳で、無自覚に住民の命を奪わせるつもりなのでしょう」

「夢見の技は、れっきとした魔法。イメージの銃弾を物質化すれば、それは本物同様に人を殺すわ」


 今度のフリングホルニ侵攻では、仮面の設定が殺傷モードに切り替わるだろうと。リーフの推測に、フリングホルニ側で即席の防衛隊に加わっている少女マリカが加えた説明で。一同は厳しい現実を思い知らされる。


「楽しい夢で人の心を癒すのが、夢見の技の本分。夢渡りの民の秘術を、そんなことには悪用させないわ。かつて本物の魔女狩りで、生身の身体を失った身としてもね」


 マリカはユッフィーたちと同じ精神体だが、もはや帰る身体は無い。実体を持たず夢の大河を渡り歩き、多くの異世界を旅する放浪者。それが夢渡りの民なのだと彼女は寂しげに告げた。白い寝巻きの裾が、風も無いのになびいている。


「だから今回は、夢召喚でヴェネローンからも増援を呼ぶわ。精神体なら、やられても夢落ちで済むし。少し時間はかかるけど、戦場に復帰も可能よ」

「じゃあ、ミキちゃんたちもぉ?」


 エルルの期待を込めた声に、映像の中のリーフもうなずく。


「フリングホルニを奪われたら、次はヴェネローンが危ない。そう言われればさすがに、評議会も重い腰を上げるほかありませんからね」

「ミキ様は『勇者の落日』を生き延びた三人のひとり。エルル様の後輩で、格闘フィギュアスケートの達人ですよ」


 ユッフィーが地球人のチームメイトたちに、ミキを紹介する。地球のフィギュアスケートに憧れる元旅芸人で、我流で腕を磨いていたらどういうわけか独自の格闘術に開眼してしまったスゴい子なのだと。


「ミキさんたちは、精神体で普段の調子が出せるようギリギリまで調整を続けるそうです。市民軍のみなさんなら、もうそろそろそちらへ到着すると思いますよ」


 ベテラン冒険者は戦力として切り札であり、おそらくここぞというタイミングでの戦線投入になる。かつて彼らの戦いを間近に見たイーノが、ユッフィーを演じつつも仲間たちに自分の予想を語った。


 敵は地球人。しかも、これをゲームだと勘違いしてるとなれば。


「ダメでもともとですの。引き続きゲームの真相を、ハンターたちに訴えていきましょう。それでも向かって来るようなら」

「ガツンと一発、目を覚まさせてやるわ」


 ユッフィーと拳を突き合わせ、ミカは素顔で微笑むのだった。

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