ぺろちゃん
かもがわぶんこ
ぺろちゃん
「母さん、もうすぐそっちに着くから、ぺろの様子はどうなんだ?」
「うん…、かわいそうだけど、もうダメみたい。早く帰ってきて看取ってあげて。」
+ + + + + + + + + + + + +
私の名前はぺろ、15年前にこのおうちにきた家族の一員、
家族の誰より早く歳をとって、もうおばあちゃんになっちゃった。
いま暖かいリビングで最後の時を迎えようとしている。
私がここに来られたのは、隆くんのおかげだ。
生まれつき後ろ足の悪い私は公園の樹の下で新しい飼い主をまっていたの。
とても怖かった、お母さんを呼んでも兄弟を呼んでも誰も迎えにきてくれないだもん、心細くて「くーん、くーん」って泣いてたら、隆くんが私を見つけてくれたんだ。
私を見下ろす隆くんは、鼻血を出して膝小僧も擦り傷だらけでちょっと怖かったの、そして私を抱きしめてワンワン涙を流して泣いたの。
喧嘩でもしたのかな?なんか隆君がかわいそう、私は隆君の涙をペロペロなめてあげたの。
「飼うなんてダメよ隆!ちゃんと世話できないでしょ!」
私は隆くんに抱きしめられたまま、このおウチうちにやってきたんだ、隆くんのお母さんはなんか怒っていて、怖くて立とうとしたんだけどうまく立てなくて。
「あれ?このこ後ろ足が変ね?」
きっとまた公園につれていかれると思ったんだけど、隆くんのお母さんが私にタオルをかけてウチにあげてくれたんだ。私はすごくうれしかったの。
「お母さんありがとう!大切にするよ。じゃ、こいつはペロペロ舐めるからぺろだ!」
私にもやっと名前がもらえてうれしかったの、わたしぺろって言うんだ!
それから、私は家族の一員として暮らすことになったの、
でもあまり歩けないから、いつもおウチにいたんだけど。
天気のいい日は隆君が自転車のカゴに、まだ小さい私のせてくれて外に連れ出してくれたんだよ。
外ってたのしいな、ふさふさ揺れる髪が風になびいてなんだか空を飛んでいるきみたいだった、知らない人が私の髪を撫でてくれることもあったんだ。
その時はなんか、隆くんは嬉しそうにしていたなぁ。
わたしの日課で玄関で隆くんの帰りをまっていると、ときおり膝小僧を擦りむいて目を真っ赤にして帰ってきたの、そんな時はいつも私をぎゅっと抱きしめてくれて、だから顔を舐めて励ましてあげたんだ。
それから、すごく、すご〜く長い時間が経ったある日のこと。
………
「隆、明日試合だろ、父さんも応援に行くよ!」
あまり家にいないお父さんが私を連れて緑いっぱいの公園に連れて行ってくれたの、隆くんと同じくらいの子供たちが2色に分かれて何か騒いでいる。
何してるかわかんないんだけど、なんか丸いボールを蹴って遊んでいるみたい。
「隆、前だ!詰めろ!そうだ!やった!!!!ゴォォォォォォオル!」
お父さんが何だかとても大声を出して喜んでいる、遊んでいる子供たちをみると、紫の服を着た隆くんを友達がおっかけてきて、草の上に倒して乗っかってききたの!
「キャン!キャン!キャン!」
隆くんがいじめられている、助けなきゃ!
私がそう思って吠えていると、隆くんが私をみてすごい笑顔で喜んでいる、
あっ、そうか、なんかいいことあってじゃれてるだけなんだと思ったんだ。
それから隆くんは、ゆっくりゆっくり時間をかけて、お父さんみたいに大きくなったわ。
いつも晴れた日はお散歩にでかけるの、途中で歩けなくなると自転車の後ろに乗せてくれていたんだ。
+ + + + + + + + + + + + +
………そんなことを思い返しながら、隆くんと出会えた今日までのことを、思い出していたの。だってもう目が見えないから思い出を見ることしかできないんもん。
おかあさんが私の毛をクシで研いでいてくれている、
気持ちいいなぁ、わたしももうあと少しかな。隆くんに会いたいなぁ。
「ただいま!かあさん!ぺろは?」
あっ、隆くんの香りがする、隆くんが来てくれたんだ、
嬉しい、わたし、本当に嬉しい、なんて幸せなんだろ。
わたしは昔のように隆くんに「きゅっと」抱きしめてくれている。
神様、神様がいるならもう一つわがままを言ってもいいですか?
これから、隆くん、おかあさん、おとうさんが幸せにありますように。
気がつくとわたしの体がふわっとかるくなったの、そして背中に白い羽が生えている。少し高い位置から見下ろすと、もう息をしていない私を抱きしめている隆くんがみえたの。
隆くんたら大人になったのに、わたしを拾ってくれたあの時みたいにワンワン泣いているんだ、もう泣かないで、涙を舐めてあげられないよ。
今までありがとう、こんなわたしを大切にしてくれて、本当に幸せだったよ。
いつまでも大好きだよ、たかしくん。
ぺろちゃん かもがわぶんこ @kamogawabunko
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