さよならの続きを
がりんぺいろ
第1話 ある青年の想い?
最近、隣のデスクが静かだ。
いや、日頃が煩いという事ではなく、何て表現したら良いか・・・
そのデスクの主である同僚が、ここ数日前から落ち込んでる様に見える。
職場の隣人、中倉 夏音(なかくら かのん)は、同期入社だけど4歳上の女性(俺は高卒)。
歳上なんだけど、長く明るめの茶髪を緩く三つ編みにしてピンク色のヘアゴムで束ねていて、耳にはいつも、小さな銀色の星型のピアス。化粧っ気が少ないその見た目は、背の低さ(150センチあるのか?)も相まって幼く感じる。
既婚の息子がいる社長からは歓迎会の席で、
「孫娘みたいだ」
と、ややハラスメントな発言されていたっけ。
しかし、そんな事をモノともせず、屈託無く笑い飛ばしていた彼女は、たちまち職場で人気になった。
・・・まあ、社員7人、俺と中倉さん以外は俺の親より年上。
社長も実務要員の零細企業だから、良くも悪くも馴染むのは早い。
蛇足だけど、緊張しぃで会話が苦手な俺は、当然比較されて「愛想悪い奴」として馴染んだ。
それでもクビにされたりせずに2年、中倉さんと古ぼけたスチールデスクを並べて働き続けている。
そんな日々の職場内でも明るく元気な彼女。
電話や社長たちとの遣り取りは普通だけど、彼女単独作業の時間になると、仕事は継続していても明らかに表情が曇る。
そして時折、作業の手が止まって机上のある一点に視線が固定される事も気付いた。
いつからか置かれていた、球状のガラス容器みたいなのの中に、透明な液体と一緒に雪だるまやクリスマスツリーの飾りが入ってるブツ。
偶に中倉さんが片手で掴んで静かに振ると、底に沈んでいた粒がフワフワと舞う様に浮かんでは又、沈む。
異変に気付いて間もなく、社長の奥さんから、それは「スノードーム」って置物だと教えられた。
「昨年末に彼氏からプレゼントされたもの」と、その時には知りたくもない追加情報まで提供されたけど・・・
今の中倉さんを見てると、世間の流行とかに疎い俺でもピンときた。
中倉さん、彼氏と上手くいってないのか。
同僚として気さくに、優しく接してくれてる彼女。
寝坊して遅刻ギリギリで出社すると、
「おはよう、ネボスケさん」
と、ニヤニヤしながらラップに包まれた小粒の(多分お手製の)おにぎりを差し入れてくれる。
現場作業から戻ると、
「お疲れー、っゎ汗臭さっ!」
と、大袈裟に鼻を摘みながら汗拭きシート(何故か男性用)をケースから数枚引き出して手渡してくれる。
仕事でミスして凹んでると、
「どしたー?ナマイキに落ち込んでるのかー?」
と、毒を吐きながらも穏やかな表情で、ナンダカンダと手伝ってくれる。
同期としての気安さ以上に、歳上だからか、
「弟の面倒に手を焼く姉みたいだ」
などと先輩(2児の父)からは妙な評価を受けている。
まあ、俺がシッカリしてないから致し方ないんだけどさ・・・
そんな「姉貴」が、今までに一度も見せなかった弱い部分を目の当たりにして、同期の「出来の悪い弟」としては、穏やかではいられない。
とは言え、俺に一体、何が出来る?
世話になってばかりで何も返せてない恩を返す、絶好のチャンスだけど、そーゆー事は本当に疎い。
ケーキみたいな甘いモノをプレゼントする?
気晴らしに何処か遊びに連れて行く?
だとしたら、どんな風にしたら・・・
そもそも、中倉さんはどんなのが好みなんだ?
と悶々としてたら、営業担当の女性(3児の母)が楽しそうに、
「ほーらチャンスだ!夏音ちゃんきっと、彼氏と別れたのよ!一気に口説いてしまえ!」
何でか色恋沙汰扱いされて、謎の略奪煽りを受ける始末。
「同期が心配だからってだけで、そーゆーのぢゃねーし!」
社交辞令的に悪態をついてみたものの・・・
クソっ、あの色ボケおばちゃんのせいで、ムダに気になるじゃねーか!(我ながらちょろい)
れ、恋愛感情としては兎も角!
中倉さんが心配で、気に掛かるのは事実。
ここはひとつ、無いアタマ使って策を練ってやるか・・・
俺はモヤモヤした気持ちのまま退社して、駐車場の愛車(原付)に跨ったまま、夕焼け空をぼーっと眺めていた。
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