メモ5
胆鼠海静
*
「今から、表示するのは、ここ30億年間の対象惑星での生物進化の軌跡です」
発表者のポケットの中から呼び出された図表は、くるくると、ほどかれる巻物のような演出を伴って自分を展開し、組み込まれた情報を観衆に提示した。床まで届く縦長の画面は、のっぺりとした灰白色で、すぐ横に飛び出たタイマーが、数万年単位で時を刻んでいる他は、変化は見られない。
と、針を打ったような点が、画面の底辺に現れたかと思うと、タイマーのリズムに沿って点は芽を伸ばし始めた。意思を持った血管のように、柔らかな灰白色の地を、着々と侵食していく系統樹の、どこか官能的な挙動を、見守る観衆の目は、既に肉体を捨てた者とはいえ、その生々しいうるみを失っておらず、興奮と共に微かな不安が陰りを見せていることが伺えた。
樹は、躍動の赴くまま、無数に枝を分岐させ、節の所々で、指標となる形態を実らせていく。木々の躍動は、今や図表の中盤に差し掛かりつつあった。観衆の静かな、しかし激しい興奮は最高潮に達した。
中盤を境に、木々の挙動が変わった。
今までの勢いはそのままなのだが、各枝は各枝と所々の点で合流し、編み物が組上がっていくように、ちょうど序盤の分岐を逆回しにしたような形で、まとまっていき、やがて、一つの形に、つまり、この過程を見ている観衆と同じ、馴染みの形へと、収斂していく。
収斂が進んでいくにつれ、会場の興奮は急速に覚めていった。
原因は未だに分かっていなかった。何万と星を調べようと、何億と多種多様な形態が生まれようとやがては、あの形に落ち着いてしまうのだ。
痺れを切らした学者の何百人かは、その形を忌むべき対象として呪い、それが間接の原因となって一時紛争を起こした。その派閥ほどではないものの、他の人々にも似たような感情は生まれていた。
肉体を捨て、どれほど星を巡ろうとつきまとってくるこの忌まわき人体!
メモ5 胆鼠海静 @nikyu-nikyu
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