11.6

 今日は仕事で外に出たのだが、行き帰りにルッツの話ばかりしすぎだとテオドールに言われてしまった。付き合わせてしまい申し訳なさはあるが、俺が今口を開くとルッツの話かヤンの話しかできないでいる。それでも笑って聞いてくれるのだから、テオは昔から変わらず優しい奴だと思う。

 仕事は順調にいっている。取引先には誠実にと父に叩き込まれたおかげだろう。父がこの家を一代で築き上げてしまったから重圧はあるが、同時にやりがいもあって楽しい。何より、人の助けになれるこの仕事は俺の誇りだ。

 これ以上大きくしたいかと言うとまだ分からないが、少なくともルッツが大人になって自由に仕事を選ぶまでは保たせたい。俺はこの家が好きだから、最期を迎えるならやはりこの屋敷で、と願う。

 と言っても、ずっと先の話だ。俺はまだ生きていたい。できる限り長く生きてルッツの将来を見届けたいし、できる限り長い時間、ヤンと共に過ごしたい。

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