3.4

 帰ってくるなり、俺の顔を見たテオドールに午後の休みを取らされた。書類はどうしても俺が確認すべきものがあるから仕方ないが、午後いっぱいを使ってヤンとゆっくりしろということだった。やり方は乱暴ではあるが、心遣いが嬉しい。


 ヤンを自室に呼ぼうとしたら、ヤンの方から来てくれた。キッチンで紅茶の支度をし、台車を押して来た。

 ヤンには、俺の不甲斐なさを謝罪した。ヤンは静かに俺の話を聞いてくれて、落ち着いた頃に蜂蜜入りの紅茶を渡してくれた。手を握っていてくれた。


 自分には無かった母という存在、祖父というものをくれたから感謝していると。どういう人間であれ、祖父が居なければ俺も生まれなかったと言った。

 ヤンには救ってもらってばかりだ。今考えれば恥ずかしいが、それを素直に言ってしまった。果たして俺は、ヤンの救いになれているのかと、聞いてしまった。ヤンはこれを笑うこともなく、あの日のことを話した。俺が居なかったら、自分は生きられていない、生きることを諦めていた。そう言った。あれは決して俺だけの力ではないのだが、ヤンが怪我をしていると気付けたのは確かに俺だった。

 自分のしてきたことに、もう少し、自信を持っていいのかもしれない。


 今日はなんだかとても眠い。明日からいつも通りに戻るために、少し早いが、寝てしまおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る