従妹アイレスの探偵録

青キング(Aoking)

プロローグ

 一九二八年一月二十一日。とあるヨーロッパの小国内に属する都市クルチョワ。その街で一人の未亡人が殺された。

 時刻は夜の九時を少し過ぎた頃、通りに面したそのアパートメントの一帯は夜闇に静まり返っていた。

 猟銃で一発、悲鳴も上げられず未亡人は殺された。

 即死だった。

 殺された未亡人が倒れている、赤い血が飛散したベッドを見下ろす者がいた。

 その者は返り血を受けたロングコートでも隠しきれないほどに、胸部が豊かにせりあがっている金色の長髪をした殺人犯だ。

 未亡人から呼吸の気配はない。

 殺し損ねていないことを認めた。

 もう用はないと、殺人犯は背後の大きなトランクを提げて、血生臭いその部屋を出ていった。

 殺人犯は階段を降り、アパートメントの出入り口から通りへ出た。

 星晴れの夜空、一歩ごとに殺人犯の人工的に作られたような非の打ちどころのない金色の髪が、冬の夜風にたなびく。

 殺人犯はいずこへと歩き去った。行方を知る者は誰としていない。


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