復讐なんて面白いこと、どうしてやめられようか!

ちびまるフォイ

やらせなしの復讐劇

「ここが復讐アミューズメントパークか」


今話題のアミューズメント施設へとやってきた。

遊園地のような大きな建造物もなく、パッと見はただのデカい自然公園だ。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


「おとなひとりです。あの、ここってどうやって楽しむものなんですか?」


「気に食わない人をぶちのめすことができます」


「気に食わない人って……」


「あなたの知人や人間関係のなかに気に食わない人や

 いつか仕返してやると思っている人はいませんか?」


「うーーん……」


そう言われて考えてみても、自分の周囲はみんないい人ばかり。

勢いで入ってしまったが別に復讐したいなんて気持ちはなかった。


「……いらっしゃいませんか?」


「はい、思いつきません。やっぱ帰ります……」


「いえいえ、そういう人結構いらっしゃるんです。でも大丈夫。

 パーク内ではあなたに復讐をさせるために嫌がらせするアトラクションもありますから」


「嫌がらせ?」


「はい。あなたが復讐する大義名分をこちらでご提供するというわけですね。

 なので安心して復讐を味わうことができますよ」


「それならよかったです」

「よいリベンジライフを!」


スタッフに送り出されてパークへと足を踏み入れる。

とはいえ、なにもすることがなくブラブラ歩いてからベンチに座った。


「どうしよう……もうやることがなくなった……」


ため息をついていると、正面から若い男たちが肩をいからせながら歩いてきた。


「ようおっさん。ちょっと恵んでくんね?」

「俺らがバイトするよりもずっと金もってんだろ?」

「こういうのも慈善事業だぜ」


「あ、ちょっと!」


後ろから羽交い締めにされて持っていた財布を引き抜かれた。


「ちっ。これっぽっちか」


財布は地面に捨てられ足で踏みにじられた。

初めての給料で買った大切な皮財布。

思い出が踏みにじられたような気持ちになる。


「おい、そのまま抑えてろよ」


「う゛っ! ぐぇっ!」


男たちは俺の体を拘束したまま好き勝手に殴っていった。

目がチカチカしながら地面に崩れ落ちる。

その後も腹を何度も何度も蹴られる。

俺がなにしたっていうんだ。


「うう……い、痛ってぇ……」


立ち上がれるようになったのは日も落ちた頃だった。

痛む体を奮い立たせて起き上がると、踏みにじられた財布が目に入った。


「あいつら……」


メラメラと黒い炎が体の中で燃え始めたのがわかる。


「そうか、これがこのパークのアトラクションか……!」


普段は人に危害を加えるなんてとても思えないが今は違う。

こんなやられっぱなしで許せるものか。


パーク内をくまなく探すと、男たちはまた別の人に絡んでいた。


さっさと出ればいいものを他の人に絡んでいるあたり、

こうやって復讐心を植え付けるための演技なんだろう。


俺は拳に力を込めて男たちの背後へと近づく。


「おい」


「あ?」


振り返った男の頬を思い切り殴りぬいた。

男は吹っ飛んで自分の顔を手でかばいながら目を見開く。


「な、なにしやがんだよぉ!」


「お前ら……さっきはよくもやってくれたな……!!」


男たちの顔が腫れ上がるまでボコボコに殴った。

面と向き合えば強くもないのに集団でつるむと強がっていた事実に

殴りながらますますムカついて手が止められなかった。


「うわぁぁあ! に、逃げろぉぉ!」


男たちは半泣きになりながら逃げていった。

拳にはまだ殴ったときの感触が残っている。


晴れて復讐を果たせたので、このパークにとどまる理由がなくなった。

パークの出入り口へと向かうとスタッフが迎えてくれた。


「お客様、お帰りですか」


「ええ、復讐も済みました」


「そうですか。いかがでしたか?」


「……最初は復讐できてスッキリしたような気分でした。

 でも、時間が経つにつれて"あそこまでしなくても"とか

 "もっと別の方法があった"とか後悔というか……後味の悪さが残りました」


「そうでしょう」

「え?」


スタッフのにこやかな笑顔に驚いた。


「私どもは復讐の楽しさを味わわせるのではなく

 その不毛さを実体験をもって理解してもらうために

 こうして復讐アミューズメントパークを用意したのです」


「そ、そうだったんですか」


「はい。ところで同じ状況になったら、また同じことをしますか?」


「いいえ! もうあんなボコボコに殴ったりはしません! 絶対に!!」


「良かったです。そうして復讐しないようになってもらえることがなによりです」


「こちらこそ、ありがとうございました! 勉強になりました!」


俺は深々と頭を下げた。


「復讐はいけない」などと口で説明されてどれだけの人が納得するだろう。

でも、実体験を通したことで俺は復讐の愚かさを骨までわかった。


復讐アミューズメントパークに来て、本当に良かった。


「あ、お客様。もしも、復讐チケットで使わずに余ったものは買い取らせてもらいますよ?」


「復讐チケット?」


「はい。パーク内での復讐をするために購入するチケットですよ。

 チケットがないと復讐のきっかけも、復讐することもできませんから」



俺はダッシュでパークを立ち去った。

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