孤独の王と夜叉

しろくま外伝

序章 食らう者と食われる者

「はぁはぁはぁ......」


男は深い森林の木に背を預け、

息を切らし座り込んでいる。

耳を澄ませるが足音は聞こえない。

瞼が重く、意識が遠く。

やがて瞼が閉じると、深い眠りに誘われる。


鷹の国、そこは貧しい国家であった。

圧政により国力は衰退し、重税を課した高官達がそれを懐に入れ、裕福な暮らしを謳歌する国。

それは王を無くし、若くして地位を継承した王子の未熟さ故の末路であった。

大臣の指示のもと王子は国民の前に担ぎ出され、徴収の令を強いる。

民の不信は高まり続け、やがて民の反乱が起きる。

大臣は大衆の前に立ち、そして告げる。


圧政を強いる王族に神罰を!

この国の未来は民の力にかかっている!


王子は城を抜け出し走る。

悔しさ故に歯を食い縛りながら。


ゆっくりと瞼を持ち上げ周囲を見渡す。

異様な空気が立ち込め、霧が濃くなってくる。


前方から気配を感じて男は霧の奥を凝視すると、女の声が聞こえてくる。


「ふふふふふ......美味そうな匂いじゃ。

のう?人間よ」


禍々しい気配と共に現れたのは、

一見人のようにも見えるが、衣服を纏わぬ姿に二本の角を生やした女の鬼。

男は呼吸を整え、朦朧とした意識の中声を出す。


「お前がこの森に棲まう...」


「ほう......この儂を前にして恐怖を抱かぬか、眼に光も無し...憎しみだけが溢れておるぞ」


悪鬼は男の目の前に立つと、髪を掴み顔を持ち上げる。


「人でありながら人の目をしておらぬ...ふふふ。

貴様......人間を憎み、人間を殺したいであろう?」


「ぬかせ...お前の様にはならぬわ......さっさと食らって終わりにしろ、夜叉......よ...」


男はついに意識を失う。


「ふふふふふ......食すにしては惜しい...のう?人間よ」








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