第9話
それからというもの、以前のように綾瀬川や白石、持田たちと関係を保ち続け、ダグラが現れる前の生活が一週間続いた。
しかし、やっぱり戻ったといってもなんだかどこか違うような感じがし、少し落ち着かない。ただ異世界人はまたやってきてダグラもでてくるんだろうなとぼんやりとした考えが頭に浮かんでいた。
それが当たるか外れるかはすぐにわかった。
「なぁ、太一。オマエだけが綾瀬川さんと…」
「うっさいわ!」
ダグラがオレと持田たちの目の前にあらわれてから一週間と二日がたった日の昼休み。
いつものように谷山と飯を食べていた。
谷山は綾瀬川にアタックをしようと考えているのだがそれが困難だとほざくにほざく。
ちょっとうざいなと思いつつ、焼きそばパンを口にする。
「なんだよ、友人だろ!」
「友人だと思うならお前自身で綾瀬川に話しかけにいけよ」
「もういったんだよ。何回も! けど『別に興味がない』とかあの冷たい顔でいわれたんだ」
「それは残念だったな。ご愁傷さまだ」
「それは冷たいだろ! けど綾瀬川さん、以前より冷たい感じが抜けた感じがしたぜ」
まぁ、転校してきた当初はもっとツンケンしてたもんな、綾瀬川。
クラスメイトとほんのちょびっとだが話すようにはなっているみたいだが、まだ氷のような冷たさは残っているが。
「絶対、なんかあったぜ、彼女」
「そんなに変わらない気がするが」
「いや、絶対何かあった気がするぞ。俺の予測だとやっぱり、オマエが絡んでるんじゃないかと思う」
「なんでそういう風に結びつくんだよ」
「一週間前にも話たろ。オマエと綾瀬川さんの関係のこと」
いっていたな、そんなこと。
「オマエは否定したし、それにあの下駄箱の件で彼女のことを好きな奴らは、綾瀬川さんはまだいけるんだと確定したんだ」
嫌な確定だし、なんでそこまでアイツに執着するのがオレには不思議でしょうがないけどな。別に女子はいるだろ。
そんなどうでもいいだろと考えているオレをよそに谷山は続ける。
「それ以来、ここ五日間で綾瀬川さんに近づこうとする奴はいたが結局、以前と同じように全員が玉砕したってわけよ」
アイツは一人になりたがりやだからな。あんまりナンパみたいなことは効かないんじゃないかな。
「でもやっぱり、オマエだけなんだよ、太一。彼女が話しているのを見るのは」
「それは多分、目の錯覚だと思うぞ」
「オマエって本当に馬鹿だよな」
谷山はあきれるようにいった。綾瀬川にも言われたことを谷山に言われるとちょっとむかついた。だからオレは谷山の頭を引っぱたいた。
それにしても夏に近いからか周りの空気がじめっとしていて、まとわりつくような感覚がなんとなく不快に思う。
しかし、そんなものは個室に入ってしまえば感じなくなる。
「しかし、なんで部室にクーラーがあるんだ?」
涼しい風を浴びながらオレは持田に言った。
ここは映画研究会の部室。クーラーという近代文明の賜物の恩恵を受けていた。
「まぁ、組織にせがんだからね」
持田は涼しそうな顔でコーラを口にしていた。
「組織って一体なんなんだ?」
「藪から棒な質問だね」
別に突然、聞きたかったわけじゃないんだがな。
「うーん、僕には答えかねる質問だね。まぁ、僕は平社員みたいなものだから、多くを知っているわけじゃないんだよ」
「答えることができないのかよ」
「ゴメンね。太一君の期待にこたえることができなくて」
持田は気にしてないという顔で笑った。
「期待はしてなかったけどな」
「うん、太一君らしい答えだ」
オレは机に置いた鞄をしたに置き、机に突っ伏した。
「でも、綾瀬川は何の任務をしてるんだ? こんなに暑いのに外にいるなんてことは二だろう」
「のぞみちゃんは任務についてないよ。多分、私用でどこかにいるんじゃないかな?僕は把握してないよ」
「そうなのか…」
今日はバイトが無いからそのまま、綾瀬川と帰ろうと思った。
しかし、ここでずっと待っているのもめんどくさいな。
「うん?太一君はのぞみちゃんになにか用でもあるのかな? 残念だったね、太一君。ここにのぞみちゃんがいなくて」
持田はオレをにやにやしながら見る。
「な、何を言ってるのかよくわからないな」
「照れ隠しかい? そんなこと言ってあんまり説得力ないよね」
「うるせぇ」
「でも、良かったよ。太一君がのぞみちゃんと仲良くなって」
「あいつが友好的とはおもえないけどな」
「それは太一君の勘違い。のぞみちゃんはすこしづつ、かわっているよ。これからどうなるのかはわからないけどね」
「オレにとってはどうでもいいことなんだが」
「関係なくないよ、太一君。僕はね…」
持田はいつものようなヘラヘラした表情ではなく、獣が獲物を狩るときのような真剣な顔をしていた。オレは一瞬、背筋がぞっとした。
「キミが彼女を変えてくれることに期待しているんだ。それで…」
持田はオレの目を見つめ、言った。
「まぁ、太一君には関係ないことばかりか」
持田はいつもの通りになった。
「そ、そうなのか」
「そ。とにかくのぞみちゃんはここにはいないから、探しにいったほうがいいよ」
持田はすっと席から立ちあがる。
「じゃあ、涼んでいるところ申し訳ないけど僕はここで失礼するよ」
「はぁ?」
「これから僕は上の人間と話し合いだよ。行きたくないけど、いかないといけないからね」
そんなこと初めて聞いたぞ。
そういって持田は出口へと向かった。
「それじゃ、太一君。のぞみちゃんと仲良くね」
そういい残し彼は出て行ってしまった。
「なにがいいたかったんだ?」
取り残されたオレはほうけているだけだった。
ふと白石のほうを見るとパソコンに何かをまた打ち込んでいた。
本当にいつもの感じだなとオレは思った。
ここにいても本当にしょうがないな。さてどうしようか?
「綾瀬川のぞみの居場所はわかる…」
突然、白石は喋りだした。
「白石、わかるのか?」
「わかる…。彼女も超能力者だから…」
考えてみればそうか。白石は瞬間移動だけじゃなくて何処にいるのかもわかるんだったな。
「でも、教えない…」
「教えてくれないのかよ!」
「貴方自身で見つけ出したほうが彼女も喜ぶ…」
どういう意味だかわからない。アイツが喜ぶ? 頭をフル回転させてもわからない。
「ヒントだけはあげる…。けどその先は自分で」
「白石、オマエは厳しいな」
白石は無表情で目をふせると静かに言った。
「変えるのは私ではなく貴方だから…」
白石は瞼を開いてオレを見た。白石はいつも意味がわからないことをいう。
けれどそれはオレを思っているのかもしれない。まぁ、コイツの本心なんてわからないけど。
「よくわからないけどオレからアクションを起こせばいいんだな」
オレはよくわからないけど納得した。
「貴方は彼女を救う存在。だから私たちに必要」
「オマエらもそういうことをいうのか。オレにはよくわからない。オレ自身にもそんなに必要性がないというのに」
「…………」
白石は黙ったまま、オレをみる。
「その話はまた今度…。今は綾瀬川を捜すことが先決…」
その話は触れちゃいけませんってことか。まぁ、どうでもいいことだ。
「で、そのヒントって?」
「……」
白石は黙ると瞼を閉じた。多分、今、探っているんだろう。『変えるのは私ではなく貴方だから…』とういう台詞はなんとなく引っかかる。何でだろう? アイツを思い出すからか?
アイツもそんなふうに言っていたもんな。
『変わることはできないからさ、お前や他人に変わって欲しいとか変なこと考えるんだよ』
三年前にアイツが上の空のように言っていたのを覚えてる。今となってみれば達観しすぎだし、ドンだけ変な奴だったのかわかる。
「わかった…」
「でどんなヒントだよ?」
「ブランコ…」
「ブランコ。やけに抽象的なヒントだな」
でも連想できるのは簡単だな。
白石、案外、簡単なヒントを出してきたな。
以外と考えるのがめんどくさいと思うような奴なのかもしれない。
まぁ、いいか。
「なんとなくだがわかったよ。とにかく捜してみるよ」
オレは鞄を持ち、身なりを整える。
「いつもありがとな。まぁ、組織のためなんだろうけど」
オレは部室から出ようとドアを開けようとする。
「また…」
白石はポツリと言ったのが後ろから聞こえた。
「あぁ、またな」
そのまま部室から出る。
向かう場所はもうわかっているから、急ぐ必要がある。
オレはとにかく走りだした―――
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