第1話

約十分前

オレはちょっとした解放感を感じながら、屋上へ向かっていた。

土曜日は普段、学校は休みか、または部活をしている生徒が使用しているかのどっちかだが今日は少し違っていた。

一週間ほど前に行われた前期中間試験の追試をやっていた。

 そこで本来オレは全部の科目をとるはずだったのだが、ひとつだけ壊滅的な点数をとってしまった為に追試になってしまった

まぁ、赤点をとった自分が悪いのだが。

 追試を無事に終わらせ、午後にバイトも予定もないため、屋上でなんとな~くのんびりしようと思った。

しかしオレは一寸先に起こる、生命の危機など知らずに、軽い気持ちでドアを開けてしまい―――――



――――そして現在に至るわけだ。

今になって屋上に来たこと後悔している。

オレは何に巻き込まれたんだ――――



 ――――「君の名前は?」

「はい?」

「いやいや、君の名前だよ。 まさかのぞみちゃんの脅しで忘れちゃったとか?」

持田は悪戯を企む子供みたいに笑いながら言った。

 困惑するオレ答えたほうがいいのだろうか?

「答えたくないなら無理に答えなくていいよ。 強制してるわけじゃないしね。」

そう言われて悩むオレ。

「……」。

 少しの間、悩んだすえ、答えることにした。

「末原 太一です。」

「太一君か。 よろしくね。のぞみちゃんも挨拶。」

綾瀬川は、恥ずかしそうにそっぽを向いている。

「のぞみちゃん?」

「リーダー、その名前で呼ぶのは止めてくださいよ。私はあまり名前で呼ばれるのに慣れてないんですから」

「じゃ、のぞみちゃんもリーダーと呼ぶのは辞めたほうがいいよ。僕ものぞみちゃんがそれで僕のこと呼ぶの止めなきゃ、止めない」

「ううう……」

さっきからなんの会話しとるんだこの二人は?

「とにかく、彼に挨拶して部室行こうよ」

「なんで私が見ず知らずの他人と仲良くしなきゃいけないんですか! 私には納得できません! それに私はリーダーがなんと言おうと自分の行動に間違いはなかったと思っていますから」

彼女はそれだけ言うと出口の方へ向かい、屋上から姿を消した。

アイツ、今、他校の制服着てるけど怪しまれないのかよ?

「あ~あ、行っちゃったよ。も~本当にのぞみちゃんは頑固だよな~。 優ちゃんみたいに素直ならいいんだけどな。まぁ仕方ないか……」

 持田はため息をつきながら頭をガシガシとかく。 セットしたと思われる髪は少しぼさぼさになった。そしてぱっと持田はオレの方を向く。

「本当はいい子なんだよ。ただ対人に関してちょっとね……」

まぁ、あれだけツンツンしてれば人とのコミュニケーションとるのは無理だろうな。オレには性格が悪く見えたぞ。 それにオレも彼女と仲良くはしたくないからな。

「本当に悪かったと思ってる。太一君に迷惑かけたね」

「いえ。 確かに殺されかけましたけど、特に気にしてませんし」

本当は殺されかけて驚いてるだけなんだけど。

「そっか。太一君、これから時間ある?」

突然の質問。

「はい?」

「もし良かったら、出会ったのも何かの縁だから部室に来ないかい?」

ぶっちゃけ、目の前の人も信用できるかも怪しい。

どうする、オレ?

「殺されかけたうえにいきなり見知らぬ奴に部室に来ないかと誘われたら、迷うよね。無理にとはいわないよ」

見た目が軽い一個上の先輩は爽やかに笑う。

そう言われるとオレは弱いんだよな。

ならばとりあえず、イエスと答えておこう。

今までの流れがドッキリって言われても驚かないだろうな、多分。

「わかりました」

もうどうにでもなれの精神でオレは答えた。

「良かった。そしたら何か飲みながらこの状況を説明しないとね」

持田は笑いながらそう言うと屋上の出入り口に向かい歩きだした。

「ちょっと待ってください! あそこで倒れてる彼女は一体、どうするんですか?」

忘れていたけどなんで倒れている彼女のことを誰も気にしないんだ?

「あ~、ほおって置いてもすぐに消えるよ」

持田は気の抜けるような声でいった。さっきも綾瀬川も言ってたけど消えるってどういうことだよ? 普通、血を流してあんなことになってたら助けるだろ。

「消えるってなんですか!? 彼女をそのままにしたら……」

振り向いて彼女の方を向いた瞬間、持田に言おうとした言葉が喉の辺りで止まった。

 「なっ……?」

倒れていたはずの彼女はいなくなっていた。 おまけに彼女から流れていた血もシミひとつなく綺麗さっぱりなくなっていた。

言葉が出ない。

そんな人が消えるとかありかよ!?

「ほ~ら、消えた。余計な手間が掛からなくていいね」

持田は安っぽいマジシャンみたいに手を広げ、おどけてみせる。

「じゃあ、部室、行こうか」

彼は笑いながらそう言い、歩きだす。

さっき驚かないって言ったのは嘘だ。 本当にこの状況は一体何なんだ?

「おーい、そこでボーっとしてるとおいてくよー」

校内に入るドアを開けながら持田はその場から動かないオレに言った―――



―――「消えた女の子はね、異世界からきた異世界人だったんだよ」

持田は手に持っているアルミ缶のプルタブを空けながらいった。

予想外のカミングアウトにオレは口の中に入った、飲みかけのコーラをブッという音とともに豪快に吹き出した。 横を向いていたのが幸いだったのか、持田にコーラを浴びせることにならずにすんだ。

「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

思わず大きな声で叫んでしまった。

「大丈夫かい? タオルあるけど」

 持田は特に気にしたような仕草も見せずにオレにタオルをすっと差し出した―――



―――屋上を後にし、出会って間もない持田についていった。

本来、オレは怪しい人物にはついていかない主義なのだが、ついていけば巻き込まれた理由と消えた女の子のことを聞けると思った。 屋上でついていくかさすがに迷ったが、今では『なぜ?』という気持ちが強すぎて迷いはなくなった。

 しかし、この事態に関係がありそうなこの人物と二人っきりになるのは危険だと思うけれど、やはり危険をおかしてでも理由が知りたかった。

「ついたよ」

ゴチャゴチャと考えてるうちに着いたようだった。

 持田が案内してくれた場所は映画同好会と書かれた部室だった。

 「アレ? 確かここは……」

「そう、ご存知の通り、ここは旧生徒会室だよ」

持田に案内され、思い出した。

オレが入学したての頃に変な噂を聞いた。

噂とは女の子の幽霊が出るというもの。

そのころ旧生徒会室は部室に使用するには少し狭すぎたのか、どの部活動の部室にも決まらず、名残りを残したまま備品置き場になっていた。

ある日、一人の生徒が使用した備品を置きに旧生徒会室に入ったときのこと。

生徒は夜の九時近くまで学校に残っていたらしく、ほとんどの教室は電気が消えていた。

あたりは暗く、もちろん学校には残ってる生徒も少ない為か、雰囲気は最高に怖かったらしい。

そんな中、生徒がドアを開けると白い髪をした女の子が椅子に座っていた。

 不思議に思った生徒は『何をしてるの?』と尋ねると女の子は微笑し、生徒の目の前でフッと突然、消えてしまったらしい。恐ろしくなった生徒は急いで逃げた。

後日、他の生徒に話したところ他の生徒は面白がった。

そして放課後、他の生徒が旧生徒会室を訪れると……。

という感じで以来、みんな、その噂話に怯えて備品を取りにいく以外、近づく生徒も少なかったというのに、さらに誰も近づかなくなった。

 しかし、オレは一年から二年に進級する際にどこかの部活動が部室として使用すると聞いた。噂は信じちゃいなかったが、物好きもいるもんだなと思った。

自分がそんな噂の発信元に来るとはよもや思っちゃいなかった。

まさか映画同好会なんて部活動が使っていたとは……。

などと考えていると持田は黙ったオレを見て「一時期は興味本位で来る生徒もいたけどねぇ」と興味なさそうに言う。

「まぁそんなことは置いといてまずは中に入ろうか」

持田はドアをノックし「失礼、するよん」と言いドアを開け、中に入る。

オレも後に続く。

部屋の中はなんらかしらの備品が今だに置かれていたが、そんなことを感じさせないくらい、広かった。部屋の真ん中には横に広い大きな机が二台置かれており、机を囲むように椅子がいくつか置かれていた。

部屋を見渡して気づくと机の一角に置かれたパソコンの前にいつの間にかポツンと白髪の女の子が座っていた。

嘘だろ!

今、そこにいなかったじゃないか!

う、噂は本当だったみたいだ……。

しかも今は昼間だぞ!?

話をしてたから出てきたか!?

「ゴメンなさい! 呪うのだけは勘弁!」

思わず土下座で謝ってしまった。幽霊だから言葉は通じるのか!?

「太一君、何してるの?」

持田は面白いことしてるねと言わんばかりのにやけ顔をしながら明るい声で言った。

「だって、幽霊がいるじゃないですか!?」

「なにを変なこと言ってるんだい? 幽霊なんてどこにもいないよ」

そういわれ顔を上げると肌が白く、それに負けないくらい白い髪の毛をした女の子が無表情でこっちを見ていた。

拍子抜けしてしまい、漫画でポカーンという文字が出てきそうな状態になり、女の子と見つめあった。

「あっはっはっはっ! 太一君も同じような反応をするんだね。いや実に面白いよ」

持田はオレがこうすることを予想していたかのようなことを言った。

「驚かせてゴメンね。この子の名前は白石(しらいし)優(ゆう)。この学校の一年だよ。太一君の一個下の学年だね。仲良くしてあげてね」

持田はカラカラ笑う。

また新たな奴が登場したな、おい。

彼女を見ると髪は何色にでも染めてしまうことができるくらいに真っ白で、顔はまだ小さい子どもみたいなあどけなさを残している。

肌は透き通るくらいに白く、唇も薄い赤色でだけで塗ったとしかいえないくらいに薄かった。

白石と呼ばれた女の子はオレに一礼し、パソコンの画面に向き直った。

オレもつられて一礼。

「優ちゃんはシャイなんだよ」

いや、どうみてもシャイというかアンタには興味ありませんからみたいな顔してるけど。

「優ちゃんはあんまり喋らないし、感情をあまり表に出さないから関わりにくいかもしれないけど、のぞみちゃんも優しいけど優ちゃんはその名の通りにすごく優しいから大丈夫だよ」 

「はぁ」 オレは気の抜けた返事をした。

 さっきオレの首にナイフを突きつけた奴のどこが優しいのだろうか?

大丈夫と言われてもオレには出会ったばかりでどうしようもできないぞ。

 それにしてもなんでこの子はさっきいなかったのにここにいるんだ?

入ってきたときはこの部屋に誰もいなかったはずなのに気がつくとその場にいた。

どうやって入ってきたんだろうか?

「何、飲む?」 

「はい?」

「飲み物」

「お、お任せします」

「オッケイ」

持田は室内にあった冷蔵庫から缶コーヒーとコーラを取り出した。

まさか冷蔵庫が置いてあるとは……。

冷蔵庫があることを学校は知っているのかよ?

「コーラでいい?」

「はっ、はい」

なんだか気が休まらない。

早く家に帰りたくなってきた。

持田はオレにコーラを渡し、席に座る。

「太一君も座りなよ。話を聞くためにここにきたんでしょう?」

 彼は笑いながら言った。

オレは持田の反対側に座り、喉が渇いていたのでプルタブを開け、一口目を口に入れたときだった――――


――――そして持田の予想外のカミングアウトによって口に入ったコーラを吹きだすという始末になったわけだ。

「吹き出しかたが豪快で、綺麗だったけど太一君はコメディアンにでもなるつもりかい?」

持田はいやらしくニヤニヤしていた。

確実にこの人はこうなることを予想して、オレが飲むタイミングに合わせて言ったのだ。

なんとも質が悪いんだ。

とりあえずオレは吹き出して飛散したコーラを拭く。

それにしても異世界人とは……。

「吹き出し方は確かに自分でも綺麗にできたなと……、そうじゃなくて! 異世界人って何ですか?」

「何って……、異世界人は異世界人だよ。まさに言葉の通りだよ」

「言葉の通りって言われても……、オレは綾瀬川さん?に殺されかけただけでも頭の情報処理が追いついていないのに、そんなびっくり発言されてもさらに混乱するだけなんですが。それになんでその異世界人が屋上で死んでいたんですか?」

「太一君はせっかちだなぁ。これからそのことについて話そうとしてたんだよ。せっかちな男は嫌われるよ」

 持田は顔色を笑顔からひとつも変えずに言った。

目の前のチャラい先輩がとてつもなく悪いことを考えているヤバイ人に見えた。

これ以上の発言は意味がないと思い、とりあえずオレは黙ることにした。

「まぁ、僕が話したとおり消えた彼女は異世界人。なんで彼女が死んでいたかというとそれは太一君が想像するとおり、のぞみちゃんが殺したんだよ」

 オレのなかで時が止まった。

いやいやいやいやいやいや、想像なんてできるか!

殺したって……、人殺しじゃないのか?

オレは持田を見たまま、静止した。

「アレ、またビックリしちゃった? いや~、そりゃ驚くよね」

持田の表情はまだ笑ったままだ。

本当にビックリしたよと持田は言い笑っている。

横では白石と呼ばれた女の子がキーボードでパソコンに何かを入力していた。

時計のカチカチという針の進む音がしている。

「太一君の質問は女の子が何者でなんで消えたのか、だよね? それに口にはしてないけど『なんでオレが巻きこまれたんだ?』って疑問に思っているんでしょ?」

顔には出していないのに持田はオレが考えていたことを言い当てた。

「なんでわかったのかって言いたい顔しているね。大丈夫、僕は心が読めるとか変なものは持ち合わせていないんだ。ただ、普通に考えてあんな状況になったら誰でも考えそうなことを言ってみただけだよ。まぁ、そんなことはとにかく、さっき言ったとおり彼女は異世界人なんだ。太一君の質問に簡単に答えると彼女はこの世界には存在しない、いや存在しちゃいけない存在だから消えたんだ。それに細かいことはのぞみちゃん、優ちゃん、僕は異世界人と戦う為に選ばれたとある組織の人間なんだ。それに超能力者でもある。詳しくは教えられないけどね。僕らは任務でさっきの女の子を殺した。これが彼女が何者でなんで消えたのかって理由だよ。ちょっと分かりにくいかな?」

組織の人間。

異世界人。

超能力者。

なんだそりゃぁ……?

黙っていようと思ったがやっぱり黙っていられなかった。

「オレは確かに彼女が消えたのを見ました。けどマジック、トリックじゃないんですか?それに組織の人間で僕らは超能力者ですといわれても信憑性がないですよ」

「まぁ確かに、そう思うことが普通だろうね。今、僕が話したことを信じるか信じないかは太一君しだいなんだけど……。 証拠が必要かい?」

「確かに今の話を突然信じろって言われたら、無理ですけど確かな確証がほしいんです」

「そうか、じゃあ。 優ちゃん」

そういうと白石と呼ばれた女の子はパソコンから目線を外し、無言のまま持田の方に向いた。

「優ちゃん、ちょっと協力してもらっていい」

白石は無表情、無言のままうなずく。

「ありがとう。 優ちゃんには頭が上がらないよ。 じゃあちょっとこっち来て」

白石は持田に近づく。

「ちょっと耳を貸して」

持田は白石の耳で何かをささやいている。オレは蚊帳の外だ。

なんだかゴニョゴニョ聞こえそうな感じがする。

持田はこちらを見てなにやら微笑んでいる。

なにを企んでいるんだ?

しばらくの間、何かを持田は白石と打ち合わせしていた。

持田はオレの方へ向き直る。

「じゃあ、太一君が納得しそうな理由を見せてあげるよ」

持田はニヤニヤしている。 その横では白石が能面のような無表情でオレを見ていた。

「じゃあ、優ちゃん、よろしく」

持田が言うと白石はオレに近づく。

そうするとオレから三十センチもないところに白石は立つ。

きょ、距離が近い! いきなりなんだよ!?

体が密着しそうなくらいの状態のためオレはどきどきする。

心臓に悪い!

しかも、白石は顔をオレの鼻先に近づけ、言った。

「私を見てて……」

その声は感情がこもらず抑揚はなく、トーンも低いが、なぜかクリアに聞こえた。

 しかしオレは本日何度目のビックリだか、わからないがビックリした。

白石は一言だけ残すとオレの前から突然消えた。

「あ……!?」 オレが言えた言葉はそれだけだった。

目の前にいたはずなのにそこから跡形もなく姿を消した。

オレは周りを見渡す。

しかし、白石優はこの部屋のどこにもいない。

持田を見ても笑っているだけだった。

「優ちゃん、どこいったんだろうねぇ?」

持田は気の抜けた声で言う。

今、目の前にいたはずなのに!?

オレは旧生徒会室を探し回ったがそれでも白石は見つからない。

なんなんだあの白い女の子?

オレは画策していた張本人に聞いてみた。

「何で、ここにいたのに消えたんですか?」

持田はニヤニヤして答えない。

「なんで答えてくれないんですか?」

それでも答えない。しかし持田は笑いながらオレのほうを指差し言った。

「後ろ」

後ろを振り向くとそこには白石がポツンっと立っていた。

「うわぁ!」

オレは驚く。さっきの近づかれたときより、心臓がどきどきした。

「ただいま……」 無表情のままいう。

白石を見ると手にはレジ袋。

「お帰り、優ちゃん。買ってきてくれた?」

「うん……」

白石は持田にコンビニで売っているおにぎりを渡した、しかもシーチキンマヨネーズ味。

「あとこれ……」

白石はレシートをだした。

「わかってる。 あとでチョコミント味のアイスね」

白石は無表情、無言でうなずくとパソコンの前に座るとまたキーボードを打ち出した。

「これが証拠」

持田は、おにぎりの封を開けながらオレにレシートを渡してきた。

「何でレシートなんですか?」

このコンビニのレシートがさっきの話となんの関係があるんだ?

意味がわからない。

「レシートの時刻表示、日付を見てごらん」

オレは言われたとおりにしてみた。

「なっ……」

驚くことに今日の日付が書かれていた。それだけでなく時刻表示は二分前をはっきりと示していた。

「なんで、これ……!?」

「優ちゃんが消えたのは二分ほど前でしょ。ここから近くのコンビニに行くのには最低でも七分かかる。優ちゃんは超能力者で瞬間移動みたいなことができるんだよ。 どうこれが証拠。 僕、のぞみちゃんも使えるけど僕は条件がないと使えないし、のぞみちゃんここにいないし。だから優ちゃんにお使い頼んだの。ちなみにこの旧生徒会室で幽霊が出るって噂は優ちゃんの瞬間移動だよ」

持田はおにぎりを食べながら言った。もうなにがなんだかついていけない……。

納得するとかしないとかの前にオレはどうしようもなく疲れてもうどうでもよくなってきていた。

「まぁ、説明が不十分だけど太一君の質問に一つは答えたね。 もう一つ、なんで太一君が巻きこまれたかだよね」 

持田はん~と顔をしかめ、眉間にしわをつくり悩んでいた。

「さっきの女の子は任務のターゲットだった。今日は部活がなかったから、校舎には誰もいないはずだった。けれどどこで間違えたのか、のぞみちゃんが戦闘しているところに太一君がきちゃったわけなんだよね。 本当はのぞみちゃん戦闘してるところに入ってくるとは僕にも予想外だったんだ。本当にビックリしたよ。 僕は他のところに居たんだけれど、まぁ、僕が遅れていたら多分、のぞみちゃんは太一君を刺していたんだろうね」

持田は他人事のように笑う。

じゃあ、オレは後一歩のところで死んでいたのか……。

そう考えると背筋に寒気が走った。

そういえば。振り回されていたから、忘れていたけど助けてもらったお礼を言っていなかった。

「さっきは、助けていただいてありがとうございました」

オレは持田に頭を下げた。

「あ~、のぞみちゃんのこと? それなら僕は何もしていないよ。 太一君が危険だってことを教えてくれたのはそこに座っている優ちゃんだよ。 優ちゃんは能力を使って教えてくれたんだ。 だから僕は何もしてないよ。 お礼は優ちゃんに言って」

持田は手をヒラヒラさせて言った。

オレは白石の側に行き助けてくれてありがとうといった。

 白い女の子は反応せずに黙々とキーボードを打ち続ける。

確かに暗い中でこの子を見たら、幽霊と見間違えてしまうかもな。

まぁ、出会ったばかりだし、これから会えるかどうかもわからない。

それでもお礼だけはしようと思った。

持田が話したことはオレにとってはよくわからないSFの世界だった。

いや、現実に白石という女の子が超能力とやらを使っていたからこれは作り話じゃなく本当なのだ。しかし、現実離れしすぎて一般人のオレにはよく理解できないところもあった。

とりあえず巻きこまれた理由というのがわかったし、もう関わることはないだろう。

そんなことを考えていると旧生徒会室の扉が開いた。

「何で、この人がいるんですか?」

入ってきた人物はオレを指でさしながら、モデルのように綺麗な顔をまるで気持ち悪いものを見たかの用に顔を嫌そうに歪め、持田に向かい言った。

「のぞみちゃん、待ってたよ~」 持田は待ちくたびれたといわんばかりだった。

「だからその『のぞみ』と下の名前で呼ぶの止めてください!」

綾瀬川のぞみが旧生徒会室の入り口に立っていた。

「リーダー、なんで彼がここにいるんです?」

綾瀬川は持田に詰め寄った。

「のぞみちゃんは彼と仲良くすることが嫌なのかな?」

「さっきも言ったじゃないですか、仲良くする気もないって。私が人と仲良くすることが嫌いなの知っていますよね。 それにさっきのこと謝れとか言われても私は謝りませんよ」

「さっきのことは僕も言及するきはないよ。ただこれから、学園生活を共に過ごす仲間といざこざがあったら、上の人間も困るでしょ。ただでさえのぞみちゃん、問題視されてるんだから」

持田は先ほどと変わらない爽やかな笑顔で言う。

「もしかして彼に私たちのこと話したんですか!?」

「うん。まぁ、ある程度だけどね。 大丈夫、だってもうばれてるんだから仕方がないでしょ」持田はヘラヘラ笑う。

「仕方ないって……!?」

「まぁ、そこら辺のことは僕に任せてよ」

持田はまぁ、大丈夫だからと綾瀬川に言った。

「お話のところ割り込んですまないんですけど!」

オレは二人の会話の途中に水をさす。

二人は道ばたでお金が落ちた音を聞いた人が振り向くくらいの速度でオレを見る。

「いや、あの……」

二人の反応のよさにちょっと気おされるオレ。

持田は口元を微笑させてこっちを見ているからいいが、綾瀬川は見たものを石にするといわれる神話のメデューサのような容赦がない鋭い目線でこっちを見る。

本当にこの女、怖ぇぇ。

「持田さん。さっき、綾瀬川さんがこの学校に来るみたいな言い方してませんでした?」

「あぁ、のぞみちゃんは来週からこの学校に転校してくるんだよ。たしか、配属される組は二年二組だったと思うんだけど……、違ったっけ?」

持田は綾瀬川に顔を向ける。

今、オレは聞きたくないことを聞いた気がする。オレは聞き間違えたのだと思い、持田に確認してみた。

「彼女はこの学校に転校してくるんですか?」

「そうだよ」

絶対に嘘だ……。

「で、どこの組に配属されるっていいました?」

「えっ、どこのクラスかって? 僕は詳しくないけど二年二組だよ。そうでしょ?のぞみちゃん?」

オレは氷のなかに閉じ込められたマンモスみたいに、フリーズした。

嘘だ……。聞き間違えたんだ、きっと……。

オレは変な期待を持ちこれが聞き間違えであるように祈りながら、持田に再度聞き直した。

「すいません。もう一度、言っていただけません?」

「聞こえなかった? 二年二組だよ」

オレの聞き間違えであるという淡い期待は砕かれた。

なぜ殺されかけた上に今度は同じクラスとはありえない。

まさか、この怖い女の子と同じクラスとは……。

 もうこの人たちとは関わらなくてすむと思っていたが、オレの考えは甘かったみたいだ。

「もしかして、のぞみちゃんが所属するクラスって太一君がいるクラスなのかい?」

持田はいやらしい笑顔を浮かべ、オレに尋ねた。

綾瀬川は露骨に嫌な顔をした。そこまで嫌な顔されるとへこむな。

オレは答えることができない。

「その様子だと、僕の勘は当たったみたいだね。 それにこれはちょうどいいみたいだし、太一君とは長く付き合えそうだ」

何なんだ、そのこれからもよろしく的な意味を含んだ言葉は?

持田は悪意のこもった顔でオレを見る。

こうしてオレのバラ色に輝くはずの高校生活は儚く、夢として散った。


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