時の彼方でもう一度
高柴沙紀
第1話 小さな花
小さな花だった。
決して押し潰したりしないように、そっと囲った子供の両手の中で、ふわりふわりと転がってしまうような、小さな花だった。
ともすれば駆け出してしまいそうな彼の足を、引き止めずにはおかないほどの儚いその感触に、子供の肩にはずっと力が入ったままだった。少しでも乱暴に扱ったら、はらはらと花弁が散ってしまいそうな気がして、僅かに腕を揺らすことさえ躊躇わずにはいられない。
けれども早く届けなければ、その儚さゆえにすぐに花が萎れてしまいそうな気もして、気持ちばかりが早く早くと、子供を急かし続けていた。
相反する気持ちにぎくしゃくと歩を進める子供の顔は、真剣そのものだ。
この広大な一帯はかつて、落雷による火災延焼を可能な限り避けるべく、若木の一本も生やさぬよう、開墾した土地から出た石を運び込んで撒き散らし続けた時期があったという。
しかしそれでも、生命の息吹を完全に消し去ることなど出来るものかと嘲笑うように、大地に転がる数多の石の上を伸び上がり、あるいはその下を掻い潜るように、ひたすらその緑は今も水平に這い続けている。どこまでも伸びていく細い茎と小さな三枚の葉からなるシャムロックのその姿は、頼りないほどにちっぽけだ。
しかしその生命力の旺盛さは、到底人間などに制御出来るようなものではなかったのだ。
炎に呑まれたら呆気なく燃え尽きて延焼の恐れすらないからと、その生命力についに根負けした人々がいつしか駆除することを諦めざるを得なくなってしまった、ちっぽけで強かな植物の、ここは勝利の地なのである。
潮の香りに、子供が踏み締めるシャムロックの香りが微かに混じり合う。広大な荒野の上に広がる大気の中に、そのささやかな融合の気配はすぐに溶け消えてしまうけれど、小さな足が歩を進める度に、微かな波紋のようにささやかな変化が確かに大気を彩り続けていた。
広大で平坦な緑の大地と地平線を分け合う大空は、春の穏やかな青に薄絹のような淡い雲を抱いている。
緑と青に二分された世界のその境界線の上に……子供が向かう南西の地平線の上に、遠く灰緑の稜線が蹲っている。城砦から馬の足でさえ一日はかかるトゥレル山脈だ。
それより遙かに近いはずの、彼らの城砦を取り囲む城壁は、まだその影すらも見えはしない。
子供の背後に当たる北東から南東にかけても、やはり緑と青とがくっきりとその境を描く地平線が広がっている。
もっとも、そちら側のその先には何も存在してはいない。そちらへ進めばそう時を置かず、大地は消え失せるからだ。
風にそよぐシャムロックによって、その
垂直に切り立った崖は、シャムロックの狭間から僅かにごつごつとした近くの岩肌を覗かせてはいるが、その先へ続く壁面を見通すことは出来ない。
揺れる緑と僅かな岩肌、その先に視界いっぱいに広がるのは紺碧の『大海原』でしかなかった。
足元から遙か彼方の、空よりも深い色合いの上で小さく白いうねりが踊る。絶え間なく動き続けているという水面に生み出される、白い筋雲とも蛇ともつかぬそれは『波頭』なのだという。
大量の水が奏でているという轟音と共に動くそれを、人間が間近で見ることは、よほどの不運に会わなければ一生涯ないだろう。
その、ないはずの事態に危うく陥りかけた一瞬をふいに思い出して、子供はぶるりと体を震わせた。
なだらかな海岸線を描いてどこまでも続く大地の果ては、けれど、どこまで行ってもその高低差を変えることはない。どこまでも、海に臨む陸地は切り立った断崖絶壁のままなのだということを、知らぬ者はいない。
遠く南東に突き出した岬が、この地からは見える。その頂上に広がる大地から海面までの落差は……このふたつの並行世界を隔てる、やはり垂直に切り立った崖の高さは、いったい何百人の人間を集めれば測れるのか想像もつかないほどのものだ。
それは子供が立つこの大地からその縁の下に落ち込む深淵までと、だから同じ深さであるということだ。
波頭をその目で見るということは、二度とこの地上に戻れはしないということに他ならなかった。
人の住むこの世界と、海の───人ならざる者の棲む海との境界にそれぐらいの距離があるのは当然のことだと、子供は思っていた。
奈落の底に拓けた空のように茫洋と美しく、時に恐ろしい相貌を帯びて目の前に迫ってくるように見える、決して彼らの世界とは相容れないあの紺碧は、この世界とは全く違ったもうひとつの別の世界だ。
そうでなければ、あんなにも異様な生き物が───化け物が生まれるはずがない。
この人と獣と鳥が生きる大地の上のどこにも、あんな化け物は絶対に生まれたりはしない。
ふたつの世界が互いに存在出来るのは、両者が遠く隔てられているからこそなのだ。
化け物、と心の中に浮かんだ言葉に我知らず顔を歪めていた自分に気付いて、子供は慌てて首を振った。
それは、海に棲む奴らの名前だ。……クリートは、化け物なんかじゃない。
奈落の底に棲む異形のように、ほんの欠片すらも理解が及ぶと想像することさえ出来ない───心があるとは思えないそんな生き物と、彼らクリートとは絶対に違う。
今だって自分達は、人間達と共に仲良く暮らしている。
人と違うところなんて、全然ありはしない。
角や牙があるわけでもないし、翼や尻尾があるわけでもない。顔も体も、人間と何ら変わらない。
ちょっとだけ力が強くて俊敏なくらいで───心は、気持ちは、人のそれと何ら変わるところはない。楽しければ笑うし、悲しければ涙が零れる。怒ったり、考えたり、失敗したり、周りの人達と力を合わせて仕事をしたりだってする。
人間と結婚するクリートだって、たくさんいる。
化け物という言葉に我知らず反応してしまった自分自身に言い募るように、子供は必死に心の中で呟いていた。
クリートであれ人間であれ、大好きな人達が幸福であればそれだけで嬉しい。彼らが傷つくなんて、考えることさえ嫌だと思う。
たとえ好きな人ばかりではなかったとしても、だからといって故なく人々に危害を加えたりなんて、絶対に出来ないと思う。その力があっても───その力があるからこそ、そんなことを自分に許したりは出来ない。
そして自分に対してそうであるように、人々に危害を加える存在を───海から襲ってくる化け物を、だから許すことなんて絶対に出来ない。
きっとそれは、彼らクリートもまた人の一員に違いがないからだ。
クリートだから、人間だから、という区別はどこにもない。彼ら自身にも、彼らを取り囲む人々の間にも、だ。
それを子供は、今や疑おうとはしなかった。長い時間をかけて、姉や城砦の人々が繰り返し繰り返し、子供にそう示してくれたからだ。
もしかしたら、本当は人間とは全く違う生き物なのかもしれないけれど、それでもクリートの心は、何ひとつ人間と変わるところなどないのだ、と。
クリートは、化け物なんかじゃない。
絶対に化け物なんかじゃ、ない。
城砦で待っていてくれる人達の顔を思い浮かべて、子供は再び歩を進める足を速めた。
風もないシャムロックの大地に、遠く海鳴りだけが聞こえている。
遠雷にも似たその響きをどよもし、日により時によりその青い綾を変えながら揺れる空にも負けぬ広がりのそれが全て水なのだと教えてくれたのが、つい先日ここより南に位置するパーカ砦から来た使者だったことを、ふと子供は思い出した。
彼が護衛として付き従ってきた都の学者が、何のためにこの辺境の……地の果てを巡っているのか、仲間達に話してくれた時のことだった。
都において確たる地位を築いている学者本人は、お屋形様───子供達が暮らす城砦の領主であるセルヴ侯の饗宴に招かれていたため、不在だった。
だからこそその機会を得たセルヴ砦のクリート達は、滅多に会えないパーカ砦最年長のクリートである使者を……勇敢に戦いながらも、生きて戦場を退くという奇跡を成し遂げた男を、尊敬の念も込めて歓迎する宴を開いたのである。
そこで彼が穏やかに語った話が、広間に集められたクリートと、城砦の実質的な防衛に携わる主立った人間達の度肝を抜いたのだ。
二年程前、パーカ城砦に住まうクリートと人間とが総出で、古くなった跳ね橋用の巨大な滑車を崖まで運び『舟』と呼ばれる乗り物を海に降ろしたのだ、と使者は語った。
「何のために!?」
正気の沙汰とは思えない話を口にする使者を嘲笑う者こそいなかったが、全員が一斉に目を剥いて声をあげたのは無理もないことだった。
それは言うなれば、化け物の巣食う地獄へ自ら進んで赴くことと、同義でしかなかったからだ。
まさに地の底にまで届くような長い長い綱を何本も組んで───金属の鎖の方が丈夫ではあろうが、それだけの長さの物ともなれば、いかに巨大な滑車とて支え切れるような重量ではなくなるだろう───それがどんな物であるか想像もつかないが、人を乗せる程の大きさの物体を、人の世界ではない奈落の底へ降ろす。
そんな冗談にしても突飛に過ぎる、気でも狂ったとした思えない行動にどんな意味があるのか、彼らにはとても想像がつかなかったのだ。
乗り物であるという以上、その上には人が、あるいはクリートが乗り込んでいたはずだ。
人力で動かす滑車が、彼を、あるいは彼らをあの広大な紺碧に降ろすまで、いったいどれほどの時間がかかったというのだろう。
徐々に近付いてくる異世界を見下ろす乗組員の気持ちは……どう考えても自力で崖を登り帰還することが不可能な地へと送り込まれる彼らの気持ちは、いかばかりのものだっただろう。
途轍もなく長く組まれた綱が、その重みに耐え切れずに切れるかもしれない。
戻るために滑車を撒き上げる人々の力が、途中で尽きてしまうかもしれない。
そんな危険と背中合わせの無謀な行為を強行するほどの何が、あの異世界にあるというのか、使者を囲む人々には全く理解出来なかったのである。
「古文書があったのだよ」
「かつて陸と海とは、これほどに離れてはおらず、人は日常的に『舟』に乗り、海へ漁に出ていたと記された記録が、我が砦にな」
「漁!?」
「漁って……何を狩るんだ!?」
「この砦にも、『魚』の標本が保存されているんじゃないかね? 昔の人々は、あの生き物を食料にしていたそうだよ」
「食えるのか、あれ!?」
悲鳴のような絶叫が広間に響き渡り、老いた使者の笑い声がそれに重なったものだった。
砦には、誰もが自由に出入り出来る宝物庫と呼ばれる建物がある。そこには、いずれ都へと移送される大小無数の様々な標本が陳列されていた。
地の果て───海という異界に接した最前線であり境界領域である海岸沿いには、確かに内陸では見られない様々な動植物がその生命を謳歌している。
そのことは、内地から移り住んできた子供自身が、城砦にいる誰よりもよく知っていた。
稀少なそれらを研究するために都の学府からの要請があり、そのために派遣された技術者や学者の常駐する宝物庫が、各城砦には建てられていたのである。
宝物庫には金剛薬と呼ばれる薬品によって、あらゆる獣が、鳥が、虫が、草木が、少しも変わることのない姿のままその時を止められ、硝子の中に封じられている。
切り株のような硝子の中で、羽根を広げる海鳥。
水晶玉と見紛う小さな丸い硝子の中に、咲き誇る大輪の花。
円柱に似せた硝子の中を飛び交う、色とりどりの蝶の群れ。
そして。
宝物庫の片隅に、他の物とは違っていつまでも放置されているがごとく陳列され続けている、『魚』と記された標本があることを誰もが知っていた。
成人男性の大腿ほどの長さと厚みを持つ棒状の硝子に封じられたその生き物であったろうものは、あまりにも奇妙な姿をしていた。
小刀のように細く薄い体は頭部と胴体の区別もなく、足や手に当たるものもない。
流れるようなしなやかな曲線を描くそれは、けれど蛇のように大地を這うには薄すぎるし、短かすぎる。丸い目と突き出した口から判断できる顔から、おそらく尾なのであろう紙のように薄いその先端に至るまで、全身がまさに鋼鉄の剣のように銀青色に輝いていた。
確かにこんな生き物が、この世界に生息していたとは思えはしなかったが、まさかそれが海に棲む生き物なのだとは、誰ひとりとして思いもよらなかったのだ。
誰がいつどうやって捕らえてきたのか想像さえつかなかったそれを、今となっては目撃する者はいない。だからこそ万が一にも、生きたその姿が再び発見されることがあった時のために、特別に標本をひとつだけ、移送することなく宝物庫に残すことになったのだと使者は言った。
よもや奇妙なその生き物が異世界の眷族であり、かつてはありふれた食料として海から漁られていたなどと。
そんな話を、広間に集った人々はなかなか理解することが出来なかった。彼らの常識では、有り得ないことだからだ。
化け物が棲む───少なくとも、そこから来ると知っている───別世界に、決して人間が近付いてはならないはずのそこに、祖先の踏破の、それも日常的な痕跡があったなどとは。
不審と疑惑に顔を見合わせる人々を見まわし、年老いた使者はゆっくりと頷いた。
「目の前にありながら遙かに遠いあの海でさえ、かつては人間の生活領域であったのなら。
奴らは、我々からその領土を奪ったことになる。奴らの方が、人間よりも後に現れたということだ。
奴らが何処から現れ、何があって陸と海とがこれほどに隔たったのか。
そもそも本当に、海は我々の領域だったのか、その一端であれ知る
「そ、それで!?」
「『舟』の構造図も残されていたからな。
新月間近の、よく晴れた朝……万が一にも奴らが現れぬであろう時間に、それでも城砦のクリート全員を配置して、数名の有志が試作された『舟』に乗って海へと降りたんだ」
「………」
「……古文書の通りだった。
あの青く広がる全てが、水だった。それも飲むことなど出来ぬほどに塩辛い水が、どんな力によるものかも分からぬが、絶え間なく動いて『波』打っていると、帰還した者達は証言した。
まさに古文書に書かれていたことが、証明されたのだ。
何処までも青いその中に跳ね橋に使っていた古い鎖を降ろしてみたが、ついに底にぶつかることはなかったそうだよ」
その報告は、すぐさま都へと送られた。
都の……海を知らぬ内地の人間が、その報告をどう受け止めたのかは知る由もない。しかし二年を経て、海岸線に展開する砦を、保存された『魚』の標本と各砦に残されているかもしれない資料を求めて、都から学者が派遣されたことは事実である。
そして、彼と共に各城砦を巡ることになった年老いた使者が、こうして海の正体を人々に話して聞かせる役割を担うことになったのだろう。
それに、どんな意味があるのかは、子供にはわからない。
ただ。
老いた使者は、あの青く果てしない水の世界も人間の生きる領域のひとつだった、とそう言ったけれど……それでもやはり子供には、そこは未だ冷徹な死以外に人間に齎すことなどない、化け物の棲み家としか思うことが出来なかった。
おそらく、他の人々とてそうだろう。
人が生きられるのはこの大地の上だけであり、海へ向かうことは、死が待ち受ける罠の張り巡らされた天敵の巣に、自ら赴くことと同義でしかない。
だから普段なら、子供は決して海へと落ち込む崖に近付いたりはしなかった。
けれど。
小さな儚い感触が、掌の中で微かに踊る。
時折、腰に括り付けた木筒から慎重に一滴の水を花の
急勾配の岩山や、彼の背丈よりもはるかに高い硬い草々の生い茂る丘を走り慣れている彼には、足を取られそうな長いシャムロックの茎も転がる小石も、全く意識に上ることさえない。
そんな、いつもの彼なら風のように駆け抜けてしまえる平坦な地であるというのに己の歩みが遅々として進まないことに、ちょっとだけ泣きそうになりながら子供は必死に歩き続ける。
小さな体が纏っているのは、両肩で縫い合わせ、脇を綴じただけの素朴な短衣に、胸と腹部を護る簡素な革鎧。
代々のクリートの子供に引き継がれるそれは、使い込まれた滑らかさと、数多の血によって深みを増した色合い、そして歴代のクリートの子供達の矜持と、彼自身の幼いながらのそれをも滲ませている。
剥き出しの脚には、脛を守るための革製の足甲を編みあげたサンダルの紐で巻き付け、両手首に同じ材質の籠手を巻いている。
幼い柔らかさを残す細い左腕に、その籠手の下から肘へと延びるように未だ赤く腫れあがったままの傷跡が一直線に走っていた。
この海岸沿いの城砦に暮らすクリートの子供達と同じように、鍛錬に明け暮れる生活に相応しい服装に身を包んだ子供は、懸命に歩き続ける。
その腰に佩かれた鞘は、残念ながら未だ短剣の物でしかない。まだまだ長剣に釣り合うほどには成長していない幼い体躯には、仕方のないことだ。
未だ長剣を許されない己の未熟さは……理屈ではわかっていても、子供自身にとって苛立ちにさえ似た歯痒さとなって、いつだって小さな胸を傷つけていた。
純粋に戦闘能力のみであれば、長剣を引き摺ることに成りかねないほどに幼かろうとも、彼のそれは人間の大人の身体能力を遥かに凌駕していることを、子供自身も知っているからだ。
外見こそ人間の子供と何等変わるところはなくとも、本来なら彼もまた戦えるだけの実力があり……実際に戦うことを経験してもいる。
それでも、たとえクリートであろうともその未熟さゆえに、子供は実戦に出ることを禁じられていた。
それが正当な制約であることは、もちろん子供にもわかっている。クリートが生まれ持つその天性の能力だけで、人々を、砦を護れるものではないからだ。奴らの攻撃を迎え撃つためには、まだまだ子供には学ばねばならないことが多かった。
それでも……未だ戦いに赴けない己の未熟さが、すでに実戦に出ている姉を護ることを許されない幼さが、子供には耐え難いほどに歯痒かった。
姉と共に在り、彼女を護ることで、ようやく自分の居るべき場所を得られると思っていたのに。大切で大好きな彼女のために自分が出来る、たったひとつのことなのに───。
儚い感触が、掌の上で踊る。
まるで食い縛るように固く唇を噛んで、子供は歩き続ける。シャムロックの緑に覆われた地平に城壁がようやく姿を現わし始めるのを、泣きそうな気配すら感じさせる大きな青い瞳でまっすぐに見つめながら。
四階分相当の高さの外壁の近くまで来ると、城砦の外で放牧されている牛や馬が、のんびりと草を食んでいた。
この辺りまで来れば所々に大きなエルムの木もあり、その下に牧童らしき男達の姿もある。城門が閉ざされる夕暮れまでは、それらの家畜を砦内に連れ帰る役割を持つ彼らも、見張りを続ける以外に仕事らしい仕事はないのだから長閑なものである。
牛や馬を狙うような獣は、トゥレル山脈からこちらへは滅多に現れないため、ごく稀に迷子になりそうな家畜を追う以外に実質的に仕事がないからだ。
だから、本来ならそれは子供に割り当てられるべき仕事であるのかもしれない。少なくとも、彼が生まれた村ではそうだった。
しかし、この地には人間の子供が圧倒的に少ないせいもあるのだろう。そうした仕事も、大の大人達が受け持っていたのである。
城砦に暮らす住人は、七千人に欠けるほどしかいない。
この城砦の───この付近一帯の領主であり、国と海との境界を護るセルヴ侯家とその家臣、そしてセルヴ侯の直属下に置かれたクリートを除けば、残り五分の一近くの人間は国中から三年ごとに交代でこの地に徴用された労働者達だった。
城壁の外に広がる農地を耕す者、家畜の世話をする者、城や砦内の家々を修復する大工や石工、日常生活に必要とされる様々な道具を作る職人などが、この国の防衛を担っている海沿いの各城砦の住人の生活を支えるために、国中から駆り出されて来ているのだ。
都と城砦とを往復する商人を別にすれば、義務である三年間の徴用に服する人々は、殆どが三十代の働き盛りの世代だった。すでに育てた子供も十代を越えて、奉公に上がらせたり、職人に弟子入りさせたりした後の世代である。
もちろん幼い子供を連れて赴任してくる家族もいるが、その数はほんの一握りにすぎない。
城砦にまで危険が及ぶことは滅多にないと承知していても、それでも義務とはいえ戦場に近い地にまで己の子供を連れてきたがる親はいないということなのだろう。
四十歳までに赴任が義務付けられている国民が、ようやくその義務を果たすべく地の果てへと赴くのがこの年代であるのも当然のことだった。
城砦内の数少ない子供は、三年という短い期間をもっぱら居住区での下働きに費やす。
クリートの子供と違って、親や周りの大人達が目の届く範囲に置きたがるためだ。あるいは、三年の任期の間に生まれた子供であるか。
いずれにしても城壁の外へと出されることは殆どなかったのである。
だから彼が見かける人々は、いつであれ大半が労働に従事している大人達のみであった。
そこここに葉を茂らせるエルムの木や、農夫達が雑草を抜いている畑の伸びやかな苗が、陽の光に柔らかな緑を輝かせている。鶏や牛馬の鳴き声が響き、手押し車を押す男や桶を運ぶ女、故郷を離れてもなお逞しく生きる大人達の姿が、今日も長閑でありながら穏やかな日常を作り出していた。
それは先の満月の夜をまた、無事に乗り越えることが出来たという平和の象徴でもあった。
見慣れた……少なくとも彼がこの城砦に来てから一度も損なわれたことのない日常の風景を、けれど一顧だにせず、子供は城砦の古びて大きな城壁を、その巨大な両開きの扉が開け放された城門を潜った。
いつもなら律儀に帰還の挨拶を投げかける子供が、彼らのことなど見えていないように必死な顔で足早に通り過ぎるのを、顔馴染みの青い瞳の門番達が苦笑して見送っていたことさえ、子供は気付かなかった。
三年ごとに入れ替わる領民や、入れ替わり立ち替わり城砦を訪れる商人を除けば……この地に根を下ろしている住人の数など高が知れている。
その中でも、数少ない同族に対して仲間意識が強いクリート同士ともなれば、互いに誰何の必要さえ全くありはしない。そのひとりが城門を出入りすることに、特別の手続きなど必要であるはずがなかった。
ましてや、内地の村から連れて来られた───心ない無知なる人々に傷つけられてきたであろうこの小さな子供に、城砦内のクリート達が向ける眼差しがとりわけ優しくなるのも道理であろう。
ようやくこの地に慣れ、明るい笑顔を見せるようになった子供が、無邪気に挨拶をしてこようと、何かに夢中になってこちらに気付くことさえなかろうと、彼らのその眼差しが変わることはなかったのである。
この地に生まれたわけではなく、他のクリートの子供達と違って物心つく頃から鍛錬を始めていたわけではない彼が、遅れを取り戻すべく生真面目に不足分を補おうと子供なりに努力していることを、誰もが知っていたからでもある。
素直な気性の子供が懸命に自らの役割を果たせるようになりたいと、割り当てられた仕事を終えると防具を外すこともせず、そのまま野山へと駆け出し自主的な鍛錬に明け暮れているのを、門番を始めとして誰もが温かく見守っていたのだ。
そのことに、彼を迎え入れてくれた同族達の温かさに、ようやく子供が気付くことが出来たのは、つい最近の事ではあるのだけれど。
城門を潜ると子供は、すぐに北の方向へと折れた。この城砦は、城壁上に歩廊を設えた低い外壁と、居住区画を護る四方に見張り塔を備えた高い内壁によって、堅固な護りを誇っている。
海から最も遠い内壁の西の奥に、いざとなれば城砦中の人間を全て収容出来る堅牢な切石積みの城を構え、その周りを宝物庫など公共の建物やセルヴ侯の家臣達が暮らす邸宅の並ぶ区画、クリートの居住する区画、労働者達の村が取り囲んでいる。
言うなれば、人々の生活圏がこの内壁の中にあったのだ。そして子供が歩を進める二重の城壁に挟まれた外郭部分は、厩舎や馬場、鍛錬のための広い訓練場のある南の区画と、武具の工房や武器庫、薬草の貯蔵庫などといった、国の守備を司るセルヴ侯やクリート達のために必要な物資の生産と管理に割り当てられた北の区画からなっていた。
平らな石を敷き詰めて地面を整備した北の区画の最も奥、他の建物から距離を置くように、ぽつりと建つ平たい建物が子供の目的地だった。
丸く囲い合わせた両の手と、道の先に見えてきた石造りの平屋の建物とに代わる代わる目をやりながら、子供は足を速めていく。
「───おじさん!」
ようやく開け放されたままの建物の戸口に辿り着いた時、だから彼の声には、紛れもない安堵と気を急かすような上擦った響きが溢れかえっていたのである。
炎の色に常に注意を払わねばならないため、中央の炉の周りに直射日光が届かぬように造られた石造りの建物は、防火の意味合いもあって彼らの厩舎ほどにも広さがある。
風通しをよくするために大きく切られた窓の傍にこそ光は入るが、どうしても建物の中央付近は薄暗くなる。だが、その中央に設えられた耐火煉瓦の炉の中で赤々と燃える炎によって、建物の中は熱気と共に明るく照らし出されていた。
剥き出しの土の床の上で、炎の照り返しに鈍く光る金床。
その傍らに、まるで放置されているかのような金箸やハンマー。炉からやや離れた場所に積まれた木炭と、黒く焼かれた藁や水で溶いた赤土が、いつでもその出番を待っているかのように用意されていた。
壁際に刃毀れした数本の剣と、ひびの入った金剛硝子の盾が立てかけられている。
筒型の炉に接続されたフイゴを動かす手を止めて顔をあげたのは、壮年の男だった。
がっしりした体躯の上にある角張った顔は赤く、白いものの混じり始めた髪や髭には汗がにじんでいる。クリートとは違って、その瞳は灰色だ。
「なんだ。クリートの坊主じゃねえか」
子供なら誰もが怯えてしまいそうな低いぶっきらぼうな声にも、子供は頓着しなかった。丸く手を囲い合わせたまま、足早に炉をまわりこむ。
そして男の目の前で、そっと手を開いた。
「───ほう。こりゃ、見かけねえ花だな」
小さな掌に乗っていたのは、さらに小さな、深い紫がかった青い花だった。
小さなベルのように奥行きを持ちながらも、五枚のしなやかな花弁は可憐な丸みを形作っている。通常の奥行きのある花のように、楕円形に近いすんなりした形状ではないことが、この小さな花をなおさらに愛らしいものにしているようだった。
「おじさん。これ封じられるよね!?」
常になく弾む子供の声に、男は唇を引き歪めた。
「なんだ、珍しい花を見せびらかしに来たんじゃねえのか」
子供の意図などわかりきっていながら、そらっとぼける口調は、もちろん彼をからかってのことだ。そのぐらいの事は気付いていても、子供は焦燥感で今にも地団太を踏みそうだった。
熱い小屋の中に入って、ますます柔らかな花弁が生命力を失ったように、掌の上で萎れていくような気がして、呑気に話をしているような気分ではなかったのだ。
「出来るよね!?」
日頃は大人しい子供の必死な声に、男は肩を竦めた。大儀そうに立ち上がり、奥の壁に造りつけられた棚へと歩み寄る。そして木で造られた扉の、複雑な形をした閂を、ひとつひとつ丁寧に外していった。
金具の軋む音を響かせながら、扉が開かれる。
無骨な掌が細心の注意を払って取り出したのは、男の掌ほどの硝子の瓶だった。透明な液体が、その中でゆらゆらと揺れている。
「それで? そんなちっこい花を封じて、何を作って欲しいんだ?」
「首飾り!」
打てば響くような勢いで答えた子供に、男は虚を突かれたように目を丸くして振り向いた。
「首飾りぃ!? おまえさんがそんな物どうするんだ?
俺はてっきり、いつものように宝物庫に持っていくもんだと思っとったぞ?」
「姉さんにあげるんだ!」
幼い面差しが、嬉しそうに輝いた。
「姉さんの瞳と、同じ色でしょ? きっと、すごく似合うよ!」
「アレシアの?」
満面の笑顔で頷く子供に、男は目を瞬かせた。そしてふいに、眉根を寄せる。
手にしていた液体が半ばほどまで入った瓶を棚の前の台の上に置くと、今度は打って変わってぞんざいな手つきで、棚から幾つかの金属の器を取り出した。男の小指の先ほどの小さな球状の器、子供の掌ほどの四角い箱状の器、男の指先に摘ままれるとその半分ほどが隠れてしまうような円錐の器……。形も大きさもばらばらなそれらを硝子壜の横に無造作に並べると、男は子供を手招いた。
足早に、それでも腕を揺らさないように注意しながら近付いた子供に、手の中の花を台の上に置くよう手振りで示す。
そして、低く問い掛けた。
「……どこで見つけた?」
ぴたり、と子供が口を噤んだ。それまでの明るいまっすぐな眼差しが、一転して気まずげにうろうろと泳ぎだす。
その様子を、目を眇めたまま男は見下ろしていた。
「グラウ?」
「………」
「……花が萎れちまうから小言は後にしといてやるが、言わねえと、お屋形様には俺から報告しなくちゃなんねえぞ?」
無骨な指先が、慎重に球状の器に小さな花を入れる。瓶の中の液体をそっと注ぎ入れ蓋を締めるのを見届けて、子供はやっと安心したように肩から力を抜いた。
そして、ばつが悪そうに小さな声でぽつり、と白状する。
「……東の崖」
次の瞬間、男の岩のように固い拳が子供の小麦色の髪に覆われた小さな頭に振り下ろされた。
「馬鹿野郎! 禁足地にわざわざ踏み込む奴があるか! 死にてえのかっ」
容赦なく殴られて前へとつんのめった小さな体が、弾かれたように身を起こした。
「怒るのは後だって、言ったじゃないか!」
「小言は後だって言ったんだ!」
険しい顔で怒鳴りつけた男の目が、けれど一瞬だけ笑ったことに、子供は気付かなかった。
常であれば、大人しく従順であろうとし続ける子供が久しぶりに見せた、生来のきかん気そうな素直な反発の表情と馬鹿をやらかしたその理由を、男が面白がっていることに、まだ小さな子供が気付くことはなかったのである。
「女のために無茶をやるなんざ、いっぱしの男みてえな真似しやがって」
しかつめらしく唸りながら、器を持って男が炉の前へと歩いていく。
それ以上男に怒るつもりがないらしいことを悟った子供は、慌ててその後を追った。
「アレシアにやりたいからって、たったひとりで、素手で崖を降りやがったのか?」
どっかりと炉の前に腰を下ろして、男が問いかける。
男の邪魔にならないように、その背後に立ち止まった子供は、僅かに逡巡した後、頷いた。そして、躊躇いがちに口を開く。
「……うん。あの……えっと、姉さんには言わないでくれる? おじさん」
「何言ってやがる。叱られるのが怖いぐらいなら、そもそもそんな馬鹿な真似をするんじゃねえ」
「違うよ! そうじゃなくて……そうじゃなくて、そんなことがわかったら……姉さん怒って「いらない」って受け取ってくれないかもしれない……」
だんだんと言葉が小さくなっていく子供に、男は首を巡らせた。
悄気たように眉を下げている、本当に受け取ってもらえなくなることだけを心配している子供に、呆れたように口角を下げる。そして、しみじみと呟いた。
「……おまえ、本物の馬鹿だろう」
城砦には、早春にだけ岩山に芽吹く貴重な薬草を採りに行く薬師のために、険しい岩肌を登るための、杖の先に先端を鋭く尖らせた鋼鉄の金具をつけた用具がある。それを造ったのも、その管理を任されているのも、この男だった。
本来は金剛薬を扱う一介の技術者に過ぎなかった彼が、派遣されたこの地を護る一助となるために鍛冶の仕事を覚えたのは、もう何十年も昔のことだ。
クリートの女性を伴侶に選び、この地に一生を捧げる覚悟を決めた彼は……妻を亡くした後も、この城砦の、人々の、この国の守護の一端を裏から支え続けている。クリートのための長剣や金剛硝子の盾はもちろんのこと、日常生活に必要とされる細々とした用具すら何でも取り扱い、黙々と改良を重ねる男は、今では城砦中の人々の絶大なる信頼を得ていた。
一日の殆どをクリート達と共に防衛基地であるこの外郭部に詰めている彼は、いつしかそうした用具を造ることに限らず、その管理すらをも請け負うようになっていたのである。
その彼の管理する用具に持ち出された形跡がない以上、子供がそうした用具すら使わず素手で崖を伝い降りたことは、男にとって明白な事実でしかない。
そして、そんなことを件の少女が知れば───万が一にも手を滑らせたり、あるいは掴んでいる岩肌がほんの僅かに崩れただけで確実に生命がなくなると明らかな崖に、たったひとりで子供が素手で降りていたと知れば。
勝ち気な少女が、弟の気持ちを嬉しいと感じるよりも先に、そんな無謀な行為に身を晒したことに烈火のごとく怒り出すのもまた、同じように明白な事実だと言えるのだ。
どんなに美しい花や飾りよりも、彼女にとっては弟になったばかりの小さな子供の方が遙かに大切なのは、火を見るより明らかだからだ。
呆れながら男が遠まわしに示唆したそのことを、もちろん子供はよくわかっていた。
自分が彼女に弟として愛されていること、心配されていることが、わからないはずなどなかった。アレシアが何に一番怒るのか───それでも。
偶然見下ろした絶壁に、ちらりとこの深い紫紺が見えた瞬間から、子供には他の一切が目に入らなくなっていたのだ。
姉さんに、あの花を渡したい。
小さなささやかな贈り物だけれど、きっと彼女は喜んでくれる。
危険に身を晒したことさえ知られなければ、アレシアの瞳と同じ色の愛らしい花に、きっと彼女は喜んで笑ってくれるだろう。
姉が愛してくれる自分自身の身を守ることの大切さは、わかっているつもりだった。
けれど、だからと何もせずにいることよりも、自分の手でアレシアにしてあげられることの方が、躊躇いさえも振り切れてしまえるほどに子供の気持ちを強く引き寄せたのだ。
彼にしてさえ、その絶壁を降りるのは至難の業だった。
掴んだ岩肌が、体重を掛けた瞬間に崩れ落ち、がくん、とバランスが崩れた刹那の───思わず視界に入った海原が大きく
片腕一本で、かろうじて地獄に転がり落ちることを阻めたこの身に、ぞっと湧き上がった竦むような震えを、忘れることは出来ない。
───なんで俺は、こんな馬鹿なことを。
本能に揺さぶられた心のどこかが、正気に返った刹那さえ、確かにあったのだ。
しかし、それは本当に一瞬のことだった。
尖った岩肌に擦られ薄く抉られて血の滲む腕から、再び眼下の紫紺に視線が流れる。
それだけで、その一瞬の本能的な動揺はあっというまに霧散してしまった。
姉である少女の笑顔だけが、子供の脳裏を過る。その温かさが、子供の手足に力を蘇らせた。
ただ、喜んでもらいたかったのだ。
他意のない純粋な気持ちに、我が身の危険すら二の次にしてしまった子供の単純ともいうべき素直さに、男はとうとう苦笑を浮かべた。
「───わかった。黙っててやる」
「ありがとう!」
ぱっ、と花が開くように無邪気な笑みが子供の顔に広がった。
やれやれ、と言いたげに男が金箸を取りあげ、器用に小さな球状の器を挟み込む。
慎重に炉の中に差し入れながら、からかいともぼやきともつかぬ口調で言った。
「店仕舞い前のひと仕事だな。この大きさなら、ちょうど鐘が鳴る頃あたりまでか」
「え!? もうそんな時間!?」
慌てて子供は、窓へと目を向けた。
大きな窓枠の下で剥き出しの地面が、長く伸びた薄紅の光に長方形に切り取られている。あと僅かほどで、精一杯伸ばし切った夕焼けの光は、ぷつり、と断ち切られるようにその光彩を失っていくだろう。
日没の鐘が鳴るのは……閉門の鐘が鳴るのは、その直後だ。
必死に歩き続けてきたとはいえ、花を気にして慎重に荒野を横断したことは、予想以上に時間を費やしていたらしい。
「ごめんなさい、おじさん」
男が帰宅前の火力の調整をしていたのだと今さらに気付いて、子供は悄然と肩を落とした。
一刻も早く摘み取った花を加工してもらいたくて、そんなことにも気が付かなかったのだ。
男が笑って上体を捻り、背後の子供の髪をくしゃくしゃと掻きまわした。
「なに、この大きさならすぐだ。
最初に火を強めさえすりゃ、あとは一晩、埋火の中で圧力をかけりゃいいだけだからな。
だが、こっちにも仕事がある。こいつが出来上るのは、早くても明後日だな」
取りに来るんだろう? と尋ねられて、子供は顔をあげた。
「うん! 皆には黙っててね。姉さんをびっくりさせたいから」
「おうよ。そら、そろそろ帰らねえと、メシを食いっぱぐれるぞ」
「うん。……ありがとう、おじさん!」
感謝と喜びのままに浮かんだ鮮やかな笑顔で男に礼を言うと、子供は急いで鍛冶場を駆け出した。
建物の裏手に当たる高い内壁に、子供の影が長く伸びる。この向こうにあるクリートの居住区の中央の官舎───盟約院と呼ばれるクリート達の集合場所となる建物では、きっともうアレシアや仲間達が集まり始めているだろう。
彼が帰るまで食事を摂らずに待っていてくれる人達を思って、子供は力一杯大地を蹴る。
城砦を、石造りの家々や道を、行き交う人々を美しく染め上げる薄紅の光の中を、小さな子供は脇目もふらず、彼を待っていてくれる人達の下へと駆け抜けて行ったのだった。
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