アイギスロード

賀田 希道

第1話 プロローグ

 「なんでだよ、殷染……!」


 油と鉄が匂う重厚感あふれる格納庫で低い男の声が響いた。声には怒気がこもっており、少年の心情を端的に表わしていた。荒れ狂う彼に対して、怒声を向けられた本人は冷ややかな目で見つめ返す。


 「藤堂。俺はもう飽きたんだよ。これ以上やっても意味がない」

 「それは俺らの……俺とお前の歩いてきた道を否定するってことか!?」


 殷染と呼ばれた少年は藤堂と呼ばれた少年の問いに応えることはない。ただ瞑目し、静かにその場を立ち去ろうとした。藤堂はそんな殷染を止めようと一歩足を踏み出そうとする。

 だが、藤堂の手を彼の仲間の1人が止めた。解くことができるくらい弱い力で、振りほどこうと思えば振りほどけた。でも、藤堂にはその手を振りほどくことができなかった。


 「殷染!どうするんだよ、お前これから何をするんだ!」


 無数の仲間の双眼に見つめられながら、殷染は無言のままその場を去っていった。


 日本中のアイギス乗りが一度は憧れる『全国戦場杯』で相模原大学付属高校が大会初の三連覇を成し遂げた日の翌日の出来事だった。


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