碁笥の神様

翔鵜

プロローグ


 那智はレオタード姿でその男と対峙した。

「待て!」

 行く手を遮られ、月明かりに彼の顔が露になる。

 後ずさりする。レオタードの足元はバレーシューズ、軽やかに跳ぶ事が出来る。

「これは祖母、留美子の絵なの」

 そっと絵画を胸に抱く。やっと手に入れた、これでお婆様も天に召されるだろう。

「駄目だ、返してくれ」

 彼は那智に近づく。

「さようなら、蛍先生」

 彼女はひらりと彼をかわすと、ブロック塀に上り、その向こう側へ消えた。

「なぜ君なんだ……」

 蛍はその場に膝をついた。彼女は生まれて初めて愛しいと思った女性だった。




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