ベレトの実験

エスポワール

第1話

 神河優奈にはそれなりに友達が居た。でも皆家が遠くあまり遊べない。特にやりたい事が無かったので部活にも入っていない。バイトはしたいとは思っていたけど結局何もしないまま三年生になってしまった。学校に行き、たまに友達と寄り道をして家に帰る、そんな毎日を送っていた。

 その日もいつも通り学校に行き家に帰りいつも通り眠りについた。

___眼が覚めると、見た事のない真っ白な場所に居た。

どこだここ?周りを見渡すと、各角に扉があり周りには何人かの男性が寝ていた。その中に一人見知った顔があった。そこには幼馴染の九条一輝がいた。

「一輝?」

寝ている幼馴染の所まで行き、声を掛ける。

「ちょっ、一輝起きて!」

「・・・・・」

中々起きないのでビンタでもしてやろうかななどと考えていると一輝が目を覚ました。

・・・残念

「ん、、、あれ?優奈?」

「やっと起きた」

「ん、おはよ。」

一輝はまだ眠いのか小さく欠伸を漏らし目を擦っていた。

「・・・ここどこ?」

「うぇ?」

急に後ろから声が聞こえて声が裏返ってしまった。どうやら一輝を起こす声で他の人も眼が覚めたみたいだ。

「ん?あれ?そういえば、ここどこだ?何で優奈が居るんだ?」

一輝もやっとちゃんと眼が覚めたのか辺りを見回している。

「私も何が何だか、、、」

他の人も何も知らないようでしばらく沈黙が続いた。

「と、とりあえず自己紹介でもする?で、その後探索でもしてみない?」

沈黙を破ったのはメガネを掛けた背の高い人だった。

「そうですね。ここでじっとしてても意味ないですし。」

彼の意見に反対する人は誰も居なかった。

「じゃあ、僕から時計回りで良いかな?」

「はい。」

時計回りと聞いて隣を見る。右側には一輝、左側には例の男の人がいた。自分が最後なのを確認して前を向き直った。

「赤坂諦斗です。大学三年です。よろしくお願いします。」

「大学一年の白沢快斗です。よろしくお願いします。」

「大学二年、瀬川澪、です。」

「・・・高二、月宮楓斗です。」

「高校一年の香山優です。よろしくお願いします。」

「高校三年の九条一輝です。よろしくお願いします。」

「神河優奈です。高校三年です。よろしくお願いします。」

高校生4人に、大学生3人、か。

「よし、自己紹介も済んだ事だし探検しにいこっか。」

赤坂さんが指揮を取る。一番年上だからか頼りになるな。

「でもどうやっていきます?片っ端?」

白崎さんがそう言い周りを見渡した。____あれ?白崎さんだっけ?白川さん?

__そんなことを考えている間に話し合いが進み時計回りで順番に見ていく事になったようだ。

 

 最初の扉を開けると大きな机と食器棚、台所があった。

「ダイニングルームか、、、。」

赤坂さんが台所に近寄り冷蔵庫の中を確認している。

「何かあります?」

一輝も冷蔵庫を覗き込んだ。

「あ、結構入ってる。」

「これなら当分のうちは持ちそうだね。」

私も何があるのか見に行こうと足を進める。

「___うわっ」

近くにあった椅子に躓き前にいた月くんの背中にぶつかってしまう。

「ご、ごめんなさい。」

「__別に。」

月くんはそれだけ言うとそっぽを向いてしまった。

ぶつかった椅子を見る。机の周りに七脚の椅子があった。

「七脚?」

思わず疑問に思ったことが口から溢れる。

「どうかした?」

椅子を凝視していた私を不思議に思ったのか、そばに白沢?さんが歩み寄ってきた。

「あ、いえ、ちょっと椅子の数が気になって、、、」

「椅子?」

「はい。椅子の数と私達の数が一緒なんです。それに七脚って中途半端だなって思って。」

「確かに、、、」

「最初から俺たちを連れてくる気でいたってこと?」

いつの間にか他の人たちも近くに来ていた。

しばしの沈黙。

「___ま、とにかく別のとこも見に行こうよ。」

赤坂さんの言葉と共に部屋を出る。


 次の扉を開けるとそこには右側に三つ、突き当たりに一つ、扉があった。

「また扉?」

「とりあえず一つずつ見ていこっか。」

と言うことでとりあえず一番手前にあるドアを開ける。

中は勉強机、棚、ベットがあるだけの簡素な所だった。

「誰かの部屋?」

「でも誰かが生活していたって感じはしませんよね、、、。」

香山くんの言う通り生活感が無く誰かが生活をしていた感じではない。まるで引越しを終えて部屋に家具を置いた感じ。

「うわ〜、凄。雑誌がこんなに、、、。」

棚の中にはたくさんの雑誌が置いてあった。

___あれ?これって・・・

雑誌に載っている人物とここにいる人物を見比べる。

「・・・何か?」

「これって、、、月くん?」

思い切って本人に聞いてみる。

「月宮です。」

「え?」

「・・・僕の名前月宮です。」

「え?あっご、ごめんなさい!私人の名前覚えるの苦手で、、、。」

月宮くんか、、、月宮月宮月宮、、、よし、覚えた!多分

「・・・・もしかして僕のこと知りませんでした?」

「え?いや自己紹介してすぐは覚えてたんだけど、、、」

「そうじゃなくて、僕がアイドルだってこと。」

「アイドル?」

アイドル、、、月宮くんが?

手に持っている雑誌を見ると「今をときめくアイドル特集」と書かれていた。

「本気で知らなかったんですね、、、。」

「えと、私あんまりアイドルとか興味なくて、、、テレビ自体あんまり見ないし、、、。」

決して月宮くんが有名じゃないとかではなくてなどと言い訳のような言葉を並べる。

「なるほど、、、。」


 その後部屋の隅々まで見て回ったが奥にお呂場を見つけたこと以外特に目ぼしい事はなかった。そのまま部屋を出ようとした時足元に写真のようなものが落ちているのを見つけた。拾ってみると二人の男の人が写ってている写真だった。

「あれ?これって、、、」

「ん?優奈?どうかしたか?」

「これ、足元に落ちてた。」

写真が見えるようにみんなの方に向ける。

「あれ?三笠さんと真矢さんの写真?」

一番最初に反応したのは月宮くんだった。

「月宮くんの知り合い?」

「知り合い、というか同じグループのメンバーです。」

「グループ?」

「月宮の所属してるアイドルグループ、「暁」のことだよ。」

一輝が近くまで来て教えてくれた。

「え!アイドル!?」

「そ、右側に写ってるのが香月三笠さんで左が神谷真矢さん。」

「そ、そうなんだ、、、。」

「・・・なんか僕の時と違いすぎない?」

ギクっ

「え〜、何が?」

「僕がアイドルって知った時と今と全然反応が違うじゃないですか。僕の時は反応薄かったけど僕ってそんなにアイドルに見えませんか?」

上目遣いで見つめられ思わず目を逸らしてしまった。

「ソンナコトナイヨ。」

か、可愛い。何その顔、、、なんかもう一人弟ができたみたい。

「カタコトになってるじゃん。優奈可愛い系好きだもんな。」

「え?」

「うん。弟に欲しい。」

「って、弟にかいっ!」

今まで話を聞いていた白崎さんが急に話に入ってきた。__いや別に悪いわけじゃないけどね。

「?そうですけど、、、?」

「そうですよね知ってました。と言うか変なこと聞いてすいません。」

なぜか月宮くんは少し早口で言った。

「ううん。」

「あれ?顔が赤いけどどうしたの?もしかして楓斗くん可愛い系が好きって言われてちょっと期待しちゃった?」

「〜〜〜!な、何言って、と言うか期待って今日初めて会った人に対して何を期待するんですか?」

「だってお前最初神河さんのこと警戒してただろ?いつ話しかけてくんだとかおもってただろ?でも神河さんは楓斗のことを全く知らなかった。」

「あっ『おもしれー女』ってやつですか!?」

なぜか香山くんが目をキラキラさせていた。そう言うの好きなのかな?

でも残念ながらそう言うのじゃないと思うよ。

「そんなんじゃないから!」

ほら

「はいはい月宮くんを揶揄うのはそれくらいにして次行こう。」

「はーい。」


 部屋を出る前に「さっきは言えなかったけどアイドル自体にピンとこなかっただけで、アイドルだって聞いて納得するぐらいかっこいいよ。だから安心して?」ときちんと月宮くんにフォローを入れておいた。




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