第61話 対談
それから暫く、俺とアリエルさん、エリックくんの3人で話を続けた。この森の事とか、周りにある大国の事とか、魔物に対する人間が持つ印象とか、そういった情報をいただけた事は有難かった。それらの話の中で、魔物が少しは認められている国、つまりは従魔士という魔物を使役して共闘するテイマーみたいな存在がある国について聞く事が出来た。
この森──『回生の森』というらしい───を囲むように3つの大国があるのだが、その内の2つ、アリエルさん達が属する『アヴリーラ』とその隣にある『ニルディア』という大国には従魔士が存在している。もう1つの『ラクドーゼ』という国には従魔士が存在していない、それどころか魔物はその国で興っている宗教の神敵とされ、見つけ次第即討伐が義務付けられているらしい。例え小さな魔物でも、敵わない大きな魔物でも、その宗教は確実に討伐しようとするのだとか。また、スライムという甘味も食せないのだとか。
もし俺が行くとしたら従魔士がある2国だろう。テイムされたい身として従魔士が存在しない、魔物は潰せみたいな国に行く理由が無い。
その話を聞いた上で、俺が従魔になりたいのかどうか訊ねられた。彼女らは俺が通常の『シャドウウルフ』と比べて並外れた実力を持っている事に気付いていたらしい。アリエルさんは勘だと言い、エリックくんは魔力で分かった、と。
すげぇな、勘。と素直に驚いたのも無理はない。俺が力を有していると知っていたにも関わらず、モフモフしてきたのも勘が反撃しないと告げたらしい。すげぇな、勘。
それで、俺は従魔になるつもりだ、と答えたら心底驚かれた。そこまで驚くか、という具合に驚かれた。まさか『シャドウウルフ』は従魔に向かないのか、と疑ってしまった。...本当はスライムだけれども。
話を聞けば、俺のような高い知能──他の魔物比べてな──を持つ魔物はもれなく従魔にはならないようだ。そういった魔物は基本的に他の魔物を従える立場に在るのだとか。知能を持てばそれだけで戦闘能力が上がる。これは俺もよく分かる。本家『シャドウウルフ』よりも俺が擬態する
するとどうだろう。彼等は何者かの下に付く事を嫌うようになるのだ。従魔というのは上司と部下の関係ではない。極端に悪く言えば人間の奴隷となる。そんなものに成りたいと思うのは、相当なメリットがある場合だけ。そんなメリットなんて殆ど無い。そういう理由で知能を有する魔物は使役されないとの事。
使役の仕方にも多分の原因があるらしい。ほぼ一方的な形で成り立つらしく、詳細は知らないらしいがこんな感じ、という方法を教えてくれた。
1、使役したい魔物との接触。
2、消耗させる。(自分の方が強いのだと証明する為だとか)
3、従魔としての契約を行う。(ここで拒否されたら2へ戻る)
こんな具合。知能を持つ魔物は『使役されるくらいなら死んでやる』みたいな思考で拒否し続けるのだろうか。それとも、使役されそうだと察して逃げるのだろうか。アリエルさん曰く、「そういった魔物は単体行動をしない。群れのリーダーとして動くのが大半だ」との事。納得しました。
これらの話を聞いて、確かに俺は異常だなぁ、と思う。狼系の魔物は群れを成すし、知能を持つなら単体行動という危険な真似はしないし、あまつさえ従魔になぞ進んでならない。知能を持ち、実力が無いならその話も納得出来るが、俺にはそこそこの力がある。これは、何か陰謀でもあるのかと疑いたいレベルだ。
これが俺の夢なの!と言っても信じて貰えないだろうし、何も弁明とかしないけどね。知能があるなら嘘も付ける。行動で示さねばならないだろうって事さ。
「シャウルさん、なら俺と契約しないっすか。たまたまですが《使役》を持って──」
『ぃやだ』
「──るんすけど、即答っすか...」
エリックくんがほざく言葉に重ねるように言葉を返す。男はダメ、主とするなら女性じゃないと。男に命令された暁にはウザくなって手を上げそうで。ほら、女の子とかに「お願い!」とか言われたらさ、やる気も出るし敵への殺る気も出るし?ストレスもあんまり無さそうじゃん。もちろん、女性の中でも真面目だとか優しいだとか、そこらは見て選ぶさ。
「ははは、シャウル殿が仲間になってくれると言うなら心強いのだがなぁ」
『ダメダメ、俺がご主人様と認めるのは女性限定だね』
やれやれと言った風に率直な理由を述べれば、肩を落としていたエリックくんが、ばっと振り向いて口を開いた。
「はーっ!そんな理由だったんすか!ちょっと落ち込んだ自分がバカみたいっすよ!」
『あぁ?
「そこに否定はないっすけど!......知能を持った魔物って、結局そういう事しか考えないんすか!?」
『あぁ!?違ぇよっ!』
「いーや違わないっすよ!さっき副隊長に撫でられて、天に昇りそうなくらい幸せな表情だったじゃないっすか!今も嬉しそうに尻尾が揺れてんすよ!抑えようとしたってバレバレなんすから!証拠は上がってんすよ!」
『そ、それは初めての感覚だったからで......!慣れたらそんな顔には──』
「ほら、結局それが狙いなんすよね──」
キャンキャンと同じイヌ科同士で吠え合った。まさに噛みつかんばかりに言い合った。アリエルさんに撫でられていなければ俺は飛びかかっていただろう。野郎め、命拾いしたな!
「──シャウル殿は男、なのか......?」
ただ、アリエルさんが呟いた言葉はエリックくんとの口論で掻き消えて聞こえなかった。
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